アメリカのトランプ大統領が日米同盟は不公平だと繰り返し発言している。また、トランプ政権は、日本政府がGDP比3%に防衛費を引き上げるべきだと主張もしている。
台湾有事を見据え、日本は安全保障をどう考えるべきか。「BSフジLIVE プライムニュース」では政治家・識者を迎え議論した。
いかにトランプ大統領の誤解を解き納得させるか
竹俣紅キャスター:
トランプ大統領は「アメリカは日本を守るが日本は我々を守る必要がない。貿易協定も同じだ」と、日米安保を持ち出し、不公平だと主張。関税交渉のディールの材料として持ち出したという見方もある。

ケビン・メア 元アメリカ国務省日本部長:
2022年に日本は今の安全保障戦略を決め、5年間の防衛整備計画では日米の合同作戦も可能になる。それらを大統領が理解すれば考えは変わると思う。
長島昭久 首相補佐官:
通商と安全保障は本来切り分けるべきで邪道と感じる。時代感覚にも合わないが、ディールとして譲歩を迫る作戦なのだろう。だが、かつて自衛隊はアメリカと肩を並べて行動することが難しかったが、2015年の安倍政権下での平和安全法制以来、日本を守るために日米が一緒に行動することがあらゆる局面で可能になっている。

梅津弥英子キャスター:
石破総理は「日本はアメリカに基地を提供する義務を負っている。一方的にアメリカが日本を守っている関係ではない」としている。納得させるために必要な説明は。
森本敏 元防衛大臣:
第1期政権からトランプ氏の考えは一貫している。アメリカの協力に依存してここまできた同盟国は、しかるべき方法でアメリカに返せという論理。何と言おうと考え方は変わらないと思う。
ケビン・メア 元アメリカ国務省日本部長:
石破総理がトランプ氏に今度会うとき、中国が危機を起こしたら日本はアメリカとの合同作戦で対処する覚悟があると明確に言ったほうがいい。

梅津弥英子キャスター:
トランプ大統領の要求は日本の防衛予算増額か、アメリカからの防衛装備品購入を増やすことか、日本の防衛能力の向上か。
ケビン・メア 元アメリカ国務省日本部長:
日本の防衛能力の向上が最も重要。中国に対して日本も独自のネットワークを作る必要がある。日米、フィリピン、できれば韓国も含めたネットワークで中国を抑止する。抑止できなければ戦うことになるが、勝てると思う。だがそのためにはもちろん防衛予算を増やす必要があり、その中でアメリカから防衛装備品を購入することは自然。

竹俣紅キャスター:
コルビー国防次官は「日本はできるだけ早期に防衛費をGDP比3%に引き上げるべき」と主張。石破総理は「日本の防衛費は日本が決める。他国に言われて決めるものではない」としている。日本は2022年に防衛費増額を検討し、2027年度には関係省庁の予算含め2022年のGDP約560兆円の2%にあたる11兆円とすることを目指している。
長島昭久 首相補佐官:
コルビーさんは3%とずっと言って来られた。まず、総理が言われた通り、日本の防衛予算は日本が主体的に判断して決めること。次に、防衛能力向上のために必要なものを積み上げた結果数字になるのであり、最初に数字ありきではないと説明すること。さらに、2月の首脳会談で出した日米首脳共同声明では、日本が引き続き抜本的な防衛力強化にコミットすると決めている。環境が悪くなれば当然数字は上がっていく。

ケビン・メア 元アメリカ国務省日本部長:
ヘグセス国防長官が中谷防衛相と会談したが、数字を出して公に外圧をかけるのは政治的によくないと彼もわかっている。数字の話は少し静かになりそう。
森本敏 元防衛大臣:
国際情勢がこれほど変化しているのだから、5年計画ではなく次の目標を設定して新しい防衛力整備計画を作るべき。重要なのは、日本の防衛力だけでなくアメリカとの関係において抑止力向上のために防衛費を使うこと。新しい司令部をアメリカが作る、日米で共同して使えるような無人機の基地を作る、装備品などいろいろな共同開発といったこと。それが次の防衛力整備計画の大きな眼目だと思う。

梅津弥英子キャスター:
在日米軍駐留経費の日本側の負担、いわゆる「おもいやり予算」について、トランプ大統領は「何千億ドルも支払って日本を防衛しているが日本は私達を守る必要がない。アメリカが全額を負担し、日本は何も払わない」と誤解した発言。
森本敏 元防衛大臣:
沖縄の米軍基地には私有地も多く、日本は地主さんに使用料を払っている。米軍が2万4000人ほど雇用している日本人の人件費も。日本政府は払うべきものを払っており、これ以上は無理。この発言は全く合理的でない。

長島昭久 首相補佐官:
光熱水費や施設改修費、訓練移転時の経費なども出している。これ以上日本が負担するなら米兵の給料を出す話になり、それでは傭兵になってしまうと説明すること。それはアメリカもプライドが許さないはず。
中国の台湾侵攻は“リハーサル“の段階に
竹俣紅キャスター:
中国軍は4月1日から2日連続で演習を行った。台湾国防部は1日、台湾を取り囲むように中国軍の艦艇13隻、海警局の船4隻が活動したことを確認したと発表。翌2日も中国軍機36機を確認し、うち20機が台湾海峡の中間線を越え防空識別圏に入ったなどとした。

長島昭久 首相補佐官:
2022年8月に当時のペロシ米下院議長が訪台して以来、軍事演習が非常に活発化しエスカレートしている。最近は事前予告なしに始め、終わっても発表しない。インド太平洋軍のパパロ司令官は「これはトレーニングではなくリハーサルだ」と発言。アメリカからそれなりの反応がないと中国を勘違いさせてしまう。
梅津弥英子キャスター:
2021年、当時のデービッドソン・インド太平洋軍司令官は「脅威は実際には今後6年のうちに明らかになると思う」と発言。アメリカ国内でのとらえられ方は。

ケビン・メア 元アメリカ国務省日本部長:
日本と同じ。中国には台湾を攻撃する能力が十分にあり、準備しているという考え。演習の目的は台湾と日本への威嚇であり、深刻な問題。アメリカでも、台湾有事は具体的な目前の脅威と認識すべきだと言われている。
森本敏 元防衛大臣:
パパロ発言と同日、国防次官補が「トランプ大統領は自分の任期中は中国が台湾を攻撃することはないと言っている」と発言。アメリカはその間に、集中的かつ緊急にインド太平洋における中国の侵略に対する抑止機能強化に取り組まなければいけないということ。2027年までにというアメリカの考えは変わっていない。日本の防衛計画がそれに見合ったものになるかが問われる。
反撃能力から住民避難まで日本の態勢強化も急務
竹俣紅キャスター:
防衛省は3月24日、自衛隊の地対艦ミサイル部隊を新たに大分の湯布院駐屯地に発足させた。この狙いは。

長島昭久 首相補佐官:
かつてはソ連の脅威に対して北海道に戦力を集中していたが、この十数年で徐々に南西方面にシフトしている。相手が攻めてきたとき上陸させず洋上で阻止するということ。
森本敏 元防衛大臣:
ある国が沖縄の南西方面の島に攻撃するとき、確実に反撃できる射程距離がなければならないため、抑止力として相手の兵器と同等のミサイルを開発している。今までは反撃力がなくこちらだけが攻撃を受ける状態だったが、反撃できるようにしたということ。
ケビン・メア 元アメリカ国務省日本部長:
アメリカは日本の反撃能力を歓迎している。ミサイルはできるだけ多く作る必要があり、また多様性が必要。例えばトラックに載せられる機動性のある陸上からの発射台なども南西諸島に配備すればすごく抑止力が上がる。

竹俣紅キャスター:
3月24日、統合作戦司令部が防衛省に常設組織として設けられた。役割は陸海空全自衛隊の作戦指揮で、平時は訓練や災害派遣、外国機に対するスクランブル対応などを行い、有事の際は反撃能力の運用を担う。また米軍や同志国軍との連携を一層強化する。
長島昭久 首相補佐官:
日本とアメリカは、米韓やNATO軍のように連合軍として指揮命令系統が一本になっているのではなく、指揮系統が並列。調整をしっかりやらなければ有事に使えない。日本は3.11のときの災害復旧の経験から今度の統合作戦司令官を作り、だいぶ指揮系統が整理された。一方アメリカも従来は何か起こったときに集まるようなやり方だった。そこで、平素からともに作戦司令部を作り、意思疎通、訓練、政策調整ができる体制を作るという動き。
森本敏 元防衛大臣:
アメリカ側の手続きが難しく、これを待っている状態。だが最初の段階として司令部の要員を東京・六本木の米軍施設に置いた。これが徐々に大きくなり、日本の統合作戦司令部のカウンターパートとなる。

竹俣紅キャスター:
3月24日、自衛隊は海上輸送群を発足させた。南西諸島の防衛力、機動展開能力の向上を目指した陸海空自衛隊による共同部隊、うち9割が陸上自衛隊員。
長島昭久 首相補佐官:
最も重い陸上自衛隊の部隊の移動を機動的にするための構想。先島諸島だけで11万人もの方がいる。台湾有事では、こうした戦闘区域になりかねない地域の方々を避難させる。そこで、場合によってはこの海上輸送群を活用する。

森本敏 元防衛大臣:
飛行場もある沖縄本島と異なり、先島諸島では政府が手当をしないと方法がない。そこで、計画を作り、皆さんに訓練に協力してもらっている。一人ずつでもなんとか避難して安全を図ろうという努力を日頃からしておられる。
長島昭久 首相補佐官:
与那国島を視察したが、町長さんは数百人の住民の皆さんの誰が要介護で有事の際の避難に時間がかかるか等を把握されている。そういうところから準備しなければ被害を抑えることはできない。これは本当に勉強になった。
(「BSフジLIVE プライムニュース」4月15日放送)