トランプ政権が2025年1月20日に発足して以来、3ヶ月が経過した。この期間において、トランプ大統領の対日政策は二面的な様相を呈している。
一方では、経済・貿易面での圧力を強める姿勢が明確であり、他方では安全保障における協調を重視する態度が見られる。
この二つの顔は、トランプ政権の基本理念である「アメリカ・ファースト」と、それに基づく経済的自衛権の追求、そして世界最強国としての地位維持という戦略に根ざしている。本稿では、これらの観点からトランプ政権の対日政策を見ていきたい。
経済・貿易面での圧力:経済的自衛権の行使
トランプ大統領は、米国が自由貿易や経済のグローバル化によって長年にわたり外国から経済的搾取を受け、経済的侵略に晒されてきたと認識している。

この認識は、彼の選挙戦での主張や政策綱領に一貫して表れている。特に、日本や中国、欧州連合(EU)といった主要貿易相手国との間で生じる巨額の貿易赤字は、米国経済の弱体化を象徴するものと見なされている。例えば、2024年の統計によれば、米国の対日貿易赤字は年間約685億ドルに達しており、これはトランプ政権にとって看過できない課題である。

こうした状況を打破するため、トランプ政権は貿易赤字の是正を最優先課題とし、経済的自衛権として関税政策を積極的に活用する方針を採用している。
具体的には、日本からの輸入品、特に自動車や電子機器に対して高い関税を課す可能性が示唆されている。これは、2018年から2020年の第1次トランプ政権時にも見られた手法であり、当時も日本製自動車への25%関税が検討された経緯がある。
2025年3月には、商務省が新たな関税案を発表し、日本企業に対する経済的圧力を一段と強める動きが顕著である。
この経済・貿易面での圧力は、日本にとって大きな試練である。
日本経済は輸出主導型であり、米国市場はその主要な輸出先である。2024年のデータによれば、日本の対米輸出は総輸出額の約20%を占めており、特に自動車産業は米国への依存度が高い。
関税引き上げによって、日本企業の収益は打撃を受け、国内経済全体に波及する可能性があろう。さらに、トランプ政権は二国間貿易協定の見直しを迫る姿勢を示しており、日米貿易協定(2020年発効)の再交渉を求める声も高まっている。
これにより、日本は米国との経済関係において従属的な立場を強いられる懸念が生じている。

トランプ大統領の経済政策は、単なる保護主義にとどまらない。
彼の視点では、グローバル化によって米国の中産階級が仕事を失い、製造業が衰退したことが問題の核心である。したがって、日本への圧力は、米国内の雇用創出と産業復興を目的とした戦略の一環と位置づけられる。
この点で、日本が同盟国であるにもかかわらず、経済・貿易面での厳しい対応を受けるのは、トランプ政権のイデオロギーが国家間の友情よりも自国利益を優先する結果である。
安全保障における協調:中国抑止のための同盟強化
一方で、トランプ政権は安全保障面において、日本との協調を重視する姿勢を示している。

これは、米国が世界最強国としての地位を維持し、特に中国に対する政治的・経済的・軍事的優位性を確保するという戦略に基づいている。
中国の台頭は、トランプ政権にとって最大の地政学的脅威であり、その抑止にはインド太平洋地域における同盟国の協力が不可欠である。この文脈において、日本は地理的にも戦略的にも極めて重要なパートナーと認識されている。

トランプ大統領は、発足直後の2025年2月に日本の石破首相と首脳会談を行い、日米同盟の強化を再確認した。
この会談では、中国の海洋進出や北朝鮮のミサイル開発への対応が主要議題となり、両国は共同軍事演習の拡大や情報共有の深化で合意した。特に、南シナ海や東シナ海における中国の活動に対抗するため、日米間の防衛協力が一層強化される方向性が示された。さらに、トランプ政権は日本に対し、防衛費の増額や米国製兵器の追加購入を求める一方で、在日米軍の駐留経費負担についても従来以上の協力を要求している。
この安全保障面での協調は、日本にはメリットをもたらす。
中国の軍事的圧力が高まる中、米国との同盟関係は日本の安全保障を支える基盤である。トランプ政権が日本を「不可欠なパートナー」と位置づけることで、日米間の軍事連携はより強固なものとなり、地域の安定に寄与する可能性がある。
しかし、米国からの防衛負担増の要求は、日本にとって財政的な重荷となり得る。2025年度の日本の防衛予算は既に過去最高を更新しているが、トランプ政権の期待に応えるにはさらなる増額が必要となるかもしれない。
二つの顔の背後にある論理と矛盾
トランプ政権の対日政策における経済・貿易面での圧力と安全保障面での協調は、一見すると相反するように見える。

しかし、これらは「アメリカ・ファースト」の理念を異なる角度から具現化したものであり、根底には一貫性がある。経済的には、米国が外国からの搾取を防ぎ、自国産業を保護することが最優先とされる一方、安全保障では、米国の覇権を維持するために同盟国の協力が求められる。
日本に対する二つの顔は、この二重の目的を達成するための戦略的使い分けである。
ただし、この二面性は日米関係に潜在的な緊張をもたらす可能性も排除はできない。
経済・貿易面での圧力が長期的に強まれば、日本国内でも一部で反米感情が高まる可能性があり、それが日米間の安全保障協力にとって1つの阻害要因となるリスクもあり得よう。また、トランプ政権が日本を経済的には「競争相手」、安全保障では「同盟国」とみなす姿勢は、日本側に不信感を生むかもしれない。この矛盾を解消するには、両国間の対話と調整が不可欠である。

結論として、トランプ政権発足から3ヶ月が経過し、日本に対する二つの顔が明確に浮かび上がっている。
経済・貿易面では、関税政策や貿易協定の見直しを通じて圧力を強め、米国経済の自衛を図る一方、安全保障面では中国抑止のために日本との協調を深めようとしている。これらは、トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」の理念に基づくものであり、日本にとっては挑戦と機会の双方をもたらす。
日本は、この二面性を理解しつつ、経済的利益と安全保障のバランスを取るための賢明な対応が求められる。
今後の日米関係は、トランプ政権の政策展開と日本の戦略的判断に大きく左右されるであろう。
【執筆:株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO 和田大樹】