鹿児島・薩摩川内市の甑島は、ドラマや映画にもなった「Dr.コトー診療所」のモデルとなった診療所があることで知られる。実は恐竜や古代生物の貴重な化石が多く見つかっていることでも知られ、2025年4月1日、「甑ミュージアム」がオープンした。太古の時代を生きた恐竜の姿に出会える新たな施設として研究、観光の両面で期待が高まっている。
太古の世界へタイムスリップ
甑島は薩摩半島の西約30キロの東シナ海に位置し、南北約40キロにわたる断崖に囲まれた島だ。太古の時代、恐竜が多く生息したとされるユーラシア大陸と陸続きだったこの島には、恐竜が絶滅した白亜紀後期の約7000万年から8000万年前の地層が分布している。この地層から、二枚貝やアンモナイト、魚類などの海の生き物の化石に加え、恐竜やワニ、カメ、硬鱗魚、植物などの陸や淡水にすむ生き物の化石が多く見つかっている。

「甑ミュージアム」の館内では、全長10メートルを超える強化プラスチック製のレプリカ骨格標本が並ぶ。中でも注目なのは、島で発掘された2センチほどの歯の化石から近い種類の恐竜を特定して制作された、草食恐竜「竜脚類」の標本だ。圧倒的な存在感で訪れた人々の目を引く。

日本最後の恐竜の痕跡
2016年に上甑島で発見された長さ約70センチのハドロサウルス類の大腿骨は、恐竜が絶滅した白亜紀後期まで、いまの日本で恐竜が存在した地域があることを示す貴重な資料だ。

甑ミュージアム学芸員、山下大輔博士は「真ん中の上半分が甑島で見つかって、この骨は国内で見つかっている化石では一番絶滅期に近く、注目されている」と説明する。

海の支配者「海ワニ」の歯
2階の展示スペースでは、島内で採取された岩石や海の生き物など、多様な資料が展示されている。甑島の海底からは2018年、「海ワニ」(海生ワニ類)の歯も発見された。鋭い歯を持つこの海ワニの標本は、国内唯一の展示となっている。
山下博士は「海ワニは北米とドイツで発見されているが、日本でも化石が見つかり、当時の東アジア地域でも海ワニが泳ぎ回っていたのが分かる」と語る。

地域の期待と喜び
3月23日の内覧会には地元住民ら約200人が訪れ、施設の完成を祝った。地元住民からは、「うれしいです。観光客も増えたり、子供も学校の授業で来たり、いろいろな学びになればと思います」「甑島の鹿島出身なんで、こういった名物ができて良かった。恐竜の化石とか石が並んでいて、よくあれだけ集めましたね」と施設に期待する声が次々と上がった。

恐竜研究の最前線へ
甑島では2015年にミュージアムの前身となる準備室に専門の学芸員が配置され、国立科学博物館や熊本大学と合同で発掘調査を行ってきた。施設のオープンで、今後さらに島での新しい化石の発見や新種の解明が進むことが期待される。

山下博士は、「ここが恐竜研究の最前線という気持ちで発掘作業やクリーニング、研究を行っている。博物館で大地の成り立ちを知ってもらい、野外で風景や歴史、文化に気づいてもらえれば」と意気込みを語る。

訪れて体験する太古の世界
東シナ海に浮かぶ甑島で、太古の時代を生きた恐竜たちの姿に出会える「甑ミュージアム」は午前9時から午後5時までの開館で、入館料が必要だ(休館日:水曜日 ※水曜日が祝日の場合は次の平日)。詳細は公式ホームページで確認できる。
地域の歴史と自然が凝縮された「甑ミュージアム」は、島の新たな観光スポットとしても期待されている。太古の世界へのタイムスリップを体験しに、甑島を訪れてみてはいかがだろうか。
(鹿児島テレビ)