千葉・市原市の「防災ラジオ」とは?

災害が発生したとき、どのように情報収集するかを想定したことはあるだろうか。テレビやネット、SNSを思い浮かべる人もいるだろうが、千葉・市原市では、少し違う傾向がある。

「防災ラジオ」という、自治体が販売しているラジオの需要が高まっているというのだ。

この防災ラジオは、市原市が防災施策の一環として、2012年から発売しているもの。FM・AM放送に加えて、普通のラジオでは受診できない、市原市の防災行政無線を聞くことができる

市原市の防災ラジオ(提供:市原市)
市原市の防災ラジオ(提供:市原市)
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電源はコンセントのほか、乾電池にも対応しているため、停電などの非常時にも使用できるのが特徴だ。1つ2000円(税込み)で、ラジオとしても決して高くはない価格だ。

乾電池にも対応している(画像はイメージ)
乾電池にも対応している(画像はイメージ)

市原市によると、これまでの販売数は年間で100台程度だったが、直近の3年間は、年間約300台ほど(2018年:345台、2019年:353台、2020年:285台※9/9時点)に増えているという。2020年9月現在は在庫切れで、生産待ちの状態だともいう。

ここで気になるのは、なぜ、ネット全盛の時代にラジオなのか?ということ。SNSやスマホアプリなどでも災害情報は発信されるが、防災ラジオにしかないメリットなどはあるのだろうか。

千葉県は2019年の台風15号など、厳しい自然災害に見舞われているが、どのように役立てたいと考えているのだろうか。市原市の担当者に聞いた。

非常時の“強制割込機能”を搭載

ーー防災ラジオを開発、販売した経緯を教えて。

大きく2つの理由があります。一つは、市原市が広域であることです。災害情報は同報系防災行政無線(屋外スピーカー)の放送で伝えられますが、当市の場合はそれだと、市内すべての地域に情報を伝達することが難しい状況にありました。

もう一つは、雨風の強い時の屋内でも災害情報を伝えるためです。屋外スピーカーの放送は普段は聞こえても、台風などで雨戸を閉めたりすると聞き取りにくくなる可能性もあります。こうした環境でも、防災情報が分かるように有償で配布しています。

市原市の屋外スピーカー(提供:市原市)
市原市の屋外スピーカー(提供:市原市)

ーー普通のラジオとの違い、そのメリットは?

一般的なラジオでは受信できない、防災行政無線を受診できます。また、FM・AMラジオを聞いているときでも、防災行政無線の放送が流れたら、自動的に防災行政無線に切り替わる“強制割込機能”があるのも特徴です。音量も自動的にマックスとなるため、無線の電波が受信できる状況であれば、確実に防災情報を受け取ることができます

防災ラジオには「防災」スイッチがあり、ここをオンにすると、防災行政無線のみを受診する待機モードになります。こちらは、普段ラジオを使わない人向けの機能となります。

防災スイッチを入れると、防災行政無線のみを受診する(提供:市原市)
防災スイッチを入れると、防災行政無線のみを受診する(提供:市原市)

ーー市原市の防災行政無線放送では、どんな情報を伝えている?

避難勧告などの災害情報、気象情報、行方不明者情報、大気汚染情報、不審者などの防犯情報、全国瞬時警報システム(J-ALERT)を介した緊急情報などを発信しております。

日常の情報収集手段が使えない可能性も

ーー災害時の情報収集手段にはネットやSNSなどもある。なぜラジオ?

一つは乾電池でも稼働するため、停電時に使えること。もう一つはインターネット回線が遮断されている状況でも使える可能性があることです。実際の過去の災害では、携帯電話の通信環境が圏外となることがありました。

防災ラジオはネット回線を使わないので、そうした状況でも情報を取得できます。無線局が倒壊したりすれば使えなくなる可能性はありますが、市原市の場合は無線局は市役所にあり、予備電源なども備えているので、市役所が倒壊などをしなければ大丈夫だと思われます。

ーー防災ラジオの需要が高まっているのはなぜ?

全国で頻発化、激甚化している災害の状況、2019年に本市を襲った一連の災害によって、市民の防災意識が高まったと考えています。防災ラジオもそうですが、ハザードマップを求めて、市役所の窓口を訪れる人も増えました。全体的な防災意識が高まっていると感じています。

ネットやスマホは便利だが、災害時にはつながらなくなる可能性も(画像はイメージ)
ネットやスマホは便利だが、災害時にはつながらなくなる可能性も(画像はイメージ)

ーー防災ラジオは実際にはどう活用している?

台風接近前の注意喚起や避難所の開設情報、避難勧告などの情報発信に活用しています。

ーー利用者から感想や意見は寄せられている?

利用者からは「家だと防災行政無線が聞こえないので安心した」などの声があった一方で、防災ラジオで防災行政無線を受信できないという声もありました。この理由は、住宅の密閉性や周囲の地形によって、無線の電波を受信しにくい地域があるためです。そこで、防災ラジオの購入前に無料貸し出しを受け付け、受診状況を確認できるようにしました。

情報収集の手段は多重化すべき

ーー防災に関連して伝えたいことはある?

市原市では情報配信メール、Yahoo!防災速報、Twitterなどでも災害情報を配信するなど、情報伝達手段の多重化に取り組んでいます。防災ラジオは情報収集手段の一つなので、正しい情報を取得して正しい行動ができるように、日頃から備えをしておくことが大切ではないでしょうか。

ーー防災ラジオはそこにどう役立ててほしい?

災害時にはデマや風評被害が発生することもあるので、市が発信する正しい情報を取得することに役立ててほしいですね。過去の災害では、停電の影響で思うように情報収集できない人もいました。防災ラジオは乾電池があれば動くので、そうした点では有効だと思います。

ただ、情報を取得する手段を防災ラジオだけに頼らないようにもしてほしいです。災害時には無線は機能しないが、ネットは生きているという状況になる可能性もあるので、どのような状況でも情報収集できるように多重化の備えをしてほしいと思います。

複数の情報収集手段を備えておこう(画像はイメージ)
複数の情報収集手段を備えておこう(画像はイメージ)

防災ラジオは“強制割込機能”を搭載することで、非常時でも確実に防災行政無線が受診できるという特徴があった。市原市だけでなく、すでに全国280以上の自治体に導入されていて、最近は災害が多発していることから、防災ラジオを住民に無償配布する地域もあるという。

情報収集手段を何か一つに限定してしまうと、災害時に情報を得られない可能性もあるので、ネットやSNSなどと防災ラジオを上手く併用しつつ、正しい災害情報を把握しておくことがこれからのスタンダードになっていくのかもしれない。

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プライムオンライン編集部
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