京都府亀岡市で保津川下りの舟が転覆し、船頭2人が死亡した事故から、28日で2年となり、慰霊式が行われた。
今回、関西テレビは事故の瞬間をとらえた映像を初めて入手。
映像から見えた新たな事実と、乗客の初めての証言から知られざる事故の真相に迫る。

■「桜がきれい…」 最高の思い出が…「保津川下り」転覆事故
船頭:よかったら、ここからムービー撮っといてください。
2年前、保津川下りの乗客が撮影した映像には、軽快に案内する船頭の声がとらえられていた。
桜が見える絶好のシーズンに、最高の思い出になるはずだった。
船頭:押さえろ、押さえろ。
動画ではこの船頭の声が上がった直後、岩に舟が衝突した。
2023年3月28日、京都観光で人気の「保津川下り」で起きた転覆事故。
舟が岩に衝突し、乗っていた全員が川に投げ出され、船頭2人が死亡したほか、乗客19人がけがをした。
あの時、一体何が起きていたのか。

■事故の瞬間の記録 改めて事故をふり返る
今回、関西テレビは事故の瞬間を映した、9分6秒の映像を独自に手に入れた。その映像で初めて分かった事実があった。
まず当時の状況を整理する。
舟には乗客25人と船頭4人のあわせて29人が乗っていた。
亀岡市から京都の嵐山まで下る16キロの間で、事故が起きたのは上流の激流ポイント「大高瀬」。
今回入手した2つの映像は、事故直前から転覆までの一部始終が記録されている。
事故が起きる45秒前。異常を感じた船頭が、別の船頭に指示している様子が動画からわかる。
船頭:3、2、1あかんあかん!後ろ行け!後ろ行け!

警察などによると、この時、舟を操る上で最も重要な役割を担う舵取りの船頭が、船の操作を誤って水の中へ。
船頭:後ろ行け!後ろ行け!
指示を受けた別の船頭が、慌てて舵をとりに向かう。
船頭:押さえろ、押さえろ。
しかし、舟を制御することができない。

別の角度から見た映像では、前方にいる船頭が必死に岩をついて、方向転換しようとする様子もとらえられていた。
そして目の前に岩が迫り、衝突。
その瞬間、座っていた乗客の身体が、浮き上がるほどの強い衝撃があったことが分かる。

■転覆まではわずか30秒 急な判断を迫られた船頭たち
この映像から、「舟に加わった力がいかに強かったかが分かる」と指摘するのは、船舶事故に詳しい専門家だ。
明治国際医療大学 木村隆彦教授:ここで、せり上がってます。岩にぶつかって、のりあがるという動きですよね。
(Q.舟の材質は?)
明治国際医療大学 木村隆彦教授:繊維強化プラスチック(FRP)。(舟は)繊維を何枚も重ねていって、層の分だけ強くなっている。普通に割ろうとしても、割れないです。
さらに、舵取りの船頭が落ちてから、転覆まではわずか30秒。
残された船頭たちが、衝突を避けるため急な判断を迫られていたことがうかがえるという。
明治国際医療大学 木村隆彦教授:舟が左に向いている。立て直すために、右を向かないといけない。船頭は右に向けようと、最後まで努力しようとしているのが分かる。

■守られた乗客の命 「亡くなった船頭が水中から持ち上げてくれた」
舟に加わった大きな衝撃と、人間の力ではどうすることもできなかった激流。
そんな中で、なぜ乗客は誰も命を落とすことがなかったのか?
当時、舟に乗っていた現在は15歳になったAさんと母親が取材に応じ、なぜ自分が助かったのか、その真相を初めて明かした。
当時舟に乗っていたAさん(15):(水面の)上に行けるのは行けても、流れが強すぎて、波でまた下に沈められたり、何回か浮き沈み。上がった時に気付いたのが、ひもが救命胴衣の中に入ってて、外に出てなかったせいで、膨らますことが不可能な状態。たぶん死んじゃうのかなと思うぐらい。

当時の乗客のうち半数以上は、ひもで引っ張り膨らませる手動式の救命胴衣を着用。
しかし、Aさんを含めほとんどが、流れの速い急流に投げ出された時、膨らませることができなかった。
自分ではどうすることもできず、死を覚悟したその時…。
当時舟に乗っていたAさん(15):気づいた時に、後ろにバっと救命胴衣を引っ張られた感じがして、びっくりして振り返った時に、(亡くなった)船頭さんがいて。上に、上にあげようとしてくれるんですけど、水の中で力も入らないから、自分が沈んで、こっちを上げるみたいな。
亡くなった船頭の1人が、Aさんの身体を水中から持ち上げてくれていたのだ。
その後、この船頭から周辺にあった木箱を渡されたことで、それにつかまり岸へたどりつくことができた。

Aさんの母親:助けてもらわなかったら、生きてはなかったので、本当に(船頭の)皆さんが一致団結して、人を助けるという行動をとられたということは、世間の皆さんに知ってもらえたらうれしい。当時できる限りのことはしてくださったのだろうと感謝はしてます。
国の事故調査では、この船頭は手動で膨らませる救命胴衣を着用していたものの、膨らませた形跡はなかった。
警察は、船頭が乗客を救助するために、あえて救命胴衣を膨らませなかった可能性もあるとみている。

■事故から2年 教訓を生かし「保津川下りを未来に残していく」
船頭2人の死を悼む28日朝の慰霊式。
保津川遊船企業組合 豊田知八代表:反省というのをしっかりとして、安全対策もして、保津川下りを未来に残していくということに精進していきたい。
舟の運航組合は事故の後、救命胴衣については、全て“自動”で膨らむものに変更。
また、船頭が落ちるのを防ぐため、足場を固定する器具を設置するなど、対策を進めている。
当時舟に乗っていたAさん(15):助けれてくれた感謝という気持ちもあるし、(川下りを)楽しませてくれたというところもあるし、(船頭が)生きてたらって気持ちも、色々混ざってよく分からない感情。
痛ましい転覆事故から2年。
同じことを二度と繰り返さないために、徹底した安全対策が求められている。
(関西テレビ「newsランナー」2025年3月28日放送)
