日米の中央銀行は、いまの金融政策を維持し、政策金利を据え置くことを決めた。トランプ関税や物価高による景気下押しへの警戒感が強まりつつある。

高騰続くコメ…8割上昇

先週発表された日本の2月の消費者物価指数は、変動の大きい生鮮食品を除く総合で、前年同月比3.0%の上昇となった。3%台をつけるのは3カ月連続だ。食品の値上がりが全体を押し上げるなか、コメ類は80.9%上昇し、比較可能な1971年以来最大の上げ幅だ。

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1月の家計調査では、1世帯あたりのコメへの支出は2383円と、前年の同じ月から7割程度増え、価格上昇の度合いに近い伸びを示した。平均購入数量は約3.8kgで、前月の5.2kgより減ったものの、前年同月と比べると7%ほど多く、消費量が減らないなか、家計負担が増している現状が垣間見える。

こうしたなか、物価変動の影響を除いた実質賃金は、1月は前年同月比で1.8%減少し、3カ月ぶりにマイナスに転じた。下落率は2024年3月以来の大きさで、物価高に賃金上昇が追いついていない実態が改めて浮き彫りになっている。

日銀・植田和男総裁
日銀・植田和男総裁

日銀は、18日~19日に開いた金融政策決定会合で、政策金利を現在の0.5%程度に据え置くことを決めたが、会見した植田総裁は、物価上昇が続く状況について、「国民生活にマイナスの影響を与えていることは十分認識している」としたうえで、コメを含む食料品の値上がりが「消費者マインドへの影響を通じて、何らかの形で基調的な物価に影響を与える可能性もゼロではない」と話した。 「直接影響を及ぼせる手段を持っているわけではなく、無理にでも価格を下げるとなれば、景気全体を冷やして食品に対する需要を減らすメカニズムは考えられるが、あまりにコストが大きい」と、金融政策での対応の難しさを吐露しつつ、今後の動向を警戒して見ていく姿勢を示している。

景気に試練か「タリフ(関税)インフレ」

植田総裁が注視していく考えを強調したのが、トランプ政権の関税政策が日本経済に及ぼす影響だが、アメリカでも、トランプ関税による物価高の再燃リスクが、景気の先行きの大きな焦点になりつつある。

アメリカでは卵の価格高騰と品薄が深刻化している
アメリカでは卵の価格高騰と品薄が深刻化している

アメリカの2月の消費者物価指数は、前年同月比の上昇率が2.8%とやや鈍化したものの、依然高い水準となった。食品の上昇が続き、なかでも物価の優等生とされる卵は前月比で10%を超える上げ幅だ。

ミシガン大学による調査では、消費者マインドを示す指数が2月の64.7から3月は57.9へと急速に悪化した。5年先の予想インフレ率は3.9%と、約32年ぶりの水準となり、今後さらに大幅な物価上昇が起こるとみている消費者の心理状態を映し出している。

FRB・パウエル議長
FRB・パウエル議長

FRB(アメリカ連邦準備制度理事会)は、19日、FOMC(連邦公開市場委員会)で、2会合連続での政策金利の維持を決めた。パウエル議長は、会見で「政策の調整(利下げ)を急ぐ必要はなく、(経済の状況が)よりはっきりするまで待つ体制は整っている」とした一方で、トランプ政権の関税強化を念頭に、「見通しの不確実性は異常なほど高まっている」と述べた。「インフレ率のうち、どれだけが関税に起因するものか正確に評価するのは難しい」としつつも、「タリフ(関税)インフレーション」という表現を繰り返し、2025年に入ってからのインフレについて「一部は明らかに関税によるもの」との見方を示している。「インフレ」と「景気後退」の板挟みになる可能性が高まるなかで、政策運営の厳しさを示唆した形だ。

FRBは、トランプ政権発足後初となる最新の経済見通しも公表した。2025年10~12月期のGDP成長率を1.7%として、前回見通しの2.1%から引き下げた一方、インフレ率は前回の2.5%から2.7%へと引き上げ、トランプ政策による負の影響を織り込んだ数字となった。

アメリカでインフレを退治しきれないまま、経済が落ち込んでいくことの影響が、世界全体に波及することへの警戒感が広がるなか、日本でも、コメをはじめとする食品高がインフレを加速させる懸念がくすぶる。
物価高とトランプ関税が、景気や家計マインドを冷やす心配が一層強まる局面になってきた。(フジテレビ解説副委員長 智田裕一)

智田裕一
智田裕一

金融、予算、税制…さまざまな経済事象や政策について、できるだけコンパクトに
わかりやすく伝えられればと思っています。
暮らしにかかわる「お金」の動きや制度について、FPの視点を生かした「読み解き」が
できればと考えています。
フジテレビ解説副委員長。1966年千葉県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学新聞研究所教育部修了
フジテレビ入社後、アナウンス室、NY支局勤務、兜・日銀キャップ、財務省クラブ、財務金融キャップ、経済部長を経て、現職。
CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)1級ファイナンシャル・プランニング技能士
農水省政策評価第三者委員会委員