かつて“鉄の街”として栄えた福岡・北九州市。“鉄冷え”と共に人口は減少し現在は約90万人。市民の約3人に1人が65歳以上の高齢者で、85歳以上は2040年まで増加が予測されている。今や高齢化率全国一となった北九州市だが、持続可能な介護の仕組みづくりを加速させ、同じ問題を抱える都市や研究者の注目を集めている。

加速する「未来の介護都市大作戦」

高齢化率31.2%。政令指定都市20市の中で最も高齢化が進む大都市、北九州市。武内市長は2024年、介護現場の負担軽減と課題解決を目指す「未来の介護大作戦」を発表した。

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ICT(情報通信技術)や介護ロボットなどを活用した業務改善手法を「北九州モデル」と名付け、市内20カ所の既存の介護施設で導入している。

北九州市小倉南区の特別養護老人ホーム「舞ケ丘明静苑」。食事や入浴など、これまで紙に記していた介護記録の入力をデジタル化したことで、作業時間が、ほぼ半減したという。

作業時間が、ほぼ半減
作業時間が、ほぼ半減

「時間を生み出す介護」の実例だ。舞ケ丘明静苑の大宮法昭さんは、今回の電子化にあたり「北九州市のスタッフが、業者の紹介の他、困った時のサポートをいつでも受けられる体制を整えてくれているため運用はスムーズ」と評価する。

この他、「見守りセンサーの有効活用」で夜勤の時間帯の見回り回数が半減した施設や「業務の効率化」で1か月あたりの残業時間が約600時間抑制された施設など、それぞれの課題解決に成果が現れている。

先進テクノロジー開発とも連携

北九州市では、高齢化率の高さを逆手に取った先進テクノロジーの開発も進んでいる。九州工業大学若松キャンパスにある研究拠点。

ここでは、「介護補助型ロボット」の研究開発が進められていた。まず、目にしたのは、優しく服を着せてくれるロボット。

屈強そうなボディとは裏腹に羽織をそっと着せる動きは、実に優しい感じ。博士後期課程3年の山崎駆さんによると、「ロボットが人間の骨格をまず認識し、その骨格に合わせて服を着せる動作を行う」のだという。

優しく服を着せてくれるロボット
優しく服を着せてくれるロボット

将来的には、「洗濯が終わってから服を着せるまで、全自動にしたい」と語る山崎さん。ただ、「非常に難しいのが現状」と語り、更なる改良意欲を見せる。

一方、九州工業大学では、身近な日常の動きをサポートする研究も進んでいる。修士2年の岩本憲悟さんが見せてくれたのは、最新のハイテク機能を備えた歩行器。

九州工業大学大学院 岩本憲悟さん
九州工業大学大学院 岩本憲悟さん

「カメラで顔を認識し、歩行器を押している時に顔を傾けるだけで、簡単に自動で曲がれる機能がある」という。機器に仕込まれたモーターが、歩行をアシストし、顔の向きに合わせて進みたい方向に曲がることが可能だ。従来の歩行器にセンサーやモニターを付け足すだけで、比較的簡単に使えるように設計されているのが特徴となっている。

また、この研究施設には、海外からの研究員も参加している。メキシコからの留学生、サルバドル・ブランコさんは、アメリカで人の動きをロボットに応用する研究に携わっていたと話す。現在、開発しているのは、経験豊富な介護士の動きを分析したロボットスーツ。

これを着ると、初心者の介護士が、腰や背中に負担がかからない正しい姿勢を身につけられるとのこと。「介護の現場では、最初からきちんと学ばなければ問題になる可能性があり、このスーツは、そうした人達の手伝いになるかもしれない」とブランコさんは語る。

研究室で指導に当たる柴田智広教授は、高齢化が進む北九州市と介護業界全体が、課題解決に向き合う姿勢や、研究者が介護の現場とすぐにやりとり出来る北九州市の環境を高く評価している。「介護分野で今後やっていくには、絶対に技術の導入が必要。技術の導入のためには、現場のことを良く知って、作って、一緒になってやらない限り残念ながら無理。普及が加速することはない」と柴田教授の言葉にも熱がこもる。

在宅介護の支援拠点も開設へ

北九州市では、今後ニーズが高まるとみられている在宅介護に関しての支援拠点「テクノケア北九州」を開設する予定にしている。住宅に在宅介護用の福祉機器や介護ロボットを導入際のイメージをつかみやすいよう、リビングや寝室を模した部屋に機器やロボットを置き、実際に使って体験できるというものだ。

北九州市の取り組みは、市内の介護人材不足の解決のみならず、国内外の様々な介護問題解決に向け、重要な存在となりそうだ。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
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