捜査報告書より
“拳銃マニア”信者Dの証言
「私は拳銃に対する興味、知識はマニアそのもので、自分でもオウム真理教の内部では拳銃射撃の腕前は上位に位置していると自負しています。自分が実行犯に選ばれなかった理由がわかりません。
オウム真理教の一般信徒は内部で非公然ワーク(犯罪行為)が行われていることを全く知りません。そのワークに従事している者同士でもお互いになんとなく後ろ暗いので黙っていて、全てについて具体的に知っているわけでもありません」

凶器と同型の拳銃 捜査資料より
凶器と同型の拳銃 捜査資料より

「人を殺す目的で拳銃を撃つということは、自分がやってきたVXガス、細菌散布などと違って相当難しいことでありますので、非公然ワークに従事した経験者でなければ無理だと思います。

(長官銃撃事件の)スナイパーは部外者ではなくオウム真理教の信徒だと思います。オウム真理教の教義ではオウムの教えは正しく、それを迫害するという悪行を積んでいる人間の魂を救ってやることが必要であり、その魂を救えるのは人間界より高いステージにいる自分たち自身がやるべきだと思っていましたから部外者に任せることはしないと思います」

実行犯の位は高い?

教団信者Eは、教団が定義づけた「ポア」は尊師・麻原に対する絶対的帰依を伴う最高教義「タントラヴァジラヤーナ」に基づく行為であり長官銃撃事件が「ポア」そのものであるため、実行犯は教団内の位が高い者であると供述している。

教祖・麻原彰晃こと松本智津夫元死刑囚
教祖・麻原彰晃こと松本智津夫元死刑囚

捜査資料より
信者Eの証言
「拳銃はポアに使用する法具ということになるので、『修法』という儀式が行われます。『修法』済みの物は師以上の者でないと触ることすら許可されないはずです。
これはポアという行為がオウム真理教の最高教義であるタントラヴァジラヤーナによるものであり、タントラヴァジラヤーナの法具は師補以下の者が触れるとステージの低い者のカルマが付着する考え方があるためです」

犯行で使用されたのと同型のホローポイント弾 捜査資料より
犯行で使用されたのと同型のホローポイント弾 捜査資料より

「個人的な意見になりますが、長官事件を教団が行ったとするのであれば、実行犯は師では役不足で、正悟師以上でないと許されないのではないかと思います(編集部注:教団には、尊師、正大師、正悟師等の階級があった)。
ポアは教義上、解脱した者がステージの低い者の意識を高い世界に移し替える極めて高度な宗教的技術であり、仮に部下にやらせるとしても正悟師以上の高いステージにある者でないと実行するポアが教義上正当性を持たないことになるからです」

地下鉄サリン事件 1995年3月20日
地下鉄サリン事件 1995年3月20日

彼らによれば、教団内でこれまでに非公然ワーク「ヴァジラヤーナ」=犯罪行為を実行したことがある人物でなければ拳銃で人を殺害するという大きな目的を完遂出来るはずはないという。

しかもポアと呼ばれる最高教義に基づいた神聖な行為を果たすには教団内での地位が高い人物でないとできないというのだ。

信者の“見立て”と端本悟元死刑囚

端本の教団内でのステージは「愛長」で師以上ではあったものの、正悟師手前の階級であったため、Eが指摘するポアを行う資格を有していたかは疑問もある。

端本悟元死刑囚
端本悟元死刑囚

しかし端本はこれまでに坂本弁護士殺害事件、松本サリン事件と殺人をともなう凶悪事件に繰り返し関与してきた。ポアという教義上最も神聖で、上位者にしか許されない言わば神事を任せることで端本の名誉心を駆り立て、かつ、繰り返し犯罪に手を染めさせることで教団から離れられないよう雁字がらめにすることが教祖麻原の狙いだったのではないか。

特捜本部は教団内部を知り尽くすDとEという信者2人の供述を妥当性のある見解であると受け止め、早川指示役、端本実行犯説にますます傾斜していくのである。

【秘録】警察庁長官銃撃事件34に続く
【執筆:フジテレビ解説委員 上法玄】

1995年3月一連のオウム事件の渦中で起きた警察庁長官銃撃事件は、実行犯が分からないまま2010年に時効を迎えた。
警視庁はその際異例の記者会見を行い「犯行はオウム真理教の信者による組織的なテロリズムである」との所見を示し、これに対しオウムの後継団体は名誉毀損で訴訟を起こした。
東京地裁は警視庁の発表について「無罪推定の原則に反し、我が国の刑事司法制度の信頼を根底から揺るがす」として原告勝訴の判決を下した。
最終的に2014年最高裁で東京都から団体への100万円の支払いを命じる判決が確定している。

上法玄
上法玄

フジテレビ解説委員。
ワシントン特派員、警視庁キャップを歴任。警視庁、警察庁など警察を通算14年担当。その他、宮内庁、厚生労働省、政治部デスク、防衛省を担当し、皇室、新型インフルエンザ感染拡大や医療問題、東日本大震災、安全保障問題を取材。 2011年から2015年までワシントン特派員。米大統領選、議会、国務省、国防総省を取材。