トランプ政権が発足してから1ヶ月となるが、トランプ関税による動揺や混乱が諸外国の間で広がっている。
中国に対する一律10%の追加関税は既に発動され、トランプ大統領は今後相互関税を強化していく方針だ。
筆者は地政学的な観点から長年企業支援に従事しているが、日本企業から聞かれる最大の懸念事項はやはりトランプ関税と言えよう。

今日、多くの日本企業はそれによる自社への影響を最小化することに尽力している。
では、トランプ関税に具体的に対処するにはどのような手段があるのだろうか。それについて、政治的な観点から考えてみたい。ここではリスクが低い順に3つを提示したい。
アメリカでの生産強化
まず、トランプ関税を回避するための最善策は、米国内での生産強化である。
トランプ大統領は、米国は諸外国から経済的に搾取され続けてきたという被害者意識を強く抱いており、まずは諸外国との貿易赤字を是正する手段として関税を積極的に活用する。

一方、外国企業が米国への投資を拡大し、米国内で生産拡大などを強化することには前向きであり、それは米国を再び偉大な国家する(MAGA)ことを目指すトランプ大統領の方針にもフィットするものである。

無論、企業の経営戦略は地政学的観点のみで動くものではなく、対米ビジネスの強化においては企業によって様々な課題もあろう。しかし、トランプ関税の回避という視点からは、これが最もリスクの低い選択肢と言えよう。
日本での生産強化
次に、日本への回帰という選択肢だ。
トランプ大統領は、諸外国との貿易によって蓄積した赤字を是正するという一種の大掃除を手掛けようとしている。そのために各国との貿易収支を入念にチェックし、米国を経済的に搾取し続けてきた国家に対して、トランプ関税という自衛権を行使しようとしている。
米国にとって最大の貿易赤字国は中国やメキシコであり、両国が既に名指しのトランプ関税に直面していることは周知の事実である。今日、米国の貿易赤字国で日本は7位に位置しており、貿易収支という基準に照らせば、日本が名指しのトランプ関税の標的になる可能性は十分にある。
しかし、2月7日に行われた石破・トランプ会談は、その可能性を低下させる観点で一定の役割を果たしたと言えよう。

石破総理は同会談で、日本が2019年以降5年連続で最大の対米投資国であることをトランプ大統領に伝え、対米投資額を今後1兆ドルという未だかつてない規模に引き上げる方針を示した。そして、そのために共に米国と協力していきたいという意思を伝え、トランプ大統領は日本による対米投資を強く歓迎した。

また、石破総理は日本が米国産LNGの輸入を拡大していく方針も示したが、これは米国の対日貿易赤字の削減にも繋がることから、MAGAに徹するトランプ大統領の方針にも適合するものだ。
業種業界によってトランプ関税による影響は大きく異なるので、万能薬的な答えがあるわけではないが、日本が世界最大のMAGA貢献国という地位をキープしようとすることは、特定国を狙ったトランプ関税のリスクを低減できるものと考えられる。
第三国での生産強化
3つ目は、第三国での生産強化である。2024年11月、トランプ大統領がメキシコからの輸入車に対する高関税を示唆した際、メキシコで生産した車の8割を米国へ輸出しているホンダは、仮に恒久的に関税が導入される場合、米国内での生産強化や関税対象外の地域からの対米輸出に切り替えていく考えを示した。
ホンダのように米国へ自社製品を多く輸出する企業にとって、関税対象外の地域からの対米輸出というものは大きな選択肢となろう。

既に中国やメキシコ、カナダはその対象となっているが、言うまでもなく中国に対する一律10%の追加関税はプロローグでしかない。中国から米国というルートは最大のリスクとなるので、中国で生産したモノを米国へ輸出している企業は緊張的な対応を取っていることだろう。
しかし、上記2つの選択肢と比較すれば、3つ目の選択肢はリスクが高いと言えよう。
第3国といっても一概には言えないが、トランプ大統領は特に中国を意識しており、中国からの輸出品だけを警戒しているわけではない。

トランプ大統領は昨年、メキシコからの輸入車に200%の関税を課すと示唆したが、これはメキシコで車を生産し、それを米国へ輸出する中国企業を意識したことが考えられる。言い換えれば、第3国から米国内に流入する中国製品に対する警戒心も強く、多くの中国企業を受け入れ、そこで生産された製品の多くを米国へ輸出しているような第3国も、名指しのトランプ関税の標的となるリスクがある。
例えば、ベトナムやマレーシア、タイやインドネシアなどASEAN諸国はそれに該当する。
日本企業としては非関税対象国を単に選定するのではなく、政治的観点からどういった国々が名指しのトランプ関税の対象となるかを冷静に見極めていくことが重要となろう。
最後に、本稿は特定国を狙ったトランプ関税の議論を展開しており、国家を特定しない一律関税を想定したものではない。
【執筆:株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO 和田大樹】