トランプ関税の日本への影響

いよいよトランプ政権が始動した。

2025年の世界情勢にとってトランプ外交が最大の変数になることは間違いない。昨年秋の大統領選以降、トランプ大統領と中国、ロシア、北朝鮮、ウクライナ、台湾などへの関与について様々な見解が示されてきたが、今後その答えが見えてくるだろう。

トランプ再来をマイナスと捉える日本企業は多い
トランプ再来をマイナスと捉える日本企業は多い
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そして、トランプ政権の再来は日本企業の間でも大変強い注目を集めているが、半数以上の企業は自社ビジネスとってマイナスと感じており、肯定的な受け止め方は少数に過ぎない。

その背景にトランプ政権の不透明性と不確実性があるのは想像に難くないが、筆者のクライアント企業の間で根強く聞かれるのは、やはりトランプ関税への懸念だ。

帽子には「MAKE AMERICA GREAT AGAIN(MAGA)」
帽子には「MAKE AMERICA GREAT AGAIN(MAGA)」

トランプ大統領はMAGA(米国を再び偉大な国家にする)という目標を達成するため、同盟国を含む諸外国から最大限の利益や譲歩を引き出し、紛争など外国が持つ負担の米国への影響を最小限に抑え、中国に対する政治経済的な優位性を確保することを優先し、そのために関税を最大の武器とする。

トランプ関税の二面性

そして、トランプ関税には2つの側面があり、1つは実際に発動されるトランプ関税で、もう1つが企業が特に認識するべき脅しとしてのトランプ関税である。

トランプ大統領は昨年、中国からの輸入品に対して一律60%、その他の国々からの輸入品に10%から20%、メキシコからの輸入車に200%とそれぞれ関税を課すと示唆し、その後、中国製品に対して10%の追加関税、カナダとメキシコからの全輸入品に25%の関税を課すと発表した。

規制強化で入国保安検査待ちのトラック(アメリカ・メキシコ国境)
規制強化で入国保安検査待ちのトラック(アメリカ・メキシコ国境)

要は、60%や200%という数字は実際に発動されるトランプ関税ではなく、脅しとしてのトランプ関税として機能したことになる。

中国製品に対する一律60%の関税、メキシコからの輸入車に対する200%の関税が議論になった際、大手自動車メーカーのホンダは昨年11月、関税が恒久的なものになれば米国での生産強化、関税対象外の国々からの輸出に切り替えていく考えを示した。

ホンダ・青山真二副社長「恒久的な関税であれば対応を考えざるをえない」(2024年11月6日)
ホンダ・青山真二副社長「恒久的な関税であれば対応を考えざるをえない」(2024年11月6日)

大手空調メーカーのダイキン工業も同月、メキシコ工場は主として米国向けだったがアルゼンチンなど南米向けの生産拠点でもあることから、現在の生産ラインを南米向けの仕様にシフトさせていくことも1つの選択肢になるという見解を示していた。

おそらく今後の4年間、日本企業はこういった形で脅しとしてのトランプ関税というリスクに直面し、それによって対応策を探る機会が訪れるものと予想される。

「脅し」か「発動」か見極めるポイント

では、日本企業は脅しとしての関税と実際発動される関税をどう見極めるべきなのか。当然ながら、これに対して万能薬的な答えはないが、現時点で以下のポイントが重要になろう。

まず、トランプ政権1期目では中国との間で貿易戦争と呼ばれるまで貿易摩擦がヒートアップし、日本企業にとっても最大の懸念要因となったが、トランプ大統領は当時、合計3700億ドル相当の中国製品に対する関税制裁を4回に分けて発動したものの、最大の関税率は25%だった。

トランプ大統領・習近平国家主席(2017年)
トランプ大統領・習近平国家主席(2017年)

トランプ大統領は当時積もりに積もっていた米国の対中貿易赤字に強い不満を抱いていたが、高関税による米国経済への代償を認識し、25%という水準でバランスを取ったことが考えられる。

無論、今回は政権2期目かつ多くの対中強硬派が要職に起用されていることから、25%以上の数字も十分に考えられるが、脅しとしての関税と実際発動される関税の境目として、25%というのが過去からの1つの教訓となろう。

「脅しとしての関税」の狙い

また、これに関連するが、一概には断言できないものの、関税率の数字が大きいほど、脅しとしてのトランプ関税である可能性が高いだろう。繰り返しになるが、特定国への高関税はそのまま高い数字による報復関税として跳ね返ってくることが考えられ、米国経済にとっても打撃となる。

上述の60%や200%という数字はその後下方修正されており、トランプ大統領が法外な関税率を示す背景には、正に相手国から事前に譲歩や利益を引き出す狙いがあるのだ。反対に、低い関税率ほど実際に発動されるトランプ関税である可能性が高いと捉えられよう。

「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ大統領
「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ大統領

しかし、日本企業としてはトランプ大統領が過度に高い関税率を示したとしても、それは脅しとしてのトランプ関税だから実際に発動されるものではないと短絡的に捉えるべきではない。

脅しとしてのトランプ関税は、実際に発動される関税のプロローグとして機能することが考えられ、トランプ大統領は脅しとしての関税で事前に相手国から譲歩を引き出せなかった場合、関税率を下方修正し、実際にトランプ関税を発動するという意識を持つことが重要となる。

【執筆:株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO 和田大樹】

和田大樹
和田大樹

株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO/一般社団法人日本カウンターインテリジェンス協会理事/株式会社ノンマドファクトリー 社外顧問/清和大学講師(非常勤)/岐阜女子大学南アジア研究センター特別研究員。
研究分野は、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者として安全保障的な視点からの研究・教育に従事する傍ら、実務家として、海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)に従事。国際テロリズム論を専門にし、アルカイダやイスラム国などのイスラム過激派、白人至上主義者などのテロ研究を行い、テロ研究ではこれまでに内閣情報調査室や防衛省、警察庁などで助言や講演などを行う。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会、防衛法学会など。
詳しい研究プロフィルはこちら https://researchmap.jp/daiju0415