夏の体育授業と言えば水泳だが、最近では外部に委託し校内のプールを使わない学校も増えているという。なぜなのだろうか?
「水泳の授業」を外部委託
この日、焼津市立焼津南小学校の児童がマイクロバスでやってきたのは市内のスイミングスクール。
これは見学や“習い事”ではなく学校の水泳の授業だ。

指導にあたっているのはこのスクールのインストラクターで、学校のクラス担任はというとプールサイドに立ちメモを取っている。
子供たちが“顔つけ”できているかをチェックしているクラス担任は「(プールの)中に入ってしまうと全員を見ることはできないが、(インストラクターの)先生がいるので上から見ることで、1人1人きちっと確認できてありがたい」と話す。
焼津市では3年前から試験的に水泳の授業を民間へ委託していて、2025年度から本格化させた。
こちらのスクールでは市内3つの学校の授業を行っていて、焼津市教育委員会学校教育課の福田陽子 課長は「水泳の授業を持続的に安全に行うための方法を検討しこの形に至っている」と説明する。

こうした動きは焼津市に限った話ではなく、県内では試験的な取り組みを含めて7つの自治体が実施。
中でも沼津市では静岡県内で最も多い14の小学校が水泳の授業を委託している。
設備の老朽化と酷暑が背景に
背景にあるのがプール設備の老朽化だ。
沼津市立大岡南小学校の中野雄二 校長は汚損が目立つプールを前に「昭和57年の開設と同時にプールができて、42年間プールは使っている。私たちの学校は沼津市では新しく開校した学校なので新しい方です」と話す。

沼津市によると市内にある小学校の老朽化したプールの改修には今後20年間で52億円を要すると試算される一方、同じ期間を民間に委託した場合の費用は17億円。
実に35億円も削減できる計算だ。
また、近年の酷暑も一因となっている。

中野校長は「プールサイドで子供たちを待たせて熱中症になってしまったり、『先生暑いよ』といわれ見ると足の裏を低温ヤケドしていたり」と暑さの中での屋外プール授業のリスクを教えてくれた。
沼津市教育委員会では湿度や気温などをもとに算出したいわゆる“暑さ指数”が基準を超えた場合には水泳の授業を取りやめることにしているが、民間の屋内プールであれば天候に左右されることはない。
スイミングスクール活用には多くのメリット
体育の教科担任は「(インストラクターが)きめ細かい指導をしてくれて、それをサポートすれば良いので、我々(教師)も楽だし、子供たちにとっても幸せで、すごく良い取り組みだと思う」とメリットを強調する。
ただ、通常、小学校で水泳の授業が実施されるのは6月から7月で、この期間に学校からの依頼が集中すると受け入れ側の負担も大きくなってしまう。

スイミングスクールのインストラクター・橋本文子さんは「学校ごとに1時間目や2時間目の(授業開始)時間が異なるので、それぞれにあわせて組むとこちら(スクール側)も決まった時間にレッスンがあり、そこを変えることはできないため、短期集中で(小学校の授業を)まとめるのは厳しい」と課題を指摘する。
そこで沼津市教育委員会が打ち出したのは屋内プールというメリットを活かした水泳授業の通年化だ。
「温水プールは気候条件による急な変更はないので、決められた時に行けば実施できる。年度当初に決めればその通りできるので、むしろ学校にとっては楽」と沼津市教育委員会学校教育課の横山憲利 課長補佐は説明する。

希望や行事の日程を聞き取った上で、スクール側の負担にならないよう5月初旬から1月までの間に各学校の水泳の授業を割り振っているそうだ。
子供たちからも「コーチも優しく教えてくれて楽しかった」「雨でも必ず(授業が)できるので良い」と評価は上々だ。
中学校のカリキュラムも変更
こうした中、沼津市教育委員会は中学校における水泳の授業を2025年度から廃止した。

その理由を沼津市教育委員会学校教育課の横山憲利 課長補佐は「身を守るための泳力の獲得は絶対に必要。小学生の間にプロのインストラクターから教わることにより中学校で水泳の実技指導をやらなくても、これまで以上に子供たちが泳力、身を守る術を獲得できると考えた」と話す。

物価が高騰する一方で進む学校施設の老朽化、さらには異常気象。
また、教師の働き方改革や負担軽減が叫ばれる中でこうした取り組みは今後さらなる広がりを見せていきそうだ。
(テレビ静岡)