鹿児島県の薩摩半島と大隅半島を結ぶ新たな定期航路が2025年2月に誕生した。鹿児島市のマリンポートかごしまから大隅半島の鹿屋港までを30~40分で結び、新航路は観光客や地元住民にとって便利な移動手段となり、地域活性化が期待されている。
鹿児島県は鹿児島湾を囲むような地形航路が不可欠
左手でOK!の合図をして、指先同士はくっつけない状態。

いきなり、何?と思われるだろうが、鹿児島県の地形を表すなら大体こんな感じ、と言えば何となくイメージしてもらえるだろうか。
親指が薩摩半島で、人差し指は大隅半島。人差し指の第二関節あたりに桜島がぽこんと飛び出していて、大隅半島とつながっている。両指の間には鹿児島湾(錦江湾)が横たわる。つまり、薩摩半島と大隅半島の間には海があり、相互の行き来は時間を要する陸路か、船を利用する必要がある。

現在、薩摩半島と大隅半島を結ぶ定期航路は、薩摩半島の中央付近にある鹿児島市と桜島を結ぶ桜島フェリー、鹿児島市と桜島の南側にある垂水市を結ぶ鴨池垂水フェリー。そして、それぞれ2つの半島の南端付近にある、指宿市と南大隅町を結ぶフェリーなんきゅうの3つがある。
そこに、2025年2月、新たな定期航路が誕生した。鹿児島市の南部にあるマリンポートかごしまと大隅半島の真ん中あたりに位置する鹿屋港を、30分から40分で結ぶ。
ターゲットは両半島の年間移動人口の800万人
マリンポートかごしまは大型クルーズ船が2隻同時に接岸できる人工島。一方、鹿屋港は、砕石などを積む貨物船や、カンパチの養殖を行う漁船が利用している。

船を運行するなんきゅうドックの今村弘彦会長は、以前、鹿児島テレビの取材に対し、「鹿児島と大隅は、1日あたり2万2000人が行き来している」とし、「年間800万人の往来を新航路のターゲットにしている」ことを明かした。
「普段見ない海からの視点が新鮮で面白い」
2月初め、マリンポートかごしまの浮桟橋に鹿児島市の下鶴隆央市長など多くの関係者が集まり、新たに就航する高速船「なんきゅう8号」の体験乗船が行われた。

船は定員約60人の小型高速船で、白地に赤と青のラインがデザインされている。船首側が客室で、真ん中から船尾にかけては屋根付きのデッキになっている。
客室には大きな窓があり、フェリーよりも海に近い低い目線でのクルーズを楽しめそうだ。そして、座席は飛行機のように通路を挟んで両サイドに2~4席ずつ配列されている。

客が乗り込むと、なんきゅうドックの今村会長が、「この船は1年かけて改装工事をした60人乗りのアルミ合金製の船です。どうぞ皆さんよろしくお願いいたします」と笑顔で挨拶した。

下鶴市長も「鹿児島市もマリンポートも普段見ない海からの視点で、大変新鮮で面白い」とわくわくした表情を見せた。
鹿屋は大歓迎 特産の「かのやカンパチ」振る舞う
30分ほどで、鹿屋港が見えてきた。乗っていた女性は、「速かったです。びっくりしました」と語り、鹿屋までの距離を近く感じたようだった。

色とりどりの大漁旗が掲げられた港では、関係者が手を振って出迎えた。
それから、体験乗船で訪れた人たちに、高速船乗り場のすぐ近くにある「古江みなと市場」で、特産の「かのやカンパチ」が振る舞われた。食べた女性は、「ん~、もう、おいしかったです~。プリップリしていました」と新鮮な刺し身に舌鼓を打っていた。

乗船客がカンパチの加工品などを熱心に買い求める様子に、鹿屋港の地元、古江町内会の東明会長は「うれしいの一言です」と喜びを隠せない。
高速船で港を訪れた人たちをどうもてなすか
「鹿屋港を活気づけたい」と考えていた古江地区の住民にとって、高速船就航は、まさに渡りに船だった。このチャンスを生かそうと、古江町ではまちおこしへの機運が一層高まっている。

体験乗船の1週間前。まちおこしのメンバーは会議を開き、「高速船で鹿屋港を訪れた人たちをどうやってもてなすか」というテーマで話し合った。
そして、カフェをつくる、たい焼きならぬ「カンパチ焼き」を新しい名物に、といった意見が出たという。「形にこだわらなければすぐできるんです。カンパチを使用したあんこに混ぜるとか」と、なかなかチャレンジ精神旺盛だ。

東会長は、「とにかく古江を盛り上げたい。こちらからもアイデアを出しながら、やっていけたら」と、意欲満々に語る。
待合所やトイレ、2次交通の未整備など課題も
一方で、今回の就航には課題も残っている。

まず、鹿屋港の乗り場には、待合所やトイレがない。そして、鹿屋港もマリンポートかごしまも、ともに市街地から離れていてアクセスが悪い。いわゆる2次交通の整備は必須だ。

鹿屋市の中西茂市長は、「鹿屋市だけでなく、大隅全体で状況を見ながら検討していかなければならない」と、周辺自治体を巻き込む必要性も示唆した。
また、鹿児島市の下鶴隆央市長も「これからいろいろな具体的な課題、相談が出てくると思うので、それぞれに応じて検討していきたい」と、航路の定着に向け、柔軟に対応していく姿勢を見せた。
「交通弱者や病院に行く人などに喜んでもらえたら」
鹿児島市と鹿屋をどうしても高速船で結びたいと就航に踏み切った今村会長だが「最初のうちは、赤字覚悟!!」と笑う。しかし「車を持たない交通弱者や、病院に行く人などに喜んでもらえたらうれしい」と、長年温め続けてきた新航路への思いを語った。

定期船なんきゅうは、毎日、鹿児島市のマリンポートかごしまと鹿屋市の鹿屋港の間を結び、朝と夕方にそれぞれ1往復する。
運賃は大人片道1800円、小学生以下は900円。自転車も1台300円で積むことができる。

この高速船の就航は、観光客や地元の人たちの助け舟となれるのか。
行政、企業、地元の人たちが手を取り合い、なんきゅう8号が順風満帆な航海ができるようになるまで、水先案内人として導いていく必要がありそうだ。
(鹿児島テレビ)