能登半島地震の発生時に被災地で対応にあたった警察官の手記が2025年1月に公開された。救助活動や遺体の収容など、様々な現場で奮闘した多くの警察官たち。手記に込められた思いを取材した。
被災地の警察官が書いた手記
「あの日からそれぞれの思い」能登半島地震に対応した警察官やその家族が書いた手記を集めた。石川県警が制作し地震発生から約1年後の1月21日に公開された。手記を書いた一人が輪島警察署地域課長兼交通課長の坂本謙太さんだ。石川県輪島市出身で2023年3月から輪島署の配属になった坂本さんは2024年の元日、市内の実家で被災した。

坂本さんの手記『当たり前の状態へ』:縦揺れなのか横揺れなのかも分からず、只々視界が揺さぶられ、子供たちの叫び声と轟音が響き渡った

「昔から通っている道だったけど、知り合いの家も崩れたり道路もぐちゃぐちゃで見たことないような光景でもしかしたら中に人がいる可能性があると思いながら署に行った」警察署も被災し電気や水が止まった。さらに元日ということもあり、署に来られない職員も多く、限られた人員で対応するしかなかった。
手記:多くの救助要請や安否確認の通報が洪水のように押し寄せ、そこから2週間ほどはあっという間に時間が過ぎていった
坂本さんは救助活動の指揮を執る立場で、部下に対して現場への出動指令を行っていた。現場では救えなかった命に直面したり罵声を浴びたりした部下もいる中、坂本さんはそれを見守ることしかできなかったという。「一番大変なのは現場に行く者なので結構ショック受けている人もいて、頑張ってくれとしか言えなくてそこは大変だった」

地震から1年以上が経ち、少しずつ復旧が進んできた輪島市。手記の最後にはふるさとのこれからについてこう記した。
手記:復興というのは『当たり前じゃない状態を当たり前に戻すこと』だと思う
「生活していて当たり前の状態って人それぞれ違うけど、私は警察官という立場で当たり前の前のような状態に戻すということを、警察官として何ができるかというので考えて活動している。少しずつでも進んでいると思うので、それが積み重なればいつかは前のような状態になるのではないかと思っている」
警察署へ向かう葛藤
白山警察署の刑事第一課長西剛央さん。珠洲警察署に勤務していた西さんは地震発生時、妻や子どもと一緒に過ごしていた。

西さんの手記『能登はやさしや土までも』:言葉を選ばずに表現すると『街が死んだ』と言っても過言ではないくらいで、戦争でも起きたのかという位の風景の変わりようでした
「知った町が壊れている状況で、私個人を優先するのであれば家族とか近所の方とか助けてくださいという方が目の前にいたりするので、自分の身の回りをどうしようかなと考えつつ、でも仕事に行かなければいけないし優先順位をどうしたものかと非常に思い悩みながら…」自宅や車が津波で流されるなど、自らも大きな被害を受けた西さん。妻に背中を押され警察署へ向かった当時のことをこう振り返った。
西さんの手記:今思えば誇りとか使命感といった格好良いものではなく、目の前の現実と向き合うことから逃げ、仕事に向かっただけかもしれません
助けられなかったことへの贖罪
救助、火災、食料不足、断水…。警察署には様々な課題が一気に押し寄せた。中でも、複雑な思いを抱えながら取り組んだ仕事が“遺体の収容”だった。
西さんの手記:無我夢中でご遺体の収容を指示しました。助けられなかったことへの贖罪に近い気持ちでした

「夕方の発生で暗くなって助けられなかったことがその後のご遺体の発見につながったときに、寒空の下に置かれたままとかそういった状況を早く打開して、ご遺体を収容してできるだけきれいにご遺族のもとに返したいという思いが非常に強かった」遺体を引き渡した遺族から返ってきたのは…。「『ありがとうございました』という言葉が返ってくる。久々に会った方とかいろんな思いで普通の日々を過ごしていた方が突然亡くなったと。ありがとうございましたと言われることは何もしていない。むしろ助けることができませんでしたという気持ち」市民一人一人と向き合い業務を行ってきた西さん。そんな日々の中で心に決めたことがあった。
西さんの手記:『能登はやさしや土までも』そんな言葉を思い出しました。そしてそんな言葉に甘えないでおこうと思いました

「他の方を優先する風土があって、もしかしたら警察に言ってこない方も多数いる。そういったところをくみ取って警察の役割は人を助ける、人の役に立つということが求められているし実践していかないといけない大事なことかな、というのは気持ちを新たに認識している」
430ページに渡る手記には、地震と向き合った114人の記憶が鮮明に綴られている。石川県警の災害対策官田賀力さんは、手記の構成から編集まで携わった。「改正されたマニュアルとかそういったものは客観的なもの、その時に携わった警察官の気持ち、感情はのってこない。警察官としての魂、思いを後世に伝えていくという意味では今回の手記は役立つんじゃないかなと。防災とかに携わっている方に参考になればなという思いはある」この手記は石川県警のホームページで公開されている。
(石川テレビ)