新春恒例の宮中行事「歌会始の儀」が1月22日、皇居・宮殿「松の間」で行われ、天皇皇后両陛下、秋篠宮ご夫妻をはじめ皇族方が出席されました。両陛下の長女・愛子さまのご出席は初めてです。

年の初めに共通のお題で和歌を詠み披露する「歌会始」。令和7(2025)年のお題は「夢」です。国内と海外、合わせて1万6千首を超える一般応募から選ばれた10人の歌も、両陛下の前で披露されました。
今年の皇族代表に選ばれた久子さまの歌
皇族を代表して、高円宮妃久子さまの歌が詠みあげられました。
ヨルダンの 難民キャンプに 若きらは これからの夢を 語りをりしが
久子さまは令和5(2023)5月、長女の承子さまとヨルダンのパレスチナ難民キャンプをご訪問。医者や教師、政治家になりたいと将来の夢を語っていた若者の「現在」に思いを馳せられました。

歌会始の選者で、皇室の和歌の相談役・宮内庁御用掛も務める永田和宏さんは、次のように解説します。
永田和宏さん:
『夢を語りをりしが』の最後に「が」が付いています。つまり、語っていたがその夢は叶ったんだろうか、語っていたがそのあと彼らはどうなったんだろうか、それを作者である久子さまが、今思いやっている。この「が」が一つあることで、非常に余韻のある、深みのあるお歌になって、良い歌をお作りになったと思いますね。

高円宮家の長女・承子さまは、約30年前に、母・久子さまが書かれた絵本を題材に詠まれました。主人公は、怖い夢を食べてくれる小さなバクです。
『夢の国のちびっこバク』も 三十年(みそとせ)を わが夢食(は)みつつ おとなになりしか

永田和宏さん:
『わが夢食(は)みつつ』というところが面白いですね。自分が『ちびっこバク』を読みながらいろんな夢を持っていた。その後、少女から大人になっていく時にいろんな夢を持っていた。その夢をみんな、そのバクも一緒に食べながら大人になって、どんな大人になったんだろう、と。すなわち自分もどんな大人になってきたんだろうということを感じておられる。
愛子さまが将来への歌を詠まれるまで
今回、初めて「歌会始の儀」に出席された愛子さま。2024年3月に大学を卒業し、新たな道を歩む友人と自分の将来に思いを馳せられました。
我が友と ふたたび会はむ その日まで 追ひかけてゆく それぞれの夢

永田和宏さん:
卒業して友と別れる寂しさと次会う時までに自分がどんな風に変われるだろうかという期待と、若々しい感じがよく出ている歌だと思います。
また、愛子さまがこの歌を選ばれた経緯についてはこう振り返りました。
永田和宏さん:
大体メールでやりとりをして、3首くらい『どうでしょう?』と示してこられ、その中で、私は『これが良いと思います』とお話したり、愛子さまは『この歌がどうしても思い入れが強いので、これにしたい』と言われたり、そういうやりとりが何回かあって、最終的に今回の歌になりました。
秋篠宮家の次女・佳子さまは、時間を忘れて絵を描いていた幼少の頃を懐かしみ歌にされました。
キャンバスに 夢中になりて 描きゐし かの日のことは なほあざやかに
秋篠宮妃紀子さまが詠まれたのは、2024年のトルコ訪問に向けて習われた伝統的な刺しゅう「オヤ」についてです。
絲と針 夢中にオヤを 編む先に 二つ三つと 野の花が咲く
現地でも「オヤ」で縁取られたショールを身にまとい、訪問前の会見でも「オヤ」のブローチを着け、そして歌会始でも、ご自身で編んだ「オヤ」をあしらった帽子を着用されました。


永田和宏さん:
今回、紀子さまのお歌は良い歌でしたね。新しく習ったばかりのオヤの作り方、編み方を自分で一生懸命やっているうちに、ふっと見ると花が二つ三つ、この喜び がとてもよく出ている歌になっているんじゃないでしょうかね。
秋篠宮さまは、幼いころの「初夢」について詠まれました。
初夢に 何を見たのか 思ひ出でむ 幼き頃の 記憶おぼろに
皇后さまがオックスフォードで陛下と語り合われた夢
皇后さまは、2024年6月、ともに留学経験があるイギリス・オックスフォード大学を陛下と訪問された時の感慨を歌にされました。
三十年(みそとせ)へて 君と訪(と)ひたる 英国の 学び舎(や)に思ふ かの日々の夢

永田和宏さん:
この歌は、別々の時にそれぞれがいたその同じ場所を、今回は二人で一緒に訪問できるという喜びがこの歌から非常に表れてきていて、その日々に持っていた自らの夢、あの若い日にこの場所にいて持っていた夢というのを今、思い出している。おそらくお二人で、お互いが持っていた夢というのを語り合われたんだと思いますけど、それが生き生きと出ている歌になってるんじゃないでしょうか。
陛下が詠まれたのは 子どもたちと交流された喜び
天皇陛下は、各地の訪問先で出会った子どもたちが、生き生きと将来の夢を話す様子を詠まれました。
旅先に 出会ひし子らは 語りたる 目見(まみ)輝かせ 未来の夢を

永田和宏さん:
ある種、「晴れの歌(公的な歌)」ですけれども、天皇として、国民の、特に若い層が夢を語ってくれることを自らの喜びとして感じられるというお歌で、夢を正面から捉えた歌になっていると思います。

両陛下、皇族方、それぞれの思いが込められた歌が披露された「歌会始の儀」。来年2026年のお題は「明」に決まりました。一般の応募は9月30日まで宮内庁で受け付けています。
(「皇室ご一家」2月2日放送)