能登を代表する景勝地、白米千枚田を守り抜いた夫婦に1年を振り返ってもらおうと、2024年の大晦日の夜に稲垣真一アナウンサーが会いに行った。
仮設住宅で暮らす夫婦の大晦日
稲垣:元日の白米千枚田です。隆起した海岸に打ち付ける日本海の荒波が冬の能登の厳しさを感じさせます。しかし、その海原の向こうにはくっきりと七ツ島が見えています。地震と豪雨で傷ついたこの棚田を、今年初めての朝日が柔らかく包みこんでいます。この棚田を1年間にわたって守り抜いてきたある夫婦に思いを聞きます

2024年の大晦日、稲垣アナは輪島市南志見地区にある仮設住宅を訪れた。
稲垣:あー、お久しぶりです!宜しくお願いします。お邪魔してすみません
白尾真紀子さん:いえいえ

地震で自宅が被災。金沢の二次避難先から2024年の夏に故郷の仮設住宅に移り住んだ、白米千枚田愛耕会の白尾友一会長と妻の真紀子さんだ。友一さんは、2024年から愛耕会の会長と白米地区の区長を務めている。地震と豪雨の二重被災に直面した仲間たちと共に、千枚田の復旧に力を尽くしてきた。大晦日の夕食は、お刺身と魚のつみれと豆腐の鍋。3人で乾杯した。

白尾友一さん:はー(長いため息)
稲垣:今のため息に一年間の全部が込められていましたね
友一さん:いやぁ、皆の協力がなかったらここまで来られなかったし
地震で大きな被害を受けた白米千枚田
先人たちが400年以上、一鍬一鍬耕しながら守り抜いてきた千枚田の棚田は、能登半島地震で大きな被害を受けた。
稲垣:僕は節目節目でしか伺えないけど、どれだけ大変な思いであの棚田を
白尾友一さん:家も壊れて、住むところもなくなって、みんなここから離れて二次避難していたんです。でもやっぱり、何とかしようかと。できるところからやろうかと

4月1日から棚田の修復と耕作作業を再開。5月、何とか120枚の棚田で田植えにこぎつけた。その後もあぜの修復と草刈りの日々を続けながら、迎えた実りの秋。困難を乗り越え実ったイネには一粒一粒にメンバーの汗と涙が詰まっている。
友一さん:大変でしたね。色んな方の力を借りて、感謝しかないですね
真紀子さん:地震があって、みんな二次避難先の金沢からでも朝4時、5時に家を出て70歳すぎのおじちゃんたちが皆来るんですよね。でも千枚田で仕事をしていると『日常を感じられる』部分もあって、みんな田んぼが好きな人の集まりやから、自然と体が動くというか
白米千枚田“愛耕会”
稲垣:愛耕会って、普通は同好会みたいな『好』の文字を『耕す』にもじったぐらいかなというイメージなんですが
真紀子さん:『愛して耕す、好きになる』という意味が込められていると、最近、愛耕会をお作りになった堂前助之新さんという方のノートを見ていたら載ってたんですよ。それで基本に立ち返ったというか。根本的なこと、田んぼが好きな人の集まりだし、みんな耕す田んぼ仕事が好きだし、地震でいろんなことを失いそうになったけど
友一さん:いや、諦めそうになってん
真紀子さん:豪雨でね
友一さん:諦めそうになったんやって。崩れていくのを目の当たりにして、唖然と。声が出なかったもんね。それも本当に、修復の終わった田んぼで
真紀子さん:二人で見とってんね、展望台から。崩れていく田んぼを『あーっ、あーっ』という声しか出なかったんです
稲垣:そこから何とか立ち直れたのは、何があったからなんですか?
友一さん:やっぱり、みんながいるからじゃないですか。多分一人だったらもう心折れて、やっぱり仲間ですよ
そう話すと友一さんは涙を流した。

友一さん:田んぼの話は禁句です
稲垣:それだけ頑張ってこられたからですよ
汗と涙が詰まったごはん
2024年12月19日、愛耕会のメンバーが集まり、収穫したコメの試食会が開かれた。
友一さん:みんなで食べましょう、いただきます!
メンバー:いただきます!

みんなで愛して、耕した田んぼ。お米はふっくらと炊き上がった。

メンバー:流した汗と、涙も入っている
友一さん:おいしい!
稲垣:めっちゃほおばってますね
友一さん:今後は有機無農薬栽培に切り替えていければいいと思っているんです
稲垣:そこにはどんな思いがあるんですか?
友一さん:9月の豪雨にしても何にしても人間が作り出した災いじゃないですか、少しでも二酸化炭素を減らすとか、そういうので変えていけたらいいなと。1人じゃできないんで、みんなそれに賛同してくれたし、失敗もあるかもしれないけどやっていきたいなと思っています
稲垣:一歩踏み出す一年になりますね、新しい年は
友一さん:そうですね。みんなで田んぼができて、『あぜのきらめき』ができればいいなって。あぜのきらめきが最終ゴールかな

冬の夜空に光り輝く棚田に多くの人の笑顔と歓声が戻ることを信じて。2025年もみんなで、耕し続ける。
(石川テレビ)