2025年1月10日、兵庫県の西宮神社で開催された新春恒例の「福男選び」に裏方として参加した能登の男性がいる。能登に福を。その思いに迫った。

能登を背負って参加

「開門!」1月10日。兵庫県・西宮神社で開催された新春恒例の福男選び。本殿に最も早くたどり着いた3人が「福男」に認定され、一番福を手にした人には、1年の福が集まると言われている。今回一番福を手にしたのは、宝塚市の高校2年生、大岸史弥さんだった。「自分の福を能登の人などに分けられたらいいなと思っています」

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その”能登”を背負い、西宮神社へ降り立った男性がいる。小林隼也さん(31)。小林さんは
珠洲市正院町にある須受八幡宮の権禰宜だ。「地震以前はここに社務所がありまして、社務所は全壊になった」

小林隼也さん
小林隼也さん

2024年の地震で大きな被害を受けた須受八幡宮。拝殿は戸や壁が外れて割れたガラスまみれになった。本殿との間には亀裂が入り1年が経った今も本殿に入ることはできない。

須受八幡宮(石川県珠洲市)
須受八幡宮(石川県珠洲市)

「自分たちはなかとりもちと言われるが、仲を取り持つ、神様と参拝される方との中を取り持つ役割ということで、一年の初めに様々なことを祈願したはずの日に地震が起こったということで、痛烈なふがいなさを感じました」2025年の元旦は「あけましておめでとう」と言えなかったという小林さん。「珠洲でよく耳に、目にするフレーズが“笑顔すずなり”。珠洲に笑顔が戻るように”笑顔すずなる“という思いでいます」

“門押さえ”の大役

その”笑顔すずなり”を取り戻すために裏方として参加するのが福男選びだ。「赤門の開門にあたって、扉を開く役割を担う」西宮神社の福男選びでスタートまで門を支える重要な役割、その名も「門押さえ」。阪神淡路大震災から30年となる2025年、復興に向かう能登と一緒に全国に福を届けたいという思いから小林さんに声がかかった。

「能登がどことなく閉ざされている感じがするのと、赤門の扉が重なるものがありまして、災い転じて福と成せるような福を持ち帰ってきたいです」福男選びまであと2日。西宮神社にやってきた小林さんに西宮神社開門神事講社の平尾亮講長が声をかけた。「ぶっちゃけ動ける状態ですか?」「えっ?」「いきなり、久しぶりに走ってアキレス腱切ったとかになったら」「なまってるんで、ウォーミングアップしないと」

実際に赤門の前で門押さえの動きを確認する。平尾さんは「向こうから押してくるのを止める、『今は押すなよ、絶対押すなよ、門を触るな』って言ってるのですごく押してくることはないと思うけど。僕が開門って言うので、開門の”か”が聞こえた瞬間に逃げる」

能登への支援に感謝

門から離れて逃げるための練習を繰り返し、門押さえのコツを叩き込む。勢いに飲まれないよう、狙いを定めて走ることが重要だ。小林さんは「自分よりはるかに大きくて広い門を目の前にして沸々とやる気がこみあげてきています。復旧・復興に向けて扉を開けるつもりで臨みたいと思います」と意気込んだ。

福男選びの前日。小林さんは参拝した人に能登への支援に感謝を込めたオリジナルポストカードを手渡していた。「一年経った今でもこうして思いを寄せていただけていること、これまでの多くのご支援への感謝という気持ちをカードに込めましたし、ご支援いただいている皆様へ復興への約束をしたつもりです」

「復旧復興への門」が開く

そして当日。夜明け前の西宮神社には厳しい寒さをものともせず、福を求める人たちが集まっていた。その熱に応えるよう小林さんも最後の練習を行う。「わくわくしている。逃げることを頑張るってちょっとおかしいけど、赤門の扉を開くことによって復旧・復興へ向けた扉を開きたいという思いです」午前6時、その時がきた。「開門!」小林さんが開けた門から約100人が一斉に走り出した。

無事に行事を終え、福を受け取ったか小林さんに聞くと「重たいくらいです。この福が復旧・復興に根ざせばいいなと思っています」と答えた。また「能登の門は開かれそうか」と聞くと「もう開きました」と清々しい表情で断言した。小林さんが開いた復興への門。”笑顔すずなり”が能登全域に広がることを願っている。

(石川テレビ)

石川テレビ
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