「日本の伝統的な酒造り」がユネスコの無形文化遺産に登録され、日本酒への注目度が海外でも高まっている。海外への輸出には、いかに品質を劣化させずに保つかがカギだが、これを解決する新たな2つの技術が広島で誕生した。
酒米と酵母の新種を広島で開発
日本酒の酒蔵では今、寒仕込みが最盛期を迎えている。

江戸の創業から続く広島県呉市の酒造会社「三宅本店」の酒蔵では大吟醸酒用に50%まで磨かれた広島県産の酒米を蒸したあと、高温多湿に保たれた「室」の中で麹菌をふりかけて日本酒づくりに欠かせない麹を作る。その後、麹に蒸米や水、そして酵母を混ぜ、約1カ月かけて新酒が出来上がる。

実は、この酒米と酵母に関する新しい品種が広島で開発され、日本酒の海外輸出に大きく寄与する可能性が出ている。
「日本の伝統的酒造り」がユネスコの無形文化遺産に登録されたことを追い風に、業界では、日本酒の海外への輸出強化を模索しているが、ワインやウイスキーに比べ、品質が劣化しやすいことがネックだった。
酷暑にも耐える酒米
広島県の食品工業技術センターが醸造した純米大吟醸の原酒「明魂」

使われた「酒米」は、広島県で開発された「萌えいぶき」。国内で初めて作られた夏の暑さなどにも耐えられる気候変動に対応する機能を持った酒米で、この「萌えいぶき」こそ、県と関係機関が、試行錯誤を繰り返し10年かけて開発した賜物だ。

広島県農業技術センターの勝場善之助 研究員は「今、気温がどんどん上がってきているので、高温登熟耐性(暑さに強い性質)を持つことが、これからは必須になる」と「萌えいぶき」開発の意義を強調する。

「萌えいぶき」を他の酒米と比較すると、コメの中心にあるデンプンが集まった「心白」といわれる白い部分が大きいのが分かる。酒は「デンプン」と「麹菌」が融合してできるため、「心白」が大きいことは酒米の長所となる。

また「萌えいぶき」は、デンプンが溶けやすい性質を持っており、酒造りに最も適したコメといえる。気候の変化に対応できる酒米は、海外進出をする上で、安定した酒の生産を支える大切な存在だ。
香りを落とさず、熟成貯蔵できる酵母
海外進出を助けるもう一つの広島発の新しい技術は酵母だ。

日本酒の海外進出の大きな課題となっていたのが、長い輸送時間で起こる品質の劣化だった。
この問題を解決したのが、県の食品工業技術センターが開発した酵母、「ひろしまLeG-爽(れぐそう)」で、貯蔵劣化を防ぎながら、熟成が進むことで、日本酒を爽やかな味に変化させることができるという。

食品工業技術センターの荒瀬雄也 研究員は「この酵母は、熟成するとカラメルのような香りが出るのが特徴で、そういう酒に香りも味も変わっていく」と長期保管でも劣化せずに熟成できる長所を強調する。
気候の変化や海外進出の問題点を解決する広島発の酒米と酵母で、長期熟成された日本酒がワインやウイスキーのように世界で飲まれる日は遠くないかもしれない。
(テレビ新広島)