施設の老朽化や新型コロナ。鹿児島県志布志市に、試練をいくつも乗り越えながら営業を続けているプールがある。そして、2025年の夏、悩まされているのは「海藻」。スタッフは対応に追われながらも、「みんなにずっと笑っていてほしい」という一心で、元気に営業している。
施設は老朽化しているが「昭和レトロ」を売りに、前向きに営業
鹿児島県の東端、太平洋に面した志布志市にある「ダグリ岬遊園地」のプール。
深さ90センチ、全長100メートルのペンギンのような形の流れるプールと、水深40センチの幼児用プールの2種類がある。設備はちょっと古いが、放水口からはふんだんに水が噴き出し、たっぷりの水が張られている。水面がキラキラとエメラルドグリーンに輝いて、プールもお客さんが楽しむのを喜んでいるかのようだ。

「ダグリ岬遊園地」は、旧志布志町が地元の町工場と一緒に開発した、太平洋を望む岬の中にある遊園地で、1981年(昭和56年)にオープンした。
遊園地には「チェーンタワー」や「ロックンロール」といった回転しながらスリルを味わうタイプの遊具や、レーサー気分を楽しめる「ゴーカート」。さらに、見た目がノスタルジックな人形などがあり、「昭和レトロが味わえる」を売りに、前向きに営業を続けている。だが、施設は老朽化がかなり進んでいる。コロナ禍前まではプールにウォータースライダーもあったが、新型コロナで休園している間に傷みが進み、撤去している。


コロナ禍では約3年休園 試練が続くが遊園地を守り続ける
2025年7月23日、「ダグリ岬遊園地」のプールは、4日遅れで今シーズンの営業初日を迎えた。事務室では、放送用のマイクを手に「あ、あ、プールご利用のお客様~」と、注意事項のアナウンスを練習したり、貸し出し用の浮輪に空気を入れて膨らませたりと、スタッフは大忙し。

遊園地の乗り物をつくった谷口製作所の谷口博盛社長が、パラソルを固定してお客さんを迎える準備をしていた。「ここは海水のプールなんです」と谷口さん。日に焼けた肌にサングラスがよく似合っている。
谷口さんは、旧志布志町から依頼を受けた遊具のメンテナンスに加え、18年前からは遊園地の指定管理者も任されている。その間、施設の老朽化や新型コロナによる約3年の休園など、いくつもの困難に直面しているが、それらと闘いながらこの場所をずっと守っている。
そんな谷口さんが「海水を引きあげて水をためるが、海が荒れてポンプアップできない状況が続いて」と、ため息混じりに語った。海が落ち着くのを待ったため、2025年はプールの営業開始が4日も遅れてしまったのだという。

お客さんを迎える舞台裏はこの夏、「海藻」との闘い
営業を始めた日の午前10時。小学生くらいの子どもを連れた家族や女性同士のグループなど、お客さんが次々にやってきた。
ところが、お客さんの入場と入れ替わるようにして、谷口さんがプールから出てきた。「今年は海藻がものすごく漂ってきて。ポンプが詰まったので、海藻だと思うので、今から除去しに行きます」と言うと、坂を下り海の方へと歩いて行った。

岩場に、海水をプールに引き込むためのポンプが設置してある。ポンプ場の入り口は、井戸のように四角の枠が突き出ていて、道路脇の側溝などでよく見かける鉄製の網でふたがしてある。ふたを開けてはしごを10段ほど下りたら、海水がたまった貯水池のようなポンプ場になっている。サングラスをゴーグルに変えた谷口さんが、はしごを使ってポンプ場へと下りていった。そして、水の中にもぐり、両手いっぱいに海藻をつかんで戻って来た。
別のスタッフがバケツを上からつりおろし、そこに谷口さんが回収した海藻を入れては引き上げ、廃棄を繰り返す。
谷口さんはこの夏、「海藻」と必死に闘っているのだ。

「あぁ、プールが真水だったらなぁ」・・・なんてな
ポンプには、コンブにワカメなど何種類もの海藻が大量に詰まっていたようだ。除去作業を終えて上がって来た谷口さんは「あー、よいしょっ」と、口にした。ゴーグルを外し目をこする姿を見れば、どっと疲れてしまったのがわかる。谷口さんの「あぁ、プールが真水だったらなぁ」という心の声が聞こえてくるようだ。
「子どもの笑い声って貴重 そういう場所をなくさないように」
一方、プールでは、介護施設で働く女性3人組が遊んでいた。今シーズン一番乗りで訪れた女性たちは、水深の浅いプールに座って水につかったり浮き輪をつけて流れるプールで浮かんだり。「夜勤明けでミャンマーから来ている技能実習生の2人を連れてきたが、ミャンマーはプールで遊ばないみたいで、人生で2回目と1回目の人たちです」と、楽しそう。
ピンクのおそろいの水着を着た幼い姉妹も、大きなイルカの形をした浮き具に乗り「こっちだよ!」と飛びはねたり、浮き具の下にもぐって顔を出し、「イルカショーでした!」とポーズを取ったり、はしゃいだ様子。

保護者の男性も「初めて来たんですけど、海水を使っているということで、子どもたちもびっくりして楽しんで泳いでいます」と、うれしそうだ。
海から戻ってきた谷口さんに、いくつもの試練に直面しながらも頑張る理由を聞いてみた。「お客さんのために。やっぱり、子どもの笑い顔とか、声とかが一番ですね。子どもの笑い声って今や貴重だと思いますね。そういう場所をなくさないように」。ゴーグルを外してこう話す谷口さんのまなざしは、とても温かく優しかった。

「24時間ずっといられる」ほど楽しい海水プールで大はしゃぎ

プールで泳いでいた男児は、「楽しくて、24時間ずっといられます」と顔をほころばせた。また、浮き輪に乗って遊んでいた女児も「楽しい」と、はじけるような笑顔で答えてくれた 。
「みんなにずっと笑っていて欲しい」。谷口さんのその思いは、子どもたちにも届いているようだ。
「ダグリ岬遊園地」のプールは、入園料300円と利用料300円、合わせて600円で利用できる。
