福岡・八女市で作られている『盛弘の包丁』。光り輝く白銀の刃が艶やかな光沢を放つ。

国内外から注文が殺到し、手元に届くまでには8年以上かかるといわれる。

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その唯一の欠点は、『切れすぎること』。トマトは、透けるほどの薄さに。堅い皮で覆われたカボチャもサクッと無理なく切れる。綱引きの綱も難なく微塵切りに。1度手にすると他の包丁は使えなくなる。

予約注文は国内外から3000件

『盛弘の包丁』は、プロからアマチュアまで‶知る人ぞ知る”完全受注生産の和包丁だ。

平泰明さん(59)
平泰明さん(59)

この包丁を作っている「盛弘鍛冶工場」の2代目、平泰明さん(59)によると「今現在入っている予約注文の数は3000件近い」とのこと。予約内容が書かれた手書きのノートには、客からの注文内容がびっしりと記されていた。

予約注文の数は約3000件
予約注文の数は約3000件

値段は、家庭用の包丁であれば1万4000円から。プロの料理人が使う本職用の包丁であれば2万4100円からと、手の届かない金額ではないが、今すぐ注文したとしても包丁が手元に届くのに8年以上かかるというから驚きだ。こうした状況に平さんは、「私が生きている間に、今引き受けた注文を全部納品できるだろうか心配になってきた」と話す。

盛弘鍛冶工場 平泰明さん
盛弘鍛冶工場 平泰明さん

“切れ味”左右する熟練の技

“切れすぎる”8年待ちの包丁。一体どのようにして作られているのか?まず大事なのは、鋼を高温で焼いて包丁の形に整えていく「鍛造」という工程。平さんは、熱した鋼の“頃合い”について「炎の状態を見て、見た目で判断する」と話す。加熱し過ぎると刃が脆くなり、焦げてしまうため細心の注意が必要だ。

次に、切れ味を決定づける「研ぎ」。刃先から刃元まで厚みを一定に研いでいく。「表面をきれいに研がないと接着不良の原因になる。不純物だから」と語る平さん。

刃先を研ぐ角度に全神経を集中させ0.1ミリ単位の厚さ調整を行う。正に、この道40年の職人の為せる業だ。

客の要望があれば、平さんが自ら刃に「模様」を入れて仕上げることもある。「富士山をイメージしたもの。外国の方は富士山が好きなんですよ。これも難しい」と完成した包丁の出来栄えを確かめる。全ての作業は、1つ1つ手作業で丁寧に。これが「切れ味」に繋がっている。

父の跡継ぎ「刃物づくり」の道へ

平さんは「盛弘鍛治工場」の2代目。幼い頃から工場を立ち上げた父親の仕事を見て育った。「父親が刃物を作っている時に面白そうだな、早くやってみたいな」と感じていたという。高校卒業後は、刃物の産地として有名な大阪・堺市で3年間修行し、和包丁の研磨法を学んだ。その後は、試行錯誤を重ねながら10年かけて今の『盛弘の包丁』を完成させた。

自分のモノ作りについて「お客さんに喜んでいただける包丁を作ることに尽きる」と語る平さん。顧客から届くお礼のハガキや手紙を読むと、やりがいを感じると嬉しそうに微笑む。

3代目の目標は父親「壁は高い」

平さんの工場では今、次男の弘通さん(28)が3代目として包丁作りを学んでいる。「少しずつ上手くなっていくことに、やりがいや成長を感じている」と語る弘通さん。「目標は父親。壁は高いです」と父の背中を追う修行の日々だ。

そんな息子について父親の平さんは、「これだけの技術を私1人で終わらせるのは、勿体ない。それを受け継ぐ後継者ができたのは嬉しいと同時に安心」と笑顔を浮かべた。

2025年、新たな年を迎え平さんは、「これまで習得した技術を次世代に伝えていくことが使命」と気持ちを新たにする。目指すは「世界の盛弘」。生涯現役で包丁作りを続けたいと力強く語った。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
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