12月17日、北朝鮮内部の様子を映した映像が公開された。

そこに映っていたのは北朝鮮の野外市場「チャンマダン」、土の上に座り込んだ人たちが靴下などの衣類や野菜を売っている様子が確認できる。12月に撮影されたという映像の最後には、ホームレスとみられる男性が路上で食事をする様子も映っていた。

北朝鮮の野外市場(YouTube カン・ドンワンTVより)
北朝鮮の野外市場(YouTube カン・ドンワンTVより)
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「1日1食おかゆだけを食べる人もいた」

脱北者が明かす北朝鮮の窮状。核兵器や軍事衛星の開発が進む一方で、新型コロナをきっかけに住民たちは、より苦しい生活を強いられていた。

大人の“コッチェビ”!? 映像で見える北朝鮮の窮状

12月に撮影されたという北朝鮮内部の動画を公開したのは、韓国・東亜大学の姜東完(カン・ドンワン)教授。

北朝鮮の内情について長年にわたり研究を続けている姜教授は北朝鮮の経済の現状について「非常に劣悪」と話す。

韓国・東亜大学の姜東完教授
韓国・東亜大学の姜東完教授

東亜大学・姜東完教授
北朝鮮内部で住民が手に入れることができる食料や生活必需品は極めて不足している。北朝鮮当局も今のような経済を引っ張っていく力量がないので、(今後も)当分の間は非常に劣悪だと見ることができる。

厳しい監視の中で北朝鮮内部の情報員が撮影したという映像を詳しく見てみる。

映像の冒頭、高齢の男女2人が販売しているのは、家畜の寄生虫駆除で使われる薬だ。

北朝鮮の市場で販売される寄生虫駆除の薬(YouTube カン・ドンワンTVより)
北朝鮮の市場で販売される寄生虫駆除の薬(YouTube カン・ドンワンTVより)

姜教授はこの薬が民間の市場で売られていることについて、「北朝鮮の保健医療システムが完全に崩壊した状況と言っても過言ではない」と指摘する。

さらに、映像ではダイコンやジャガイモなどの野菜が売られているのも確認できるが、いずれも痩せていて小さい上に、量は少なく見える。

北朝鮮の市場で販売されるジャガイモとダイコン(YouTube カン・ドンワンTVより)
北朝鮮の市場で販売されるジャガイモとダイコン(YouTube カン・ドンワンTVより)

姜教授が指摘する通り、北朝鮮では食料が不足している状況にあるのだろう。そして、姜教授が映像で一番注目したのが映像の最後に出てくる男性だ。

東亜大学・姜東完教授
今までは子供たちが“コッチェビ”として暮らしていると言っていましたが、映像は成人。成人が市場の路地の片隅で火を焚いて食べている。それは北朝鮮が非常に貧しい、経済的に厳しいという状況を断面的に示している

ホームレスとみられる男性(YouTube カン・ドンワンTVより)
ホームレスとみられる男性(YouTube カン・ドンワンTVより)

“コッチェビ”とは、孤児となり路上生活をしている子どもたちのことを指す北朝鮮の言葉だ。1990年代に餓死する人が相次いで出た食糧難の時に多く見られたという。

大人まで“コッチェビ”にならざるを得ない状況になっているということは、それだけ北朝鮮が置かれている状況の厳しさを物語っていると、姜教授は指摘する。

実際に、韓国の情報機関・国家情報院は2023年3月「北朝鮮でコメ約80万トンが不足している」という分析を明らかにした。さらに、北朝鮮内の比較的豊かな地域で餓死する人が続出していたことも韓国政府の分析で明らかになっている。

家具売って食料買う人も 住民困窮のきっかけは“新型コロナ”

2023年10月、韓国へ脱北してきたカン・ギュリさん(仮名/20代)は、北朝鮮が置かれた窮状について証言した。

カン・ギュリさん(仮名/20代):
中間階級以上の人がコメを食べることができる。そのほかの人たちはトウモロコシをたくさん食べていた。さらに、トウモロコシの値段が上がると、食事をするために家具を売る人もいた。そして、1日1食だけおかゆを食べる人もいた。

インタビューに応じるカンさん(2024年12月)
インタビューに応じるカンさん(2024年12月)

なぜ、北朝鮮の経済はこれほどまでに悪化しているのか。

カンさんによれば、新型コロナになって中国との取引が止まり、輸入品が途絶え、物の値段が10倍以上に上がったという。食料に、衣服、化粧品、さらには針まですべての物の値段が上がったそうだ。

カン・ギュリさん(仮名/20代):
新型コロナの時に北朝鮮の経済が底を付いたということを住民は知った。「針1本も生産できない国がどこにあるのか」とみんな悔しがっていた。

北朝鮮の内情を研究している東亜大学の姜教授は「中国と北朝鮮の間の取引は、コロナ以前の水準まで回復していない。政治的にも関係が疎遠になっている」とし、影響はまだ当分続くとみている。

“過去最高”の弾道ミサイル発射 米新政権発足前に7回目核実験か

住民たちの暮らしが困窮する一方で、北朝鮮は核兵器開発を推し進めている。2024年10月、最新型のICBM(大陸間弾道ミサイル)「火星19型」の試験発射に成功したと発表した。

北朝鮮が発射した火星19型(2024年10月 朝鮮中央通信より)
北朝鮮が発射した火星19型(2024年10月 朝鮮中央通信より)

北朝鮮メディアは、飛行距離や高度などについて「最高記録を更新した」と伝え、金正恩(キム・ジョンウン)総書記は「核戦力を強化する路線をいかなる場合も絶対に変えない」と強調したとしている。

核兵器の小型化や、超大型核弾頭の生産などを掲げた北朝鮮の国防5カ年計画が2025年に最後の年を迎えるにあたり、韓国軍は、北朝鮮が年内にも極超音速で飛行する中距離弾道ミサイルなどを発射する可能性と分析している。

さらに、韓国軍は10月末に、北東部豊渓里(プンゲリ)にある核実験場について「内部の準備がほぼ終わったものみている」としていて、北朝鮮による7回目の核実験は、1月に迫ったアメリカのトランプ新政権発足前に行われる可能性がある。

脱北女性「核は開発したのに、それ以外は何をしたの?」

核兵器開発を推し進める北朝鮮当局の姿勢に対して、生活が困窮する住民たちの不満は高まっているようだ。2023年10月に脱北したカン・ギュリさん(仮名/20代)は、特に年配の人たちの不満が強いと話す。

カン・ギュリさん(仮名/20代):
核をあんなに開発したのに、それ以外には何をしたの?核はなぜ必要なのだろう。私たちのために必要なのか、違うと思う。政権維持のために必要なものだ。

インタビューに応じるカンさん(2024年12月)
インタビューに応じるカンさん(2024年12月)

さらに、カンさんは北朝鮮軍によるロシア軍への派兵について、悲痛な思いを口にする。

カン・ギュリさん(仮名/20代):
私のいとこも軍隊にいる。ロシアに出たんじゃないかとすごく心配になって、映像を見たときにたくさん泣いた。若い青年たちを弾よけで送り出し、それに対するお金をもらって商売している。とても悔しくて心が痛い。

北朝鮮の住民たちの中では、韓国との統一を望む声が大きいという。自由を望み、暮らしが豊かになることを期待しているからだ。

一方の韓国では、民主主義を揺るがす非常事態が起こり、混乱はまだ収束の見通しが立っていない。朝鮮半島の緊張はどうなるのか、先行きは不透明だが、いずれにせよ2025年は大きな変化を迎える年になりそうだ。

(執筆:FNNソウル支局 濱田洋平(テレビ西日本))

濱田洋平
濱田洋平

FNNソウル支局特派員。1988年熊本県生まれ。テレビ西日本で福岡県警キャップ・行政キャップなどを担当、報道番組「福岡NEWSファイルCUBE」のディレクターとして新型コロナにおける医療問題や旧統一教会などを取材。2024年8月から現職。