2022年の安倍晋三元首相銃撃事件に続き、2023年には岸田首相も襲撃されるなど、政治家を狙ったテロ事件が相次いで発生している。

銃撃される直前の安倍元首相 2022年7月8日
銃撃される直前の安倍元首相 2022年7月8日
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2つの事件では、スマホの普及により、居合わせた人が多くの「瞬間映像」を撮影しており、そのとき何が起きていたのかを我々は知ることが出来た。この映像を元に、再発防止策などを検討する事も出来るのだ。

赤丸が爆発物を投げた木村被告、青丸が岸田首相 2023年4月15日
赤丸が爆発物を投げた木村被告、青丸が岸田首相 2023年4月15日

では、スマホなど影も形もない時代の重大事件は、どうだったのか?

今から32年前、当時「政界のドン」と言われた金丸信・自民党副総裁が講演中に銃撃された。銃撃の瞬間を撮影した報道カメラマンは、一部を撮影すれば事足りた「きょう3回目の講演」であるにも関わらず、あえて最初から最後までカメラを回した。そのため、スクープ映像をものにすることが出来たという。
そのカメラマンの脳裏には、別の事件の一場面が浮かんでいた。

会場に轟く3発の銃声

1992年3月20日、栃木県足利市の市民会館ホール。当時の自民党の参議院議員を「励ます会」に金丸信・自民党副総裁(当時)が出席していた。

当時の映像を見ると、金丸氏はホールの壇上中央にある演題で次の選挙への支援を求める演説を行っていた。

演説を締めくくる金丸氏 この直後に銃撃が起きる
演説を締めくくる金丸氏 この直後に銃撃が起きる

画面中央に大きく映る金丸氏が「来たるべき衆議院選挙でこの人を勝たせてください!お願いをして私の挨拶といたします」と述べて演説を締めくくると、会場からは大きな拍手が沸き起こった。

画面中央に手を伸ばした人物が
画面中央に手を伸ばした人物が

その直後に画面はズームアウトして会場全体が見える映像になると、「パン、パン、パン」という大きな音が立て続けに3発響いた。

金丸副総裁銃撃の決定的瞬間
金丸副総裁銃撃の決定的瞬間

演台の正面のステージ下には、金丸氏に向かって何かを持った手を伸ばしているような人物が映っている。
銃声の直後、その人物の周囲には、講演会の関係者とみられれる人たちが殺到し、壇上の金丸氏の周囲には多数の警護のSPと見られる人物が金丸氏を押し倒すように集まり、身を挺して守っていた。

銃撃した男の元には関係者とみられる人が殺到した
銃撃した男の元には関係者とみられる人が殺到した

この緊迫の一部始終を撮影した、当時フジテレビの若手カメラマンであった矢部雅之さんに話を聞いた。

あえて“全回し”に

「あの日は金丸さんの遊説が3回あったんですけれども、その現場は最後の遊説先だったんですね。前の2回は正面から撮ってたんですが、その3回目は同じ画角でずっと撮ってもしょうがないだろうと思ったので、ステージ向かって左の方にカメラを構えました」

矢部雅之カメラマン
矢部雅之カメラマン

金丸氏は事件当日、実は3回講演していて、事件が起きたのは3回目の講演だった。そのため矢部カメラマンは「ほとんど内容は同じだったので、全部回す(※撮影する)必要はないかな」と考えたが、結局一部ではなく、全てを撮影する「全回し」を選択した。

決定的瞬間を捉えられたのは、この選択のお陰だ。なぜあえて「全回し」にしたのか?矢部カメラマンの脳裏には、ある事件が浮かんでいたという。

金丸氏の周りにもSPが殺到していた
金丸氏の周りにもSPが殺到していた

「全部回す必要はないかなとも思ったんですが、一応全回ししました。沢木耕太郎さんの『テロルの決算』とかを読んでいて、浅沼稲次郎さんの事件のことが頭の片隅にあったので、基本はそういう時に全回しをするようにしていました」

浅沼稲次郎氏とは、1960年10月12日、東京・日比谷公会堂で演説中に右翼の少年によって刺殺された当時の社会党の委員長だ。この事件が脳裏に浮かんだため、すでに2回撮影している、同じ内容の演説でも、あえて撮影したのだ。

当時の気持ちについて矢部カメラマンは、「全部回すと編集のことも考えろと叱られたりもしたんですけれども、やはり何が起こるか分からないという気持ちはありましたので、全部回しました」と振り返った。スクープ映像の裏側には、カメラマンの地道な努力や信念があったのだ。

カメラを担いで舞台上に

矢部カメラマンが撮影した映像は、金丸氏の周りにSPが集まっている様子の後、激しく揺れる。このとき、矢部カメラマンは三脚からカメラを外していた。大きなカメラを担いで壇上に飛び出し、別の角度から撮影を開始したのだ。

演台には銃弾が貫通した穴が空いていた
演台には銃弾が貫通した穴が空いていた

「とりあえず三脚をつけて撮れるものを1通り撮って、そのままカメラを回しっぱなしで三脚から外して、舞台の袖みたいなところにいたので、そのまま舞台の上まで駆け込んで犯人が取り押さえられているところを(カメラで)狙いました。」

金丸氏を撃ったのは、右翼団体構成員の男だった。その男の顔を撮影するため移動したのだ。

「なかなか犯人の顔が見えなかった。しばらく上から狙っていたのですが、今度は頭の左側の後ろの方で、金丸さんの方から音がしたので、振り向いたら金丸さんが警備の人と一緒に退席するところだったので、それを押さえました」

民主主義は脆いもの

歴史に残る事件の決定的瞬間を撮影した矢部カメラマン。あれから30年以上が経過してもなお、政治家へのテロ事件はなくなっていない。

「自分のようなものが言うのはおこがましいですが…やはり民主主義というものは私達にとってとても大事なものです。そしてとても脆いものでもあるので、その大切さをよく踏まえて、丁寧に守っていってほしいと思います。自分たちが意見の異なる相手に対する寛容さを失ってしまったら、たちまち崩れてしまうものだと思います」

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2024年12月27日(金) 18:30~22:52 フジテレビ系列放送予定
http://www.fujitv.co.jp/b_hp/showa99news/index.html

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