2025年1月、第2次トランプ政権が発足する。
国務長官にマルコ・ルビオ上院議員、安全保障の大統領補佐官にマイク・ウォルツ下院議員などが起用されていることからも、同政権の対中姿勢が強硬なものになることは間違いない。
そして、その強硬姿勢は特に経済と貿易の領域で発揮されることになる。
米中対立の主戦場
バイデン政権は2022年10月、中国による先端半導体の軍事転用を防止する観点から、中国による先端半導体そのものの獲得、それに欠かせない材料や技術の流出を防止するため、同分野における対中輸出規制を大幅に強化した。

また、中国・新疆ウイグル自治区における強制労働などの人権問題を批判し、2022年6月にはウイグル関連製品の米国への流入を防止するため、ウイグル強制労働防止法が施行された。
しかし、バイデン政権のこの4年間における対中貿易規制は、その目的が明確かつ合理的であり、規制が必要なところに的が絞られた貿易規制だったと言える。
台湾やウクライナを民主主義と権威主義との戦いと位置付け、双方への軍事支援を積極的に展開し、経済や貿易、安全保障の領域において必要なことが満遍なく行われた4年間だったと言えよう。

しかし、2025年1月以降は、米中対立の主戦場はより経済と貿易の領域に軸足が移され、安全保障は外篇的に位置することが考えられる。
これはトランプ政権1期目の時と同様であるが、2018年以降、最大25%の対中関税の嵐が世界経済を震撼させたように、第2次トランプ政権も関税を武器に米中対立を展開していくことが予想される。

現時点で、トランプ氏は中国製品に対して10%の追加関税を発表しているが、今後も必要に応じて関税引き上げなどを発動していくだろう。そして、バイデン政権が発動したウイグルや先端半導体をめぐる対中貿易規制も解除する可能性は低いと考えられ、特に先端テクノロジー分野での対中優位性を確保する観点から、それに上乗せする形で輸出規制を強化するだけでなく、日本やオランダなど同盟国や友好国にもバイデン政権以上に高圧的な同調圧力を加える可能性もあろう。
不透明な台湾政策
一方、トランプ政権になればウクライナ支援は縮小、停止の方向へ向かうことが考えられ、台湾政策についても現時点では先が見えない。

トランプ氏は、台湾はもっと防衛費を支払うべき、台湾が米国から半導体産業を奪ったなどと台湾軽視を示唆する発言もすれば、中国が台湾へ侵攻したら最大200%の関税を課す可能性も示唆している。また、外国の紛争に対して米国が負担を共有しない非介入主義をちらつかせる一方、中国には負けないという姿勢を示しており、同政権の台湾政策は現時点で不透明な点が多い。
以上のように、バイデン政権下における米中対立は経済や防衛、安全保障それぞれの領域で競争や対立が展開されたが、トランプ政権下では主軸が経済や貿易に移り、安全保障が外編的になるという違いがあると思われる。
日本製鉄 USスティール買収問題は“プライド”の問題か
しかし、対立の主戦場で若干の違いが見られるにせよ、バイデン氏とトランプ氏は中国に対して優位性を奪われないため、もっと言えば、第二次世界大戦後、ソ連との冷戦に勝利し、アメリカナイゼーション(米国を超大国とするグローバル化)を世界にもたらし、政治的かつ経済的、軍事的に世界ナンバーワンの地位に座ってきた現状を変更させないため、あらゆる領域で中国を封じ込める、成長を妨げることに躍起になっている。

日本製鉄によるUSスチール買収問題でも、それが米経済にとってメリットとなる見解が多い中、両氏ともそれを阻止する構えを崩さない。日本製鉄と中国との関係に疑念を抱いているとみられるが、世界最強国米国の主要企業が外国企業に買収されることはあってはならないという、プライドに基づく危機感を抱いているようにも感じられる。

21世紀に入り、中国が経済力で米国に接近するようになるにつれ、米国は中国への警戒感を強めている。それは自由や民主主義という自らの陣営に対する対抗馬になる可能性だけでなく、世界ナンバーワンの地位を脅かされることへの警戒感でもあろう。
米中対立は、米国という国家のプライドを賭けた戦いと表現できよう。
【執筆:株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO 和田大樹】