11月5日の米国大統領選の末、共和党候補のトランプ氏が圧勝した。

トランプ氏は獲得した選挙人で、ハリス氏に90人近い差を付け、獲得票数では自身が出馬した2016年、2020年の大統領選挙を上回り、最高の勝利を手にした。

1期目以上に“トランプ色”強い可能性
1期目以上に“トランプ色”強い可能性
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議会上院と下院でも共和党が過半数を握り、周辺の重要ポストは自らに忠誠的な人物で固めるとされ、第2次トランプ政権は1期目以上に“トランプ色”が強いものになる可能性が高い。

では、多くの難題が米国を覆う中、第2次トランプ政権は現在進行形で軍事的衝突が続くウクライナ、中東にどう対応していくのだろうか。

「非介入主義」「レガシー作り」ポイントに

これを考える上で重要になるのは、トランプ氏自身が何をしたいのかということだ。2つのポイントがある。

「米国第一主義」全面に出すトランプ氏
「米国第一主義」全面に出すトランプ氏

周知のとおり、トランプ氏は米国を再び偉大な国にする(make America great again)、米国の経済と雇用を守り抜くという「米国第一主義」を全面に出しているが、これは言い換えれば、米国の利益にならない外国の紛争などには介入しないという、「非介入主義」を意味し、第2次トランプ政権の対外政策を考えるにあたり、この「非介入主義」が1つのポイントになる。

もう1つは、「レガシー作り」だ。

トランプ氏は政権1期目に中東和平で一役買った
トランプ氏は政権1期目に中東和平で一役買った

トランプ氏は、政権1期目の2020年8月、イスラエルとUAEとの国交正常化を定めたアブラハム合意で調停役として主要な役割を果たし(その後にはバーレーンとスーダン、モロッコもイスラエルとの国交正常化)、中東和平で一役を買った。

シンガポールで行われた米朝首脳会談(2018年6月)
シンガポールで行われた米朝首脳会談(2018年6月)

また、当時の韓国・文在寅政権が北朝鮮に融和的路線を採っていたことも影響するが、トランプ氏は北朝鮮の金正恩氏とベトナム、シンガポール、板門店と3回も対面で米朝会談を実現するなど、それが双方の望む結果になったかは別として、朝鮮半島の緊張緩和に向けて、積極的な行動を示した。

トランプ氏は積極的な軍事介入は回避するものの、外国の紛争を終結、停止に導くことで実績をより多く残し、偉大な大統領ドナルド・トランプのためのレガシー作りに尽力した。

政権2期目でも、内容より結果重視のレガシー作りの外交を展開すると考えられる。

ウクライナ和平より「戦争の終結」重視

この「非介入主義」と「レガシー作り」という2つのポイントを意識すれば、第2次トランプ政権に対ウクライナ、対中東はおよそ描けてこよう。

トランプ氏は「ウクライナ戦争を24時間以内に終わらせる」と主張
トランプ氏は「ウクライナ戦争を24時間以内に終わらせる」と主張

まず、トランプ氏はウクライナ戦争について24時間以内に終わらせる、ウクライナへの軍事支援を最優先で停止すると主張してきたが、24時間という数字は一種のアピールにせよ、バイデン政権によるこれまでの積極的な軍事支援は後退する可能性が高い。

上述した非介入主義とレガシー作りという点を考慮すれば、トランプ氏にとって重要なのは、ウクライナ和平というより戦争の終結であり、戦争を終わらせれば、これ以上の人的、物的被害は避けられると同時に、それを自らが主導したという結果を残すことができる。

ゼレンスキー大統領とトランプ氏の会談(9月)
ゼレンスキー大統領とトランプ氏の会談(9月)

バイデン政権やウクライナ、欧州などは一貫して、ロシアによる侵攻以前の状態での戦争終結を求めているが、トランプ氏が想定するのはロシア軍がウクライナの一部領土を実効支配する現状での戦争終結であり、そのために双方に攻撃の停止、ウクライナのNATO非加盟など様々な要求を双方に提示していくことが考えられる。これも内容ではなく結果重視の政策の一環と言えよう。

米国があらゆる負担を負うことなく、自らが戦争を終結させたというシナリオがトランプ氏の描く理想だろう。

イスラエルに攻撃停止求め「中東紛争」終結か

そして、中東も同じようなものだ。

ガザ地区の死者は4万人を超えた
ガザ地区の死者は4万人を超えた

2023年10月以降、イスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配する、イスラム主義勢力ハマス、親イランのシーア派勢力、そしてイランとの間で軍事的緊張が続いているが、イスラエルVSハマスを「フェーズ1」、イスラエルVS親イラン勢力を「フェーズ2」、イスラエルVSイランを「フェーズ3」とすると、現在の中東紛争の構図は「フェーズ2.5」と言ったところだろう。

イスラエル軍によるベイルート空爆
イスラエル軍によるベイルート空爆

当初はイスラエルVSハマスの構図だったが、レバノンのヒズボラやイエメンのフーシ派といった、親イラン勢力がハマスとの共闘を宣言し、反イスラエル闘争をエスカレートさせて以降、今日では「フェーズ1」より「フェーズ2」が深刻な状況と言えるが、ネタニヤフ首相と良好な関係を維持してきたトランプ氏は、中東紛争を終結させる(ハマスや親イラン勢力からするとあくまでも攻撃の停止と映るだろうが)目的でイスラエルに攻撃の終了を求めることだろう。

イスラエルがイランへの姿勢硬化させる可能性も

政権1期目の時、トランプ氏はエルサレムをイスラエルの首都と位置付け、テルアビブにある在イスラエル米国大使館をエルサレムに移転し、イラン核合意からは一方的に離脱するなど、極度の親イスラエル、反イランの姿勢に徹している。

イスラエル・ネタニヤフ首相
イスラエル・ネタニヤフ首相

今日の中東紛争で、トランプ氏が調停役などを務めることは現実的ではないが、「非介入主義」と「レガシー作り」という点から、イスラエルに対して攻撃停止を要求し、中東における軍事的緊張を緩和させたという結果を求めている。

無論、トランプ氏は極度のイスラエル寄りの姿勢は堅持することから、最大の後ろ盾を得たネタニヤフ首相がイランへの姿勢をいっそう硬化させ、4月や10月の軍事的応酬以上の事態が勃発する可能性も排除はできない。

トランプ氏は「非介入主義」と「レガシー作り」を最大限求めてくるだろうが、対イランにおいては歯車が狂うようなことがあれば、トランプ再来によって「フェーズ3」にいっそう接近するリスクもあろう。

【執筆:株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO 和田大樹】

和田大樹
和田大樹

株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO/一般社団法人日本カウンターインテリジェンス協会理事/株式会社ノンマドファクトリー 社外顧問/清和大学講師(非常勤)/岐阜女子大学南アジア研究センター特別研究員。
研究分野は、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者として安全保障的な視点からの研究・教育に従事する傍ら、実務家として、海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)に従事。国際テロリズム論を専門にし、アルカイダやイスラム国などのイスラム過激派、白人至上主義者などのテロ研究を行い、テロ研究ではこれまでに内閣情報調査室や防衛省、警察庁などで助言や講演などを行う。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会、防衛法学会など。
詳しい研究プロフィルはこちら https://researchmap.jp/daiju0415