アメリカの首都ワシントン上空に11月26日、4つの発光物体が突如出現した。

その映像が次々にSNSに投稿され拡散されると、1952年の「ワシントンUFO乱舞事件」と比較され、大騒動になった。

折しも連邦議会では、政府のUFOに関する公聴会や、UFOの情報を管理・分析するAARO(全領域異常対策室)のトップによる、議会への非公開ブリーフが行われた期間の前後だった。

最新のアメリカのUFOをめぐる動きと、首都ワシントンでの騒動を解説する。

ワシントン上空に謎の“発光物体”

首都ワシントンにある連邦議会議事堂。

高さ約88mの巨大なドームの上に作られた巨大な女神像の上空に、11月26日、4つの不思議な発光物体が出現した。

目撃者が撮影した映像がSNSで拡散されると、瞬く間に注目を浴びることになった。

ワシントン上空に出現した謎の発光物体(提供:think tank@528vibes)
ワシントン上空に出現した謎の発光物体(提供:think tank@528vibes)
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映像や画像からは、三角形の発光する物体が4つ空中に浮かんでいるように見える。

現地メディアは、1週間以上にわたって発光物体が目撃されていることなども報じた。

ただ、一部専門家からは、付近の空港を発着する飛行機の誤認や、議会議事堂のライトの反射を指摘する声も挙がっていて、SNS上では論争が続いている。

現時点では、国防総省などからはこの物体に関するコメントも発表されておらず、謎は深まるばかりだ。

首都ワシントンは1952年にUFOとみられる物体が大勢の市民の前に出現しパニックとなった「ワシントンUFO乱舞事件」が起きているだけに、その再来を懸念する声もある。

議会公聴会に「全領域異常対策室」トップが出席

これに先立つ11月19日、連邦議会上院は公聴会を開催し、国防総省でUFOの情報を一元管理・分析するAAROのトップ、コスロスキー博士が出席した。

AAROとは、All-domain Anomaly Resolution Office、つまり最先端科学でも解明できない“不可解な現象や事案”に対策する「全領域異常対策室」である。

AAROの責任者コスロスキー博士
AAROの責任者コスロスキー博士

AAROは、3月に1945年以降のアメリカ政府のUFOに関する調査などをまとめた「歴史的記録に関する報告書」を、11月には年次報告書も発表している。

しかし、不十分な内容との指摘や、隠ぺい体質には批判の声も強まる。公聴会冒頭、ギルブランド委員長がそうした不満を代弁するかの様に、AAROの調査と情報公開の不十分さを指摘した。

ギルブランド氏はAAROへの不満を語った
ギルブランド氏はAAROへの不満を語った

ギルブランド委員長:
AAROの公開文書は、データの不足、省庁間や国際的な報告情報を改善する重要性など、直面している課題を浮き彫りにするのに役立つ。公聴会がない場合でも、解決済みのケースも未解決のケースも含めて、情報開示を一般市民と共有することが重要だ。

「地球外生命体の活動など発見していない」

これに対して、AAROのコスロスキー氏は、直近の報告書にも示された、約1600件のUFO関連の報告、調査結果などを説明した。

さらに「今日まで、地球外生命体の活動や技術の検証可能な証拠を発見していないことを強調しておくことは重要である」とこれまでと同じ説明も繰り返した。

一方、議会を中心に強まるAAROへの不信感に配慮してか、「あらゆる領域における未確認物体は、我々の安全保障に脅威をもたらす可能性がある」、「AAROが優先する事項は透明性」「多くの情報を機密解除し、公に共有することに、私たちは全力を尽くしている」などと、誠実に対応していることもアピールした。

コスロスキー氏は公聴会でAAROの誠実な対応を強調
コスロスキー氏は公聴会でAAROの誠実な対応を強調

出席議員からは、軍事基地や核施設周辺でのUFO目撃が、敵対勢力のスパイ行為だった場合などの国家安全保障上の脅威についての対応に加え、「技術や飛行パターン、出没理由も不明な物体に対して、国防総省やAAROは何ができるのか?」と厳しい質問も突きつけられた。

アメリカ上空を中国の偵察気球が飛行したことは、大きな衝撃となった(2023年2月)
アメリカ上空を中国の偵察気球が飛行したことは、大きな衝撃となった(2023年2月)

コスロスキー氏は、多くのデータ収集によって「気球だろうが、ドローンだろうが、異常な活動だろうが効率的に追跡できるようにする」とした上で、対応に全力であたる姿勢も示した。

加えて、現時点での調査能力では、説明のつかない事例もあることも認めた。

2025年1月にはトランプ新政権が発足し、AAROも大きな転換を迎えるとみられているが、少なくともコスロスキー氏が議会に対して誠実な対応を取ろうとする姿勢はうかがえた。

“非公開ブリーフ”に注目集まる

一方、12月6日には下院議員に対しコスロスキー氏を含むAAROのメンバーが、完全非公開でブリーフを行ったことに注目が集まっている。

内容には機密情報が含まれているとみられるが、出席議員の1人である共和党のナンシー・メイス議員がその一部を語った。

メイス氏は議会下院でのUFO公聴会を主導した
メイス氏は議会下院でのUFO公聴会を主導した

それによれば、いくつかのUFOと指摘された事件について「UFOではない」と結論付けた経緯や説明が行われたという。

しかし、メイス氏は「説明されていないものもあり、どのようにその結論に至ったのか、なぜまだ答えのない対象なのかを開示し、機密指定を解除する計画があると彼らは言っている」とも答えたのだ。

AARO自体が機密指定している映像や画像の中に、現時点でも何かを解明できていないものがあり、公開を検討している点は今後の展開が注目されている。

2期目となるトランプ政権でUFO情報の開示は進むのか
2期目となるトランプ政権でUFO情報の開示は進むのか

2025年1月に大統領に就任するトランプ氏や、議会の上下両院で多数派となった共和党は、ここ数年、UFO情報の開示や、機密指定解除にかなり積極的に行動してきた。

2025年は大きな変革や情報発表にも期待が集まりそうだ。
【取材・執筆:FNNワシントン支局 中西孝介】

中西孝介
中西孝介

FNNワシントン特派員
1984年静岡県生まれ。2010年から政治部で首相官邸、自民党、公明党などを担当。
清和政策研究会(安倍派)の担当を長く務め、FNN選挙本部事務局も担当。2016年~19年に与党担当キャップ。
政治取材は10年以上。東日本大震災の現地取材も行う。
2019年から「Live News days」「イット!」プログラムディレクター。「Live選挙サンデー2022」のプログラムディレクター。
2021年から現職。2024年米国大統領選挙、日米外交、米中対立、移民・治安問題を取材。安全保障問題として未確認飛行物体(UFO)に関連した取材も行っている。