ポスト安倍の流れが出来つつある。出馬するのは菅氏、岸田氏に石破氏が加わり、さらに河野太郎氏の参戦もありえる。こうした中、自身の出馬を否定していた小泉進次郎環境相が、河野氏の支持を明言した。それはなぜか。『小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉』の著者である、解説委員の鈴木款が解説する。

小泉氏は“変人”河野氏とエールを交換

「河野さんが出れば、河野さんを応援します」

8月30日、出張先の福島で小泉氏は河野氏支持を明言した。

小泉氏は、その理由を「省庁の垣根を越えなければ、また霞が関、永田町のさまざまな難しい壁を越えなければできない改革も、一緒に取り組んでいくことで突破できる可能性を感じます」としたという。

河野氏支持を明言した小泉環境相(8月30日)
河野氏支持を明言した小泉環境相(8月30日)
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かつて行革担当相も務めた筋金入りの改革派であり、永田町の変人といわれる河野氏の突破力に期待したかたちだ。また、同じ神奈川選出の議員であり、河野氏は永田町では比較的歳も近い。

河野氏は小泉氏の支持表明について、「進次郎さんも総裁候補たりえる1人だと思いますので、そういう方からそうおっしゃっていただけるのは、非常にありがたいと思っております」と答えた。お互いにエールを交換したかたちだ。

「菅氏は隣町の大先輩」と親密さアピール

一方、菅氏に関して記者から聞かれるとこう答えた。

「まだご本人から何も聞いていませんので、果たして本当に出られるのかどうか分かりませんが、私からすれば、神奈川県、私は横須賀、菅官房長官は横浜、隣町の大先輩です」

小泉氏は28日に「党員投票をするべきだ」と主張しているが、自民党神奈川県連も党員党友による投票を要望している。このことについて、小泉氏は菅・河野両氏の名前を挙げながらこう続けた。

「菅官房長官も河野大臣も私も神奈川県連所属ということで、神奈川は今、こういう総裁選なら投票したいという党員が多く出てくるんじゃないですかね。その方々に投票する機会をしっかりと提示をして、その結果どなたが選ばれても、その方の元に一致団結して頑張っていく、そういう機会になれることがベストなことだと思っています」

菅氏は同じ神奈川選出とあって、これまで河野・小泉両氏を可愛がっていたという。小泉氏の発言は、同じ県連所属であることを通して、菅・河野両氏との親密さのアピールともとれる。

「党員投票求めるのは石破氏有利だから」を否定

党員投票をすれば、石破氏が有利になるといわれている。28日、筆者は党員投票を主張する小泉氏に「党員投票を呼びかけるのは、石破氏を支持していると受け止められるが」と聞いた。

しかし小泉氏は、「石破さんに有利だから党員投票を求めているというのは、まったくの誤解」ときっぱり否定した。(関連記事:小泉氏「石破さんに有利だから党員投票を求めているというのはまったくの誤解」

前回2018年の総裁選の際、小泉氏は石破氏支持に回った。しかし、今回は仕切り直しであることを明言したのだ。

河野氏支持の理由は前回総裁選にある

では、小泉氏はなぜ河野氏を支持したのか。前回の総裁選を振り返ってみると、今回の決定の背景がわかる。

2018年、小泉氏は「党内野党」として安倍政権の森友問題を批判しており、早くから石破氏支持を打ち出すものと期待されていた。しかし選挙中、小泉氏は沈黙を貫き、石破氏支持を表明したのは投票開始のわずか10分前だった。(関連記事:「武器を持たない戦争のようなもの」叩き潰される前に決断した小泉進次郎の心

当時、「総理にしたい政治家No.1」だった小泉氏が旗色を鮮明にすれば、総裁選の流れは変わったはずだが、小泉氏はそうしなかった。

投票開始直前の石破氏支持によって、安倍氏には「石破氏を積極的に支持しなかった」、石破氏には「支持を表明した」という「言い訳」をつくったのだ。だが、メディアや国民からは、「どちらにもいい顔をした」「男を下げた」との批判の声がわき上がった。

こうした批判に対して、小泉氏はこう語った。

「今回、率直に言いまして、いろんな情報戦がありました。やはり、この総裁選挙というのは、政治の世界の戦ですから。私は、武器を持たない戦争みたいなものだと思っています。その過程の中では、本当に様々なことがあります。だから日々変わるんです。それに対して、どうやって自分を、生き抜いていけるようにするか。そういったこともふくめて非常に学びのある総裁選でしたね」

「どうやって生き抜いていけるのか学んだ総裁選」と小泉氏(2018年)
「どうやって生き抜いていけるのか学んだ総裁選」と小泉氏(2018年)

菅・石破両氏のナローパスの先に河野氏

今回、菅氏と石破氏の事実上の一騎打ちになった時、小泉氏は「隣町の大先輩の菅氏」と「前回支持した石破氏」の板挟みとなる可能性があった。この難しい「ナローパス=狭い道」を歩くために考え出した選択肢が、河野氏への早い支持だったのだ。

河野氏であれば、これまでのところ態勢に影響が無いと思われる。また、菅・石破両氏に若手議員の筆頭格である小泉氏が「相手陣営につかなかった」ことで恩を売れる。まさに政治の世界を生き抜くための戦略なのだ。

とはいえ政界は「一寸先は闇」である。今後、小泉氏にとって想定外の「変数」は何なのか?

そもそも河野氏が出馬を断念した場合、小泉氏は再び選択を迫られることになるのが1つ。菅氏か、石破氏か、または岸田氏支持か。

また万が一、両院議員総会がひっくり返って、党員投票となったらどうなるのか?さらに、もし「国民的人気者」に躍り出た河野氏が、総裁選を勝ったらどうなるのか?

ポスト安倍レースは、人気者が生き抜くためには変数だらけだ。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。