「体験格差」。旅行や習い事、季節の行事など「学校外で行われる体験の機会の差」のことだ。その多くの原因が貧困。学校外での体験の機会が多いほど、学習意欲や課題解決能力が高いという指摘もある。
深刻な影響与える子どもの体験格差
この体験格差をなくそうと取り組む「体験型の子ども食堂」が福岡市にある。「こんばんは~」「こんばんは~」と陽が落ちる頃になると続々と子どもたちが訪れる福岡市早良区の『原四つ角子ども食堂』。ここでは月に2回、地域の子どもたちのために無料で子ども食堂が開かれている。
この記事の画像(8枚)この日のメニューは、手作りカレー。星型に型抜きされたニンジンとお化けをかたどったチーズをトッピングしたハロウィーン仕様だ。「おいしい。おいしい」と子どもたちにも大好評だ。
一見、普通の子ども食堂だが、主催している稲員諒翔さんによると、この子ども食堂は、子どもたちの体験格差を少しでもなくしたいという思いで立ち上がった場所だという。
体験格差を産む原因は貧困
ここ数年、社会的な課題ともなっている子どもの体験格差。ある調査によると直近1年間でスポーツや習い事、旅行など学校以外での体験活動を何もしていない子どもの割合は、世帯年収が600万円以上の家庭では約11パーセント。それに対し300万円未満の家庭では、その3倍に当たる約30パーセントが、学校外での体験活動をしていないことが明らかになっている。
体験格差は、子どもたちの成長にどのような影響が考えられるのか。体験格差について大規模な調査を行った団体『チャンス・フォー・チルドレン』の今井悠介代表理事は「体験格差は子どもの非認知能力(コミュニケーション力や意欲など)の獲得の機会を奪ったり、想像力の幅を広げたりする機会を奪っていきます。将来に渡って選択肢、例えば進路だとか、職業の選択だとか、そういう機会を狭めてしまうという可能性もあると思っています」と語る。
「両親が離婚」自らの体験がもとに
原四つ角子ども食堂では、体験格差を少しでも減らそうと月に2回行っているこども食堂のうち、1回は食事だけでなく季節に合わせたさまざまな体験をしてもらうイベントを今夏から始めた。例えば、7月には室内に長い竹を持ち込んでの流しそうめん体験。8月には焼きそばやフランクフルト、スーパーボールすくいを屋台風に楽しめる夏まつり体験。そして10月はハロウィーンパーティ。参加者は、思い思いの衣装を身にまとって楽しんだ。
「私自身、両親の離婚を経験していて…」。主催者の稲員さんが体験格差をなくそうとするのは、自らが幼いときに感じていた体験格差からだ。「どちらかというとお金がない家庭だったので、旅行に行ったり、祖父母の家に泊まりに行ったり、そういうことができなかったので…。劣等感とまでは言いませんが、自己開示できないというのを小学校高学年くらいから経験して…」と稲員さんは振り返る。自身の経験からも子どもの頃の体験格差は、心の成長に影響すると考えている稲員さん。体験型こども食堂で成長のきっかけを提供したいと考えているのだ。
一般的なこども食堂とは少し違う体験型こども食堂。子どもたちにも「友だちは金曜日とかいろいろ用事があるから、ここが楽しい」(小学5年生・男子)と好反応だ。また3人を子育て中の母親は「我が家も母子家庭。他のお宅はいろいろなことしているけど、イマイチさせてやれていないと日々思っているので、助かります。ここがあるけん、いろんなこと初めて体験できることが多いもんね」と感謝しているようすが伺えた。
この体験型子ども食堂は、クラウドファンディングで募った資金で運営されている。
行政も支援「自己肯定感を育んで」
家庭環境によって格差が生まれないようにという取り組みは行政でも進められている。福岡市では子どもたちが生まれ育った環境に左右されずに個性や能力を伸ばしてほしいとスポーツ教室や学習塾などの初期費用や月謝に充てられる電子クーポンを1人年間12万円分助成している。生活保護世帯、または児童扶養手当を受給している世帯などで小学5年生から中学3年生までの子どもがいる家庭が対象だ。市の担当者は「この事業を利用して得意なことを見つけたり、自己肯定感を育むきっかけにしたりしてほしい」と話していた。
(テレビ西日本)