長年野球界を見続けてきて、プロ野球の監督をやりたい者はごまんといた。それでも声がかかるかどうかは、「運」と「タイミング」次第である。この二つのどちらかでも欠けていれば、永遠にそのチャンスが巡ってくることはない。

今回の経験をよい教訓を得たと思って次につなげてほしいのだ。

原辰徳は野球以外のことで勉強を重ねた

これから先、立浪が学ぶことはたくさんある。野球の戦術や戦略についての知識を蓄えることはもちろんだが、野球以外の領域でもいろいろな知識を蓄えることが必要だ。

これは以前、原(辰徳)から直接聞いた話だが、彼は野球解説者をしていたときは「考え方の視野を広げなくてはいけない」ということで、さまざまな分野の本を読み漁っていたという。

さまざまな分野の本を読むことも一つ(画像:イメージ)
さまざまな分野の本を読むことも一つ(画像:イメージ)

一番読んだ分野は歴史ものだったという。とくに『三国志』はお気に入りで、登場人物や時代背景が複雑だったので、ノートに書いて頭のなかで整理しながら読んでいったそうだ。

そうしたなかで、魏の創設者である曹操孟徳に憧れを抱いていた。巨大戦力によって絶対的な地位を築き上げ、残酷かつ冷淡で手段を選ばない。「天下を取るなら、自分にも周りにも厳しくないといけない」ということを学んだ。

このほかにも、日本の歴史小説も数多く読んだ。

とくに戦国武将の生きざまについては考えさせられることが多く、戦略や戦術にとどまらず、それぞれの武将が自軍の大将についた理由、あるいは裏切って敵方についてしまった理由は何だったのか。そうした場面から、人の心の機微を学び取った。

「Z世代って何?」ではダメ

彼は歴史にとどまらず、政治、経済、時事情勢など、関心の幅が広範囲に及んだ。話をしていて、「よくこんなことを知っているな」と感心させられたことも一度や二度ではなかった。

また政治の世界においては、甘利明元経済再生担当大臣とつながりがあり、当時の安倍晋三首相と食事をしたこともあった。

その際、あまりにも原が政治に詳しいので、自民党から出馬させるというプランも描いていたそうだが、3度目の巨人監督の就任により、その話は流れてしまったという話も実際にあったようだ。

もちろん立浪にも原と同じようにしなさいというつもりはない。けれども、一度監督を務めたことで、自分に足りないものや欠けているものについて把握しているはずだ。

そうした部分を補うための勉強の時間に充てたっていいし、通信制の大学に行って心理学について学んでみたっていい。

担当記者に「Z世代って何ですか?」と聞いているようでは、この先、監督の話が舞い込んでくるとは思えない。それだけに、監督退任後の立浪には、やっておかなくてはならないことが、無数にあるはずだ。

『ミスタードラゴンズの失敗』(扶桑社新書)

江本孟紀
現在はプロ野球解説者として活動。ベストセラーとなった『プロ野球を10倍楽しく見る方法』(ベストセラーズ)、『阪神タイガースぶっちゃけ話』(清談社Publico)をはじめ著書は80冊を超える

江本孟紀
江本孟紀

1947年高知県生まれ。高知商業高校、法政大学、熊谷組(社会人野球)を経て、71年東映フライヤーズ(現・北海道日本ハムファイターズ)入団。その年、南海ホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)移籍、76年阪神タイガースに移籍し、81年現役引退。プロ通算成績は113勝126敗19セーブ。防御率3.52、開幕投手6回、オールスター選出5回、ボーク日本記録。92年参議院議員初当選。2001年1月参議院初代内閣委員長就任。2期12年務め、04年参議院議員離職。現在はサンケイスポーツ、フジテレビ、ニッポン放送を中心にプロ野球解説者として活動。2017年秋の叙勲で旭日中綬章受章。アメリカ独立リーグ初の日本人チーム・サムライベアーズ副コミッショナー・総監督、クラブチーム・京都ファイアーバーズを立ち上げ総監督、タイ王国ナショナルベースボールチーム総監督として北京五輪アジア予選出場など球界の底辺拡大・発展に努めてきた。ベストセラーとなった『プロ野球を10倍楽しく見る方法』(ベストセラーズ)、『阪神タイガースぶっちゃけ話』(清談社Publico)をはじめ著書は80冊を超える。