リサイクル率日本一として国内外から注目される鹿児島・大崎町。その背景には、28品目にも及ぶ資源ゴミの分別回収など“行政と住民がタッグを組んだリサイクル事業”と、水平リサイクルを可能にした“特殊な技術力”があった。
ビンだけでも4種類 リサイクル日本一の町
大崎町で2024年4月からスタートした、使用済み紙おむつのリサイクル事業。
この記事の画像(14枚)これまで紙おむつをダンボールや古紙などに再利用する企業はあったが、大崎町と志布志市、紙おむつを販売するユニ・チャームなどが取り組んでいるのは、使用済み紙おむつから新たな紙おむつを作り出す世界初の“水平リサイクル”だ。
そんなリサイクルの町・大崎町ではどういった取り組みが行われているのか、日常をのぞいてみた。
9月26日、大崎町野方は月に一度の資源ゴミ回収日だった。ずらりと横一面に並ぶ水色のかご。大崎町のゴミの分別はとても種類が多く、現在は28品目にも及ぶ。そのうち27品目がリサイクルする資源ゴミだ。
空きビンだけを見ても、茶色や透明のものなど4つに分別する。また、食用油も専用の回収容器がある。この細かな分別がリサイクルの町の日常なのだ。
住民からは、「いいことです」「(分別は)めんどくさいよね。やらなきゃだめだから」「SDGsとか、そういう観点から協力しないといけない」といった声が聞かれた。
なぜここまでゴミを徹底して分別するのか。
世界からも注目される“大崎システム”
大崎町と、隣の志布志市が使っている埋め立て処分場「曽於南部厚生事務組合清掃センター」が理由だ。処分場は1990年に作られ、当初は15年ほどしか使えない予定だった。
しかし30年以上たった2024年でも、まだかなりの余力があるように見えた。大崎町役場・竹原静史さんは「住民の方々の努力に他ならない」と話す。家庭から出るゴミを細かく分別してもらうことで、埋め立てのゴミを減らすことができたことが大きいというのだ。
埋め立て処分場の運用が始まった頃は、ほぼ全てのゴミが埋め立てられていた。そこで大崎町は、住民と話し合いを重ねた。選択肢は「コストの高い焼却炉を造る」か、「埋め立て処分場を延命する」か、「新たに埋め立て処分場を造る」か、の3つだった。そして住民は、「埋め立て処分場の延命」を選んだ。
その結果、ゴミの細分化が進められることになり、1998年には3品目だったゴミの分別が、2004年には16品目、そして2024年4月に28品目にまで細分化された。
大崎町で出されたゴミの量をグラフにまとめてみた。オレンジで色づけした部分がリサイクルできたゴミの量だ。住民と行政がタッグを組んだ結果、そのリサイクル率は80%を超えるようになった。こうしてリサイクル日本一の町は誕生したのだ。
住民を巻き込んだ取り組みは“大崎システム”と呼ばれるようになり、海外からも注目され、これまで20カ国以上が視察に訪れた。
取材した日は中米・グアテマラの視察団の姿があった。グアテマラ・パツィテ市メルチョール・アグアレ・カレル市長は、「大崎町が積み上げてきた経験をいろいろ聞きましたが、非常に全てが印象に残った。私の町はもっと小さいので、小さな規模で“大崎システム”をやりたい」と抱負を語った。
世界初!紙おむつを紙おむつにリサイクル
大崎システムは軌道に乗ったものの、ある問題に頭を悩ませていた。埋め立てられるゴミの約2割を占めていた“紙おむつ”だ。
竹原さんは紙おむつについて「赤ちゃんのイメージなんですけど、高齢の方も使われるようになって、どんどん増えていくだろう」と今後の増加を予想する。そこで、始まったのが世界初となる「紙おむつの水平リサイクル」だ。
大崎町に住む松元さん一家を訪ねた。出迎えてくれた咲空ちゃん(2歳)は元気いっぱい。母親の紗幸さんは咲空ちゃんのおむつを替えながら、「まさか、おむつがリサイクルできるとは思ってなかった。限りある資源に貢献できるのであれば、すごくいいことだなと思います」と率直に驚いていた。
紗幸さんが自宅近くの「紙おむつ専用回収ボックス」を案内してくれた。このボックスに使用済み紙おむつを入れると、回収され、リサイクルへと進んでいく。
そして、町内の資源ゴミが集まる「そおリサイクルセンター」に足を運ぶと、水平リサイクルの中心を担う、ユニ・チャームの小西孝義さんが迎えてくれた。
小西さんは、使用済み紙おむつのパルプをオゾン処理槽でオゾン処理している設備を案内してくれた。ここではパルプを均一にオゾンに触れさせて、消臭、漂白、殺菌を行っているという。処理前と処理後のパルプの違いは、一目瞭然だった。「紙おむつのリサイクルを行いたいと考えたのは2010年。もう14、5年ですかね…長かったですね」と笑う小西さんの表情からこれまでの苦労が感じられた。
「リサイクルは幸せに暮らせる環境作り」
十数年の月日を経て完成した特殊な技術。リサイクルの町で進む、世界初の取り組みはこれからどう発展していくのだろうか?
小西さんは、「分離分別が一丁目一番地の技術」だと前置きしたうえで、「(大崎町という)リサイクル意識の高い住民の方々でどの程度いけるんだろうと、一つのバロメーターになった」と取り組みの成果を強調した。「今までリサイクルできるはずがないと思われていた使用済み紙おむつも、ちゃんと処理をすれば資源になる。今後“大崎発”でまず日本に広めて、その次に海外に広げていきたい」とその目は将来を見据えていた。
大崎町の住民にとって、リサイクルの進化は生活にどう影響しているのだろうか。
大崎町役場の竹原さんは、「(リサイクルは)あくまでも町民の方が衛生的で幸せに暮らせる環境作り。最終的にこれを未来永劫、子どもたちに伝えていくのが我々としての役割」と語る。
“資源は無限”ではない。一人一人が意識を変えて資源を守っていくことは、その地域や人を守ることにもつながる。リサイクル率80%の“大崎システム”は身近なところから始めて成功した事例として、私たちに多くのことを教えてくれている。
(鹿児島テレビ)