関西テレビの東京駐在記者が、今注目されている重要人物たちにじっくり話を聞き、ホンネに迫るシリーズ。
「政治とカネ」が主なテーマとなった2024年の通常国会。

政治改革の与党案をまとめる「実務者協議」の責任者を務めた公明党・中野洋昌衆院議員(兵庫8区選出)に、政治改革を巡る自民党との交渉、維新との駆け引きについて舞台裏を聞いた。
■自公決裂 見えた“文化の違い”
ーQ.交渉で思うようにならなかった点、「自民党の体質」を知った点はありましたか。
中野議員:公明党と、おそらく立憲民主党とか共産党とか、割とボランティアでいろんな人が地元の活動を手伝ってくれて運営しています。
自民党はそういう大きい支持母体がないので、秘書もいっぱい雇わないといけない。
それぞれの政党でいろんな収支の構造、どこにお金を使うのかも全然違う。そこはみんなで納得できる形でないといけないな、と思っていました。

―Q. 自民党が「改革に後ろ向き」と感じたことはありますか。
中野議員:自民党の方が、いろんな収入がないと非常に活動しにくいという思いが、多分あるんだろうと。
『あまり規制を厳しくすると、元々お金がある人じゃないと政治活動ができなくなる』、『パーティー券の収入自体が減ってしまうんじゃないか』とか、いろんな懸念もあって、透明性の向上のところで、すごく調整に苦労しました。
ただ今回、これだけ政治不信が高まっている状況もあるので、私は再発防止とか、法律をしっかり守っていくことに関して、もっと思い切って議論をしていただいた方がよかったと思います。

立憲民主党や共産党の場合、支援する労働組合があり、公明党の場合は、支持母体の宗教団体「創価学会」がある。学会員たちはボランティアで政治活動・選挙活動を手伝っている。私もこれまで、自民党議員から「“タダ働き部隊”が多くて、うらやましい」との声を、何度も聞いてきた。私設秘書を何人も抱える事務所もあり、人件費負担は重い。こうした「文化の違い」が、中野議員の話からも垣間見えた。
一方で、近年は学会員も高齢化が指摘されるほか、親や祖父母、曾祖父母の代から学会員…といった「2世・3世・4世」が増え、「昔に比べ活動の熱量が低下している」との声もある。それを示すように、国政選挙での比例区の得票は、2022年の参院選で約618万票と、前年の衆院選より約93万票減少していて、公明党も決して将来安泰でなさそうではある。
■自公連立“終わる日”は来るのか
文化の違いが明らかになり、一度は交渉が決裂した自民党と公明党。自公の連立は未来永劫続くものなのか。中野議員は2012年初当選で、「私はずっと与党」と語るが、どう考えているのか。
―Q.今回、公明党は「同じ穴のムジナ」とも言われました。支持者の声はどうでしたか。
中野議員:連立相手の自民党でそういう不祥事が出てしまうと、連立政権全体が問題になってくる。支持者の皆さんは、『しっかり厳しく対応していかないといけない』って、ずっとおっしゃっていました。

―Q.自公の枠組みってずっと続いていくのか、あるいは、どうなるか分からないものですか。
中野議員:公明党は、自民党と社会党の55年体制の中で、拾われない意見を政治に反映させていきたいと結党されました。自民党とは成り立ちも得意分野も違う。
自民党だと、問題があったとき、制度全体から見て『ルールをこうします』と言うけれど、公明党は『普通の市民からすると、こういう懸念があるんじゃないか』とか、意見が違う。
違うものをうまく合意できれば、すごく安定して幅広い合意ができる。そういう政権なのかなって思っています。
一方で、こうした「忠告」も付け加えている。
中野議員:意見や得意分野が違うので、議論して最後は一つの形にして進めていけるかどうかは、信頼関係というところが強いかなって思っているので、そこはお互い努力をしないと、維持できないのかなと思っています。
―Q.自民党が努力をしなくなったら、いつまでも続いていくわけではない?
中野議員:それはもちろん、そうだと思います。(旧民主党に)一回政権交代したときも一緒に野党になっているので、すごく信頼度は高く、しっかり続いている。
この枠組みがそんなにすぐどうこうなるとは、全然思ってはいないんですけど。
■公明抜きで維新と合意「領収書10年後公開」どう思った?
話を政治改革に戻す。自民党は日本維新の会とも接触し、水面下の交渉を重ね、「政策活動費」の領収書を「10年後に公開」するとした。岸田文雄首相(当時)は公明・山口那津男代表と会談した直後、維新・馬場伸幸代表とも会談、合意文書を交わした。この動きを、どう見ていたのか。

―Q.自民と交渉が進んでいく中で、維新が登場してきました。「政策活動費の領収書10年後公開」というのは、どうご覧になっていましたか?
中野議員:維新と自民が調整をどうしていたのかは、実は全く別々に協議していたので、全然知らないというか、そういう状況だったんです。
政策活動費なんていらないじゃないか、というのがあるけれど、使途を一定明かさない使い方が必要だと最後まで訴えていたのは、自民と維新の2つだけなんですね。
基本的に私は、10年後に領収書を公開とすると、かなり間が空くので、そこまで抑止力が本当に働くのかな、という思いもありました。
自民党の修正案に、罰則の強化、監査の第三者機関設置、パーティー券5万円超の購入者公開が入り、公明党は「基本的に訴えが全部盛り込まれた」として賛成した。一方で中野議員は、「10年後公開」が含まれたことに葛藤もあったようだ。

中野議員:自民党が政策活動費を残したいのであれば、じゃあそういう形でやれないかと、それで合意をした中で、維新が『10年後に公開をする』で(自民と)合意された。
我々のスタンスとしては、第三者機関がしっかり毎年ちゃんとチェックできる体制を作れば、領収書の公開の形がどうあれ、しっかりチェックできるから、そこは反対はしないけれども、これだけで担保するっていうのはちょっと難しいんじゃないかなと。基本的にはそういう考え方ですね。
中野議員は、維新が提出していた政治改革法案(後に自民との合意で取り下げ)に対して、政策活動費で質問攻めにするミニ動画を投稿するなど、SNSを中心に対決姿勢を鮮明にしている。これにはある事情が見え隠れしている。
■地元・尼崎では維新と“初対決”
これまで維新は、いわゆる「大阪都構想」への協力を引き出そうと、公明議員がいる衆院選挙区には、候補を擁立してこなかった。しかし方針を転換し、大阪府と兵庫県の6選挙区で初対決に挑む。中野議員のいる兵庫8区(尼崎市)には、清水貴之参院議員を擁立する。(日本共産党・小村潤氏も立候補予定)
―Q.斎藤知事の問題もあって、維新は力が確かに落ちている状態ではありますが、「維新候補との初対決」、どう臨みますか。
中野議員:関西で維新と選挙で戦うというのは、やっぱりものすごく強いので、これは今までにない本当に厳しい選挙だなと思っています。
お互い現職同士なので、やっぱり個人の議員の力として、どういう活動をし、地元でどういう実績を残して、どういう将来のビジョンがあるのかは当然問われてくる。
地元で駅前の再開発とか、教育の学力向上とか、いろんな取り組みをしてきた実績というのは、訴えていきたいと思っています。
~取材を終えて~
政治改革について、文化の違う自民との交渉の難しさ、途中から登場してきた維新に対する困惑、最終的には連立与党として賛成しておきたいという葛藤。
公明党議員らしい、妙に慎重な言葉選びも感じるものの、じわじわと伝わってくるものもあった。

自公の連携は、約3年間の民主党政権時代を含め、1999年から25年の歴史があるが、自公連立は「当たり前」という意識がお互いに芽生えていないだろうか。
公明がもっと連立離脱をチラつかせていれば、一連の政治資金問題の実態解明や、実効性ある政治改革に近づけたかもしれない。
時にはそうした覚悟、あるいはポーズも、必要ではないだろうか。
(関西テレビ報道情報局東京駐在 鈴木祐輔)