今から58年前に起きた“袴田事件”のやり直しの裁判は9月26日に判決が言い渡される。この事件をきっかけに注目されているのが裁判のやり直しに関するルールを定めた刑事訴訟法の再審規定だ。袴田巖さんの姉・ひで子さんは改正を訴えている。

一度も改正されていない再審規定

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袴田ひで子さん
再審法の改正、弁護士の皆様も一生懸命ですので、皆様にご協力をお願いに来ました

9月19日、都内で開かれた集会に参加し、刑事訴訟法の再審規定、いわゆる再審法を改正すべきと訴えた袴田ひで子さん。

1966年に静岡県清水市(当時)で起きた強盗殺人放火事件、いわゆる袴田事件で死刑判決が確定した袴田巖さんの姉だ。

ひで子さんは「47年間、巖が拘置所で頑張った。その頑張りをぜひ皆様の力で再審法の改正なり訂正なりしてい欲しい」と訴えた。

刑事訴訟法には500以上の条文があるが、再審に関する条文はわずかに19に限られる。

しかも、過去75年にわたって一度も改正されていない。

証拠開示の義務がない日本の再審

証拠開示ルールの違い
証拠開示ルールの違い

こうした中、日本弁護士連合会などが特に問題視しているのが証拠開示に関する規定だ。

通常の裁判員裁判では審理を迅速に進めるため、検察側は自分たちが持っている証拠のリストを弁護人に示すことが義務付けられている。

一方、再審についてはこうした開示義務がないのだ。

日弁連 再審法改正実現本部・鴨志田祐美 本部長代行は「捜査機関が集めた証拠の中に再審を求める人の無実を示す証拠が隠されている可能性があるのに、それを出せというルールがない。それでとても時間がかかってしまっている」と話す。

日本の刑事司法について研究を続けるハワイ大学のデイビット教授もまた再審法の不備を指摘。なぜならアメリカの一部の州やドイツなどでは再審の手続きにおいて検察が証拠を開示することが義務になっているからだ。

ハワイ大学・デイビット 教授:
think if there is a difference between America and Japan, the main difference is that in America, the court have rule clearly that prosecutors posses the evidence that is favorable to the defense, they must give it to the defense. It does not optional. I think it is a great pity and very unfortunate, and I don’t understand why prosecutors did not disclose the evidence much much earlier in the case decades ago.
(日本とアメリカの大きな違いは検察側が弁護側にとって、有利な証拠を持っていた場合、その証拠を検察側が弁護側に示す義務がある袴田事件の審理において、もっと早く何十年も前に検察が証拠を開示しなかったことは非常に残念で理解に苦しむ)

再審請求審の審理記録の抜粋
再審請求審の審理記録の抜粋

袴田さんの弁護団では過去何十年にもわたって証拠を開示するよう検察に求めてきた。

しかし…

~再審請求審における検察の証言~
本件解明にとって不可欠な重要写真はすでに必要に応じて提出されている。(弁護側が求める証拠を)開示する根拠がなく、それはできない。

証拠開示によって事態は動いた

転機が訪れたのは2010年。

弁護団の小川秀世 事務局長のもとにかかってきた検察からの電話だった。

袴田弁護団・小川秀世 事務局長
上の方針が変わったたため証拠開示について今までは消極的だったが、前向きに検討するので期待してくださいという電話がかかってきた

その後、検察側はこれまで表にしてこなかった約600点の証拠を開示。

袴田さんの裁判のやり直しを最初に決めた静岡地裁の当時の裁判長・村山浩昭さんは新たに開示された証拠の存在は大きかったと振り返る。

証拠として開示された写真
証拠として開示された写真

村山浩昭さん(静岡地裁・元裁判長):
証拠開示によって提示されたカラー写真は非常に分かりやすい写真で、これを見て、弁護団も本当にこんなに赤が残るのかという疑問を持って実験をしたのだと思う。それを受けて色々な審理をした結果の開始決定。それらがなかったら再審開始自体が実現しなかった可能性も十分あると私は現状で思っている

証拠開示への慎重姿勢は崩さず

再審法改正を目指す議員らの会合(2024年3月)
再審法改正を目指す議員らの会合(2024年3月)

2024年3月には再審法の改正を目指す超党派の議員連盟が発足し、これまでに全国会議員のうち約半数が加盟。

だが…。

法務省の担当者:
法制審議会において、再審請求審における証拠開示制度を設けることについて議論が行われたが問題点が指摘され、結果として法整備に至らなかった。

法務省の担当者は過去の再審事件について、審理が長期化した原因を調査する予定がないことを明言し、法改正に関しても検察庁と共に慎重な姿勢を崩していない。

 
 

日弁連 再審法改正実現本部・鴨志田祐美 本部長代行は「議連の設立総会のあと、法務省が当日出席した全員のところを回って『運用でなんとか…』『日弁連の言うとおりにしたら大変なことになる』とロビーイングをしているみたい」と呆れる。

また、村山浩昭さんは「長期化の原因もわからないし、調べる気もないというのは私はショックでした、正直言って」ともらした。

法律を変えなければ

袴田ひで子さん
袴田ひで子さん

袴田ひで子さん:
冤罪事件なんて自分たちだけだと思っていた。ウチだけこんなひどい目にあっていると思ってた。ただ、そうではないということがわかった。死刑囚は死刑で命を取られる(袴田さんの)命をとられるから私は一生懸命やったけど、そうでない人たちだっている。その人たちだってやっぱり助けなければ。法律を変えなければしょうがないことでしょうから、国会議員にも弁護士にも頑張ってもらい、いっぺんに変えようって言っても無理なので1つずつでもいいから。変えていってもらわなければしょうがない

袴田 巌さんと姉・ひで子さん
袴田 巌さんと姉・ひで子さん

ひで子さんは言う。

「巖の58年を無駄にしないで欲しい」と。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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