北海道知床の観光船沈没事故から間もなく2年半。18日、安全を確保する義務を怠り「KAZU Ⅰ」を沈没させ、乗客・乗員26人を死亡させた疑いで、運航会社の社長・桂田精一容疑者が業務上過失致死などの疑いで逮捕された。
2022年4月の説明会では話が二転三転したり食い違ったりするなど、不明点が多く残されている。
今回の社長の逮捕は、事故原因の究明につながるのか。またなぜこのタイミングでの逮捕となったのか。「イット!」では、家族が行方不明者の男性を取材した。
事故直後、乗客家族への説明から逃げ回っていた桂田容疑者
沈没事故から2年以上経った18日、業務上過失致死などの疑いで「KAZU Ⅰ」の社長を海上保安部が逮捕した。

18日午後1時半ごろ、北海道の網走海上保安署から出てきたのは、観光船「KAZU Ⅰ」の沈没事故を起こした「知床遊覧船」の社長、桂田精一容疑者(61)だ。
事故直後の2022年4月の会見では…。

桂田社長:
このたびはお騒がせしまして、大変申し訳ございませんでした。(土下座)
と、“土下座謝罪”をした桂田容疑者。

記者:
(桂田社所長を追いかけ走りながら)桂田さん、説明責任果たせたと言えますか?あれで。
桂田社長:
(逃げるように走りながら)…。
記者:
(桂田社所長を追いかけ走りながら)社長!逃げも隠れもしないって言ったじゃ無いですか!
桂田社長:
(逃げるように走りながら)会見があるんで急いでいるんですよ。

事故が発生したのは、2022年4月23日。観光船の「KAZU Ⅰ」が、知床半島の西側にある「カシュニの滝」近くで沈没し、

合わせて20人が死亡、6人の行方が今もなお、わかっていない。

事故当時、乗客の捜索活動が続く中、海上保安部などが乗客の家族に対し説明会を実施した。事故発生の3日後には説明会が3度開かれたが、桂田容疑者は一度しか出席しなかったという。
その時の様子について関係者は「『社長は足を組んでいた』と聞いた」と話す。
事故直後、公の場に姿を見せなかった桂田容疑者。当時、FNNの電話取材には、こう説明していた。
(電話)桂田社長「桂田です。」
ーーきょうの会見は何時からやりますか?
桂田社長「えーとですね、ちょっと今、ご家族の対応をしていまして」
ーーご家族に説明がないようなのですが。
桂田社長「…」
乗客の家族に対する説明から逃げ回っていた桂田容疑者。結局、会見を開いたのは事故発生から4日後だった。

桂田社長:
このたびはお騒がせしまして、大変申し訳ございませんでした。(土下座)
報道陣を前に、土下座から始まった謝罪会見で桂田容疑者は「事故の原因究明に向けての協力を全力で行っていく所存でございます。このたびは、大変申し訳ございませんでした」と再び土下座し、この会見で3回土下座を繰り返し、謝罪の姿勢をアピールした。
桂田容疑者は“海のことは分からない人”
事故の一つの焦点となっていたのは、誰が、どういう理由で、出港の判断をしたのかという点だ。

事故当日は波浪注意報が出ており、波の高さは1.5~3メートルの予報だった。運航基準が守られずに出航していたのだ。
これについて桂田容疑者は謝罪会見で「海が荒れるようであれば、引き返す“条件付き運航”ということを(船長の)豊田氏と打ち合わせ、当時の出港を決定いたしました」と説明した。

これに対し記者から「当日の出港の可否について」問われると桂田容疑者は「えー、あの、目視というかですね。波は穏やかで、風もなかったので、ある程度は出港できると」と、出港の判断は桂田容疑者が、目視で行っていたことを明かしていた。
果たして、桂田容疑者は安全管理を行うことができたのか。
運航会社の元従業員はインタビューに応じた際「(桂田容疑者は)“海のことは分からない人”だから」と疑問を投げかけている。
会見では安全管理について、“船長任せ”をうかがわせる発言もあった。

桂田容疑者:
午後に天気が悪くなる場合には、船長判断で戻ってきていただくようなことを長年やっております。
ーーなんだかんだ言っても、船長に責任を押しつけているのでは?
桂田容疑者:
いや、責任を押しつけている…ということではなくて、ちょっと頼りすぎていたということ。
と、“船長の責任だ”といわんばかりの姿勢がうかがえた。
2時間半にわたり行われた謝罪会見の最後は、“3度目の土下座”で会見を終えた。
実は、この会見の前日、桂田容疑者は知人との電話で「逮捕はない」と話していたという。

知人男性「逮捕とかないですかね?大丈夫ですかね」
桂田社長「逮捕はないですね、基本的には。弁護士さんにそのへんは、みんな相談してますので、逮捕はしづらいねという話ですね」
あれから、2年半が経った18日、安全を確保する義務を怠り「KAZU Ⅰ」を沈没させ、乗客・乗員26人を死亡させた疑いで桂田容疑者は逮捕された。

このタイミングでの逮捕について、18日午後2時過ぎに行われた会見で、海上保安庁(第1管区海上保安本部)は、「沈没原因を明らかにするため、海底から揚収した船体の検証をはじめとする捜査を2年以上の間継続し、逮捕するに至ったものです」と発表。
沈没原因の解明に時間がかかったことと、桂田容疑者が証拠隠滅をする可能性がありうるとして逮捕したと説明した。
これまで、乗客の家族に対し、決して誠実とは言えない対応をとってきた桂田容疑者。
子どもと元妻が今も行方不明の男性は、桂田容疑者の逮捕に驚いたという。

家族が行方不明の男性:
やっと…やっと逮捕されたなと。物事がひとつ前に進んだなという気はしました。しっかり自分の罪を言い訳しないでちゃんと認めてほしいです。
果たして、桂田容疑者は罪を認めるのか。海上保安庁は、認否を明らかにしていない。
(「イット!」 9月18日放送より)