2024年8月31日。2024シーズンの現役最年長Jリーガーが50歳の大台に到達した。アスルクラロ沼津の伊東輝悦。チームのJ3参入初年度から所属する“生ける伝説”は、現指揮官が選手時代の姿から刺激を受け、50歳になった今も親子ほど年の離れた若手たちと切磋琢磨しながらサッカー愛を貫き続けている。受け継がれるレジェンドの背中、その先に…。2024シーズン、練習生を経て加入した元日本代表のドリブラーも、その背中に大きな影響を受け、共にプレーできる時間を大切に過ごしている。
「いいタイミングでいい人に巡り合ってきた。運がいい」
この記事の画像(9枚)「なぜ50歳までプレーできたと思うか?」
こう問われると、鉄人・伊東輝悦は笑いながらこう答えた。
「なんだったら運だけでここまで来られたんじゃないかと思う(笑)」と。
「運だけ…」というのはもちろん違うのだが、「いいタイミングでいい人に巡り合ってきた」というのはあると思う。その1人が、アスルクラロ沼津を率いて2季目を迎える闘将“ゴン”こと中山雅史 監督(56)だ。
伊東が沼津に加入した2017年、当時49歳だった中山も出番が約束されない立ち位置だった。だがピッチに立つ瞬間を目指し、毎日地味な筋トレなどを手を抜かずに取り組んでいたという。
伊東輝悦 選手:
(中山は)凄かった。ケガがあって一緒にトレーニングをやる機会は少なかったけど、毎日マックスでやってるから、メンタルどうなってんだよ…って思っていた。俺だったらあんなの続かないから、凄いなと思って…それは凄く刺激にはなったな。手を抜かないですからね、本当に。俺はちょいちょい手を抜くけど(笑)
笑みを浮かべながら当時を振り返った伊東はいま、親子ほど年の離れた若手と同じメニューをこなすその背中で、チームに大きな影響をもたらしている。
「大げさじゃなくテルさんがいるから…」
受け継がれるレジェンドの背中。その“50歳の鉄人”から大きな刺激を受けている1人が、練習生を経て2024シーズンから加入した元日本代表・齋藤学(34)だ。
2012年のロンドン五輪、2014年のブラジルW杯にも出場した実績十分のドリブラーは、「他のチームの選手と話していても、これだけ練習をやっているチームはなかなか無い」と沼津のトレーニングの厳しさを語るとともに、こう続けた。
齋藤学 選手:
僕が今このきつい練習を頑張れているのは、大げさじゃなくテルさんがいるからというのはあります。僕、今年34歳なんですけど34歳だからって楽できないというか、(テルさんの)運動量とか他の選手に引けを取らない動きとか、そういうプレーを間近で見れているのは僕は幸せなことだなと。一緒にやれている時間が今はすごく大事な時間だと思っています。
「別次元。参考にならない(笑)」
自らもベテランと呼ばれる年齢に差し掛かかってきた齋藤。円熟味を増したそのプレーで、ピッチに立てば雰囲気をガラリと変えることができるなど、新天地も健在ぶりをアピールしている。
ただ、ここから更なるキャリアを重ねるうえで、伊東のプレーや姿勢で参考や刺激にしている部分を問われると、少し笑みを浮かべてこう答えた。
齋藤学 選手:
いや、参考にはならないっすね、多分(笑)カズさんもそうですけど、別次元の人なので。ただ、次元の違う選手と一緒にやれているってことが僕にとっては幸せですし、一緒にプレーしている時が楽しいんですよ。感覚だったり技術的なものは衰えていないので。フィジカルとか球際とかパワーの面では他の選手に劣ることはあるかもしれないですけど、テクニックの面とか(は劣らない)。(沼津に)入ったばかりの頃も一緒に練習試合に出ることも多くて、プレーについてよく話したりしていたんですけど、やっぱり合うんですよね。あとは僕、結構話をテルさんに聞きにいったりしていて、テルさんの声を聞けるってこと自体が幸せなことなので、僕はたくさん吸収しようとしています。
2人は普段からどんな話をしているのか?その答えは想像以上に多岐にわたった。
齋藤学 選手:
オフの過ごし方だったり、サッカーの感覚の話だったり、テルさんも僕も結構ヨーロッパのサッカーを見るので試合を見た感想とかを言い合っています。あとはテルさんが山登りをしますし、僕も結構オフに山を走ったりするので、そういう話を聞いたりしています。あとは若い時の話や98年W杯のこと、どういう気持ちだったとか、カズさんの落選の時のことや普通じゃ聞けないようなことをここで聞かせてもらっているので、言い切れないくらいたくさんいろいろなことを話しています。
伊東にいたっては誕生日当日(2024年8月31日)も、いきつけの飲食店にタブレット端末を持ち込み、本場・ヨーロッパのサッカー観戦を欠かさなかった。(この日はラ・リーガ A・マドリードvsジローナFCを観戦)
ことサッカーの話題になると少年のような一面も見せる50歳の鉄人とは、サッカー小僧同士、分かり合える部分が多いのかもしれない。
「テルさんの存在は違った意味で大きい」
2024シーズン、J3で27試合を消化しJ2昇格プレーオフ圏内の4位につける沼津。(2024年9月14日現在)
直近の試合では3連敗と終盤に向けギアを上げたいところで思わぬ足踏みが続いているが、悲願のJ2昇格へチームの結束は揺るがない。
齋藤学 選手:
誰が欠けても多分この順位にはいられないと思いますけど、その中でもテルさんの存在はまた違った意味で大きいものですし、何とかもっともっと勝ち続けてテルさんが余裕を持ってリーグ戦に出られるようになるくらい勝っていかなければいけないと思う。勝ちを積み重ねる1つに日々のトレーニングがあるので、本当にテルさんがいてくれることが僕にとってはすごく大きいしチームにとっても大きいことだなと思います。テルさんと一緒にJ2に上がれるようにまだまだ勝ち続けないといけないと思います。
<伊東輝悦(いとう・てるよし)選手>
1974年8月31日生 旧清水市(現静岡市清水区)出身
東海大一高→清水→甲府→長野→秋田→沼津
1996年アトランタ五輪、1998年フランスW杯 出場
アトランタ五輪ではブラジルを撃破する決勝ゴールをあげ“マイアミの奇跡”の立役者に
<齋藤学(さいとう・まなぶ)選手>
1990年4月4日生 神奈川県出身
横浜FM→愛媛→横浜FM→川崎→名古屋→水原三星(韓国)→ニューカッスル・ユナイテッド・ジェッツFC(オーストラリア)→仙台→沼津
2012年ロンドン五輪、2014年ブラジルW杯 出場
(テレビ静岡)