高校サッカー界の名門・藤枝東高校。7月末、これまでサッカー部をサポートしてきた市内の宿舎「ホテルシルビア」が経営難を理由に閉館した。部員やOBにとって“第二の我が家”ともいえる場所の最後を取材した。
生徒受け入れのきっかけは知人の依頼
この記事の画像(11枚)全国高校サッカー選手権で優勝4回を誇る藤枝東高校をはじめ、2023年のインターハイ・サッカー女子を制した藤枝順心高校や強豪・藤枝明誠高校も過去には運動部の宿舎として利用していた「ホテルシルビア」。
約50年前の開業以来「シルビア」を切り盛りしてきたのが菊川千枝子さん(79)だ。知人の依頼で1985年から藤枝東高校サッカー部の生徒を自宅で受け入れるようになり、1996年からは生徒たちの部屋を「シルビア」へと移し“藤枝の母”として生活を支えてきた。
ロビーに飾られた藤枝東高校OBで元日本代表の長谷部誠 選手のサインやユニフォーム、さらには歴代サッカー部の写真・賞状がその歴史を物語る。
経営難で閉館を決意
しかし時代が流れる中で自前の寮を完備する高校があるなど経営が先細り、2023年夏での閉館を決意。
大きな夢を抱き、親元を離れてこの宿舎で高校生活をスタートさせた藤枝東高校サッカー部の野田隼太郎 主将は「毎日快適に過ごさせてもらったので、まだこの部屋にいたかった」と感謝の思いを口にしつつ「廊下で野球をして怒られたこともいい思い出」と懐かしむ。
菊川さんも閉館が近づくにつれ「ずっと一緒だったから子供たちと離れたくない」と寂しさがこみあげている様子だ。
シルビアで食べる“最後の晩餐”
7月28日。この日は寄宿生活を送る生徒にとって「シルビア」で食べる“最後の晩餐”。菊川さんが「あしたからまた頑張って」とエールを送ると、生徒たちはその味を胸に刻むように晩ご飯を食べ「当たり前のようにみんなといたが、それが無くなるのは寂しい」「楽しく自由に過ごさせてもらった」と、この生活が“日常ではなくなる”ことを改めて実感した。
長年の感謝を込めて“お別れ会”
そして「シルビア」が半世紀の歴史に幕を下ろす7月31日。藤枝東高校OBでサッカーJ2・ジュビロ磐田の山田大記 選手が企画したお別れ会が開かれ、OBや現役部員のほか、サッカー部の後援会関係者など約50人が集まった。
静岡県浜松市出身の山田選手もまた「シルビア」で高校生活を送り、菊川さんを“藤枝の母”と慕う一人だ。
山田選手は「遠方からサッカーがしたい一心で藤枝に飛び込んできた僕たちを受け入れてくれた」と感謝した上で「シルビアがあったから今の僕たちがいて、感謝の気持ちでいっぱい」と挨拶し、愛知県出身で藤枝東高校を卒業後、中央大学を経て今季からサッカーJ2・藤枝MYFCに所属する平尾拳士朗 選手は「高校時代を振り返るとシルビアでの思い出が本当に多く、シルビアの存在が自分たちにとって本当に大きなものだった」と述べた。
また静岡県富士市出身で元Jリーガーの赤星貴文 選手も「毎日、僕の“親”として育ててくれ、高校3年間は今でも忘れられない日々」と振り返った。
最後に現役部員を代表して野田隼太郎 主将が「シルビアで過ごした時間は宝物。シルビアでの生活は終わりになるが、思いを背負ってこれからも頑張っていく」と今後への決意を表明すると、菊川さんは「みんな来てくれて会えたことがうれしい。本当にありがとう」と声を震わせた。
「シルビア」は閉館となったが、菊川さんは今後も藤枝東高校サッカー部の躍進を、そしてOBたちの活躍を少し離れたところで見守っていくつもりだ。
なお、ロビーに飾られていたサインなどは藤枝市に寄贈され、今後、博物館などで展示される予定となっている。
(テレビ静岡)