カマラ・ハリス副大統領は8月29日、民主党の大統領候補に指名されて以来初めてのインタビューに応じたが、分かりにくいレトリックを駆使して「言語明晰意味不明」という定評を改めて裏付けてしまったようだ。

ハリス氏の発言はわかりにくい?保守系メディアが反発

CNNとのインタビューで注目されたのは、ハリス副大統領が民主党でも思想的に最左翼と言われながら最近政治姿勢を中道寄りに変えていることで、この点をダナ・バッシュ記者に聞かれると副大統領はこう答えた。以下の邦語訳は公正を期すためにAIのチャットGPTに翻訳させた。

「ダナ、私の政策の視点や決定において最も重要で最も大きな側面は、私の価値観が変わっていないということです。グリーン・ニューディールについて言及しましたが、私は気候危機が現実であり、緊急の問題であると常に信じてきましたし、その問題に取り組んできました。時間に関する期限を設けることを含め、我々が自らに課す指標を適用すべきだと考えています。(後略)」

この発言に対して、保守派のマスコミから反発が巻き起こった。

ハリス氏の発言内容に保守系メディアから「意味不明」と批判が相次いだ
ハリス氏の発言内容に保守系メディアから「意味不明」と批判が相次いだ
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「カマラがCNNインタビューでつまずく=易しいインタビューに意味不明な言葉のサラダを口走る」(極右系ニュースサイト「ゲートウェイ・パンディット」8月29日)

「カマラ・ハリスの気候変動『期限』に関する最新の『言葉のサラダ』に保守派が反発」(FOXニュース8月29日)

「『ハリスの大脱線』:カマラはCNNのソフトボール(バッターが打ち易いように緩い球を投げる)ような易しいインタビューにもかかわらず支離滅裂に『言葉のサラダ』で対応、元オバマ戦略家がトランプとの討論会を前に厳しい評価を下す」(英紙デイリー・メール電子版8月30日)

これらの報道に共通している「言葉のサラダ(word salad)」という表現をネットで確認するとこうある。

「文法的には正しいが、単語の使い方がでたらめなために意味不明の文章」のことを言い、統合失調症の思考障害の一つで、スパムメールなどに使われるとある。

要するに「言語明晰意味不明」な文章や発言を指す言葉で、ハリス副大統領のこの日の発言、特に気候変動対策について「時間に関する期限を設けることを含め、我々が自らに課す指標を適用すべきだと考えています」と言ったのが何を意味するのか、文法や単語は間違っていないが、意味不明だと批判されたのだ。

英語の本場、英国の大衆紙もそう断じているので間違いないと思うが、そのデイリー・メール紙の記事は、元オバマ政権の戦略担当者でハリス副大統領の理解者であるはずのデビッド・アクセルロッド氏が「ハリスには前進が見られなかった」と厳しい評決を下したとも報じた。

「言葉のサラダ」は検察官的思考のなせる技か

ハリス副大統領の発言はかねて「言葉のサラダ」と言われていた。ネット通販サイトでは副大統領の似顔絵に「言葉のサラダ女王」と書かれたTシャツが、16.95ドルで売り出されている。

ハリス氏の似顔絵に「言葉のサラダ女王」と書かれたTシャツ(Amazon.comの商品ページより)
ハリス氏の似顔絵に「言葉のサラダ女王」と書かれたTシャツ(Amazon.comの商品ページより)

最近では8月18日にペンシルベニア州で開かれた集会で、演説の締めくくりに次のように語ったのが「言葉のサラダ」だとされている。

「私たちは、民主主義の本質には二面性があることを知っています。一方では、それが完全な状態であるときに見せる信じられないほどの強さです。人々の権利、自由、そして自由を守り、擁護するために何をするかということです。信じられないほど強いものです。そして、信じられないほど脆いものでもあります。民主主義は、それを守るために戦う私たちの意志の強さと同じだけ強いのです」

これに、FOXニュースが19日の記事で噛みついた。

「ハリスが民主主義の『二面性』という新たな言葉のサラダを口走り嘲を受けることに:彼女が自分の言葉で語り出すとこういうことになるので、台本から逸脱させてはだめなのだ」

検察官の出身のハリス副大統領の思考は、相手を理解させることよりも反撃の余地を与えないように組み立てられているのかもしれない。その発言には「隙がない」が難解で、それで政治家として国民の理解を得るのは難しいだろう。

9月10日にはトランプ前大統領とハリス副大統領との初のテレビ討論が行われる。トランプ前大統領は「お前はクビだ!」と言うのが常套句のように、直裁にものを言うのが得意だ。一方、ハリス副大統領が「言葉のサラダ」を持ち出して意味不明な発言で対抗したどうなるのか、人ごとながら心配なのだが……。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。