最強クラスの台風10号の接近に日本全国が不安を抱く中、浜松市長の不適切発言に批判が相次いだ。市内に避難指示が発令される中、地元選出の県議会議員の会合に出席し「台風が近づくとなぜか高揚する」と発言したのだ。市長は発言の翌日に撤回し謝罪した。高揚感という言葉を使ったのは「防災専門家の本能」ともとれる弁明をした。
病気復帰の県議を称賛しようと…

浜松市の中野祐介市長(54)の不適切発言が飛び出したのは、2024年8月28日夕方に開催された地元選出の自民党県議会議員の病気からの復帰を祝う会合でのことだ。
台風10号の接近で浜松市でも断続的に雨が降り続き、28日午後4時までの48時間雨量は320mmとなり、夕方には市内の一部に約32万人を対象に避難指示が出ていた。
こうしたタイミングで県議の会合に出席した中野市長は、県議夫妻が着席するステージに登壇すると、集まった支援者たちにむかって、こう話しかけた。

中野祐介市長(28日の県議の会合):
先生、これで元気になられたということで、これからの先生のご活躍に対する期待感、一方でいま近づいてきております台風10号。台風が近づくとなぜか高揚する、高揚感、そんなものがごちゃまぜになってこの会場に満ち溢れている、そんな風に感じているところでございます。
そうは言いましても今回の台風は大変厄介でありまして、行く先、方向がいつまでたっても定まらない。進む速度が遅々としてノロノロ進んでしまう。これが先生であったなら、真向主張の先生であればズバッとすっと行ってくれたはずなのに、そういう風に思っているところです。先生の爪の垢を煎じて台風10号に飲ませてやりたい
復帰予定の県議の仕事ぶりをノロノロ台風と対比して称賛したかったのだろうか、台風にふれるくだりで「台風が近づくとなぜか高揚する、高揚感」と口にした。
一夜で撤回し謝罪
中野市長は翌29日の定例会見で、この発言を「不敵な発言だった」と撤回して謝罪した。28日夜に一部の報道機関が取り上げたため、支援者から指摘され反省したという。

中野祐介市長(29日の定例会見):
28日夕方に市内で行われた会合で、今接近してきている台風10号にからめて私の方から不適切な発言をしてしまった。市民感情から大変かけ離れた不適切な発言だったと思うので、発言の撤回とお詫びを申しあげさせていただきたい。誠に申し訳ありませんでした。
これからは市民の皆さんにしっかり寄り添って、発言については慎重にということを心掛けていきたい
「撤回すればそれで済むのか」
市民からはさまざまな声が挙がっている。

浜松市民:
発言を撤回すればそれで済むのかって、僕たちの気持ちは変わらないんだからさ。「撤回するんだったら発言するな」って言いたくなる
浜松市民:
みんながあわただしくやるというか、そういうことを表現されたという風に寛容に受け止めたい
浜松市民:
他人事と言うか、何というか。実際にいま九州で大変なことになっているし、当事者はすごく大変だから
市によると市長の発言について苦言を呈する電話やメールがあわせて19件、市役所に届いているという。
“防災屋”の本能?
なぜ「高揚感」という表現を使ったのか。
記者会見で問われると、市長は防災の専門家としての経験から出た言葉であると弁明した。

中野祐介市長:
防災対策にあたる者としては、きわめて大きな災害が近づいてきている中では気を張って士気を高めて、何としても災害を乗り越えるという点で臨まなければ乗り越えられないということもあり、ただそれを「高揚感」をいう形で表現してしまったのはまずかったと反省している
中野市長は浜松市で生まれ育ち、東京大学経済学部を卒業後、1994年に自治省(現在の総務省)入庁し、浜松市長に転進する前は総務省都道府県税課長を務めた。その間、2016年8月から約1年半は消防庁地域防災室長として消防団の機能や体制の強化にあたっていて、自らを“防災屋”と呼ぶ。
避難指示発令中の会合出席は適切?

だとすれば、その防災専門家が市内に避難指示が出ているタイミングで、県議の会合に出席した理由は何だろうか。
中野祐介市長:
(会合があった)28日の夕方の時点では雨も小康状態で、浜松市で開設した避難所に避難していた人も皆さん返っていた。(これまでの)市内の大きな被害の天竜区の土砂崩れも応急対策に着手済みでもあり、28日早朝の段階で市役所の体制を災害対策本部体制にひきあげて万全の体制をとっていたし、総合的に勘案してあの時間は出席した。もちろんいつでも連絡をとれる体制にしていたし、会場から市役所まで5分あれば戻って来られるので、そういう意味では市の災害対策に支障が生じない形で対応していた
台風10号は静岡県に9月1~2日に最接近の見込みで、線状降水帯などが発生すると今後予想される雨量は多いところで、30日夕方までの24時間で300mm、31日夕方までの24時間で300mm、1日夕方までの24時間で300mmだ。降り始めからの総雨量が1000mmに迫る記録的な大雨になるところもあるかもしれない。
“防災専門家”の中野市長にはその手腕を発揮して、浜松市民の安全を確保してほしい。
(テレビ静岡)