「つなぎの大統領」

民主党の大統領候補に選出されるジョー・バイデン氏は、副大統領候補になるカマラ・ハリスさんに大統領職を禅譲する「つなぎの大統領」になるのだろうか?

初の黒人女性副大統領候補として演説するハリス氏(8月12日)

「ジョー・バイデンは、トランプに対する信任を問うレースを最大限強化する相手を選んだ。その相手の経歴を見るに、バイデンがその地位を退けばすぐに代わりを務める用意ができていることを示している」

バイデン氏が副大統領候補にハリス上院議員(カリフォルニア州)を起用した翌日の12日、こんなCNNのツイッターがアップされた。

ツイッターには「シリザによる分析」とあり、CNNの総合編集長のクリス・シリザ氏のことと思われるので、このツイッターはCNNを代表した論評と受け止められて反響が広がった。

「爆弾宣言!バイデンが当選後、ハリスに大統領職を譲る計画をCNNが確認」

超保守派のニュースサイト「インフォウォー」がセンセーショナルにこう伝えると、ニューヨーク・タイムズ紙が否定する騒ぎになった。

バイデン氏が漏らした本音

しかし「インフォウォー」などの憶測は決して根拠がないわけではない。

77歳のバイデン氏は、今回当選すれば二期目の再選には出馬しないと周辺に漏らしていたと伝えられ、そのためにも副大統領は「すぐにでも大統領職を譲れる人物」を選ぶべきだと考えていたと言う。

時折認知症の疑いも囁かれるバイデン氏

事実、2019年4月末にはオンラインの資金集め集会で次のように語っていた。

「私は“つなぎ”役だと思っています。ピート市長のような人物を政権に入れるための候補者なのです」

ピート市長とは、この時すでに民主党の大統領候補選抜から脱落していたピート・ブティジェッジ氏のことだが、その人選よりも"つなぎ”(transition)と言う言葉が関係者の関心を集めた。

すでに大統領選からの撤退を表明しているピート・ブティジェッジ氏

さらに、ハリス氏を副大統領候補に起用すると支持者に知らせたメールの一文が、バイデン氏の政権禅譲の憶測に拍車をかけることになった。

「私はカマラ・ハリスがトランプとペンスとの戦いを助け、その後2021年1月以降は、この国を導いてゆく最善の選択だと考えた」

ここは「2021年1月以降は、この国を導いてゆく私を助ける最善の選択」としないと、ハリス副大統領が大統領を差し置いて国を導いて行くことになってしまう。

歴代の米国大統領の中で自らその職を退いたのは、ウォーターゲート事件で弾劾されて辞任したリチャード・ニクソン第37代大統領だけだ。もしバイデン氏が任期中に健康上の理由などで辞任するとなれば、「強制されずに辞任した最初の大統領」ということになる。

バイデン氏には、一期目を全うして二期目に出馬しないという選択肢もあるが、それでは後任者が一から選挙運動を立ち上げなければならない。後継者がいったん大統領となり再選を図る方が有利だというのだろうが、それではバイデン政権はほぼ3年で終わり、本当に“つなぎ”役の大統領になってしまう。

国民は“つなぎ”の大統領に投票するのか

ハリス氏起用直前に世論調査会社ラスムッセンが行った調査では、有権者の59%が「もしバイデン氏が当選しても、4年以内に副大統領がとって代わっているだろう」と回答している。それも共和党支持者だけでなく、民主党支持者も49%がそうなると考えていることを示している。

副大統領候補として初めて公の場に姿を現した日 バイデン氏と抱き合うハリス氏

問題は、“つなぎ”の大統領に投票するかということだ。バイデン氏とハリス氏は一心同体と考えれば良いわけだが、有権者がそこまで理解してくれるか、今回の大統領選の一つの波乱要素になるかもしれない。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】