沖縄科学技術大学院大学(=OIST)は、2011年に沖縄県恩納村に設立された、理工学分野の5年一貫制の博士課程を置く大学院大学だ。
研究機関としては世界トップレベルだが、いまイノベーションに力を入れ、研究者の起業を支援している。
OISTでがんの免疫研究をするかたわら、女性の健康問題の解決のため起業した研究者を取材した。
8割の外国人学生が5年間博士課程で学ぶ
美しい海と森に囲まれた沖縄の恩納村。沖縄科学技術大学院大学(以下OIST)を訪れると自然と一体化した広大なキャンパスが広がっていた。
敷地内にある教員や学生ら向けのアパートは、オレンジ色の屋根が沖縄の空に映えている。
広報を担当する副学長のヘザー・ヤングさんにこの印象を伝えると、「キャンパスをつくるときのコンセプトが、建造物と自然のコンビネーション、自然と近隣の方々に敬意を払うことでしたので」と嬉しそうに語った。
OISTの大きな特色が国際性と学際性だ。国際性では、学生272人のうち8割が外国人で(53か国・地域)、研究に携わるスタッフなど教職員も半数近くが外国人だ(69か国・地域)。
2つめの学際性では、OISTには学部はなく、約90の研究室の研究者が分野を越えて出会い混ざり合うように研究施設が設計されている。
また学生は、初年度必ず自分の専門以外の研究室に所属するようにローテーションが組まれている。
沖縄に起業家を呼び込む支援プログラム
OISTは日本の科学技術の発展、そして、沖縄の持続的な成長に貢献することをミッションとしている。
その4本の柱が研究、教育、イノベーションとアウトリーチだが、中でもいま注目されるのがイノベーション、研究者の起業支援だ。
OISTでは2015年から支援プログラム(POCプログラム)を設立して、メンターがアイデア段階から研究者に伴走し、ビジネス化に向けて資金や知財分野まで支援を行っている。
また2018年からは、沖縄県の支援でOISTに起業家を呼び込み沖縄での起業を支援するプログラム(OIST Innovation Accelerator)も開始し、これまで10社のスタートアップを支援してきた。
今年度からは国の大型助成プロジェクト(COI-NEXT)の支援も受け、現在計4チームが“OIST発スタートアップ”を目指して、実証や事業の拡大などに取り組んでいる。
さらにOISTと沖縄に魅力を感じる企業や個人が、オフィスを構えられるインキュベーション施設(OIST Innovation Incubator)も充実。
2025年春には、新たに2棟が完成予定と、もはや研究機関の枠を越えた一大イノベーションセンターのようだ。
「更年期の問題を解決したい」研究者が起業
OISTでがんの免疫研究をしていたオリガ・エリセーバさん。
ベラルーシ出身で1996年に来日し大阪大学を経て2007年に沖縄に移住。
現在もOISTで客員研究員としてがんの免疫研究を続けている。しかし、2015年頃から更年期の症状が出るようになり、自身で調べてみると、この分野の研究がほとんど進んでいないことに気がついた。
そこでエリセーバさんも「研究が進んでいない更年期の問題を解決したい」と起業を思い立ち、まずOISTの起業家支援プログラムに応募した。
「研究者の私たちはビジネスや世の中の成り立ちがわからない。そこでまずOISTの起業家支援プログラムに申し込み、国内外の更年期の女性たちがどんな状況に置かれているのか知ろうとインタビュー調査をしました。すると更年期の治療方法もわかっていないし、治療方法が分かっている医療従事者もほとんどいないことがわかりました」
沖縄に女性のための医療研究センターを
「ビジネスをおこない資金を得られれば、その資金で研究を進めることが出来る」
そう考えたエリセーバさんは沖縄で「HerLifeLab株式会社」を立ち上げ、現在更年期症状のオンライン診療サービス、ビバエルを行っている。
エリセーバさんは、将来の目標をこう語る。
「アジアでは西欧に比べて社会的、文化的に女性を取り巻く環境が厳しく、女性の健康への意識が低いため、この問題について解決策を求めています。沖縄は世界5大長寿地域“ブルーゾーン”の1つであり、地理的にアジアに向いています。ぜひここで女性のための医療・研究センターを作りたいと思っています」
アウトリーチを通じ沖縄へ貢献
また沖縄のコミュニティとの相互交流も、OISTの使命の1つだ。ヤング副学長はこう語る。
「ここには世界からベストアンドブライテストが集まっています。国内外から毎年数千人の中高生や大学生がここにきて交流していますが、特により多くの沖縄の児童生徒に来てもらいたいと思っています。そのためにOISTでは子どもたちに向けた科学プログラムも組んでいます」
OISTはイノベーションとアウトリーチを通じて沖縄、そして日本への貢献を目指す。
(執筆:フジテレビ報道局解説委員 鈴木款)