「グリ下の帝王」と名乗り、女子中学生3人に性的暴行を加えた罪などに問われている男の裁判が行われている。
【動画】「グリ下の帝王」逮捕 女子中学生をわいせつ目的誘拐か 男は取材に「僕がいないと無法地帯。治安を守っている」
男は法廷で「『帝王』と名乗ると少女が寄ってきた」と証言し、「グリ下の帝王」の実態を語った。 2年に渡り男を追いかけてきた大野雄斗記者がリポートする。
■同一人物とは思えない姿に「グリ下の帝王」

8月14日に大阪地方裁判所で開かれた裁判。 男は刑務官に両脇を固められながら法廷に入ってきた。
黒髪の丸刈り頭は、少し伸びている。目の下のクマは濃く、31歳と言われればそうとも見えるし、もう少し老けても見える。 おととし私が見た、長い髪を金色に染めていた男と同一人物とは思えなかった。
■女子中学生に性的暴行 少女たちに『睡眠導入剤』を譲り渡した罪

不同意性交・麻薬及び向精神薬取締法違反・未成年者誘拐と3つの罪で起訴されている住居不定・無職の浦野那生被告(31)。
大阪・ミナミのグリコ看板を望む橋の下、通称「グリ下」に集まってくる、悩みを抱えた少年少女たちの中で、最年長として「グリ下の帝王」を名乗っていた男だ。
浦野被告は2024年1月、女子中学生3人に性的暴行を加えたほか、少女たちに睡眠導入剤を譲り渡した罪などに問われている。
■ホテルで14歳のAさんとBさんに性的暴行 カラオケ店で15歳のCさんに「OD」の末、性的暴行

検察側によると、浦野被告は三重県のホテルで当時交際していた14歳のAさんと、別の14歳のBさんに性的暴行を加えたほか、大阪府内のカラオケ店で、初対面の15歳のCさんと薬を過剰摂取する「オーバードーズ(=「OD」)」をした後に性的暴行を加えたという。
さらに、少女たちを当時の自宅に出入りさせ、「サイレース」など医師の処方が必要な睡眠導入剤を譲り渡して「OD」をしていたということだ。
浦野被告はカラオケ店で性的暴行を加えたCさんについて、「16歳か17歳と思っていた」と一部否認したが、ほかの起訴内容については認めている。
■ターゲットは未成年 金髪の長髪 少女を連れて記者の前に現れた自称「帝王」

未成年の少女をターゲットに罪を繰り返していた浦野被告。 一体どんな人物なのか。 私は2022年11月、直接話を聞いていた。
当時、浦野被告は交際していたという14歳の少女と性交した疑いで逮捕され、不起訴処分となっていた。
待ち合わせの時間から1時間以上遅れてやってきた浦野被告は、片目が隠れるほど長い金髪で、アイメイクをしたマスク姿。 「ほんと、すみません!」 ハキハキとした声で謝りながら、中学生くらいに見える少女を一緒に連れてきてインタビューに臨んだ。
■会社員を辞めてホストに

浦野被告は元々会社員だったが、6~7年ほど前からミナミでホストをするようになったという。
浦野那生被告 2022年:ちょっと夜の世界に行ってみようかなと思って始めて。お酒飲むのも好きだし、人と話すのが好きで、とても楽しかったです。
インタビュー当時はバーテンダーをしていた浦野被告。
浦野那生被告 2022年:『グリ下』の子といっぱい付き合ってましたね。8人くらい付き合ってました。靴は『グリ下』の子に買ってもらったりとか、この服とかもそうですね。
浦野被告がしきりに語っていたのは、「『グリ下』の治安を守りたい」ということだった。
■「僕がいないと無法地帯になっちゃう」

浦野那生被告 2022年:橋の下で『OD』するな、リストカットするな。案件(=パパ活・援助交際)するにしても難波でするな、分からんとこでしろ。最低限のルールですね。守らない子を僕が出禁にする方です。僕がいないと無法地帯になっちゃいます。

このインタビューの後、一度不起訴になっていた交際相手だという14歳の少女と性交した事件について、2023年1月、検察審査会が「不起訴不当」と議決。 再捜査を経て、浦野被告は2023年4月に略式起訴され、罰金40万円が命じられた。
それでもグリ下に通い続け、「グリ下の帝王」になったのだった。
■「少女が野宿かマクドナルドで過ごすことになる」

そしてここから、8月14日に開かれた浦野被告の刑事裁判に話が戻る。 この日は被告人質問が行われ、浦野被告がどのように罪を重ねてきたのか詳細が語られた。
まず、なぜ自宅に少女を連れ込んでいたかについて。
浦野那生被告:当時の自宅は『リッツハウス※』と呼ばれてたまり場になっていた。(少女は)金もないので、野宿か近くのマクドナルドで過ごすことになる。
(※浦野被告のあだ名「りつ」に由来)
行き場のない少女たちを“守るために”自宅に呼んでいたと主張した。
■「西成の闇市で睡眠薬を買っていた」

その一方で、同時に「サイレ(=サイレース)あります」などのLINEを送って、少女たちを誘っていると弁護側から指摘されると。
浦野那生被告:西成の闇市でサイレースを購入していた。僕が率先して買いに行って、目の届く人に渡していた。僕も『OD』の依存症だったが、耐性がある方だったので面倒を見れた。
過去に薬の購入をめぐって、友人がトラブルになったこともあったことから、自分が購入することで「グリ下」の若者たちに安全に薬を渡すことができ、「OD」(=オーバードーズ=睡眠導入剤などの過剰摂取)をしても意識を保っていられる自分が見守る「安全な環境」で「OD」をさせていたと主張したのだった。
■不同意性交罪「親にも挨拶をしていた。同意あった」と主張

また、3人の少女に対する不同意性交罪については…
浦野那生被告:Aさん、Bさんとは付き合いも長く、親にも挨拶をしていた。同意があったと思っています。※
※不同意性交罪は、性交同意年齢(=自分で性行為への同意を判断できるとされる年齢。16歳)に達していない相手と、性行為をした場合、同意があってもなくても成立する。 浦野被告は16歳未満のAさん、Bさんと性行為をしたことから、同意があったとしても罪が成立すると起訴内容を認めている。
一方検察側は、浦野被告がCさんに性的暴行を加えているとき、「案件(=パパ活・援助交際)行くか?」と売春を強要するかのような発言をしていた撮影データなどがあったと指摘。 これについては次のように答えた。
浦野那生被告:『OD』していたので記憶がない。
そのうえで口にしたのは、支離滅裂な主張だ。
浦野那生被告:彼女にしたいと思ったのか、口説き文句として言っただけで強制していない。
売春するよう迫るような言葉が「口説き文句」だと話したのだった。 これには浦野被告を弁護する側の弁護士も困ったような表情をしていた。
■当時5人と交際「貢いでもらっていた」と明かす 恥ずかしさ感じるとも

さらに質問によってあぶりだされたのは、浦野被告の素顔だ。
「『帝王』と名乗ると少女たちが寄ってきた」と話し、当時5人と交際していて、無職だったため金品を貢いでもらっていたと明かした。
一方、不同意性交事件の被害者であるAさん、Bさんの親には、10歳ほど若く年齢を偽り、「コンセプトカフェで働いている」と嘘の説明をしていて、実際の年齢や貢いでもらっている状況を考えると、恥ずかしさを感じていたと話した。
Aさん、Bさんの両親には、謝罪文を書いたものの、受け取ってもらえていないという。
■身勝手な自称「帝王」 守り導く存在になるはずが

裁判を通して私が感じたのは、浦野被告の身勝手さだ。 被害者となった少女たちの14歳、15歳という年齢は、まだこれから判断力を養わなければならない、未成熟な年代だ。
浦野被告が「グリ下」に集まる若者たちの「保護者」であるというのなら、「自分と『OD』すれば安全」などと誘うのではなく、薬の過剰摂取をやめられるよう働きかけるべきだ。
ましてや性交同意年齢の16歳にも達していないのに、「同意があったと思っている」と性行為をすることはもってのほかだ。
私が見てきた「グリ下」の若者たちは、虐待などで家庭に居場所がなく、苦しんだ末にこの場所にたどり着いていた。 生活を安定させ、立ち直りたいという思いを持っていた子供たちもたくさんいた。
浦野被告の年齢を考えれば、そういった子供たちを正しい道へと導くことこそが、役割だったのではないだろうか。 浦野被告は法廷で「未成年、薬への甘い考えがよくなかった。深く反省している」と話し、「グリ下との付き合いは遮断して、SNSも削除する」と誓った。
しかし、2022年の取材でも彼は私にこう話している。
浦野那生被告 2022年:未成年と2人きりになりたくないです。怖いです。
それでも「グリ下」で若者を食い物にし続けてきたのだ。本当に今回は反省しているのだろうか。 次回の公判は9月12日、検察側の求刑などが行われる見通しだ。
(関西テレビ 大阪府警担当記者 大野雄斗 2024年8月17日)