米国大統領選挙まで残り3ヶ月となった。
最近はトランプ暗殺未遂事件、バイデン大統領の選挙戦からの撤退、後継候補カマラ・ハリスの台頭など、その動向は大きく変化している。
それぞれが勝利した場合、中国との貿易戦争はどうなっていくのだろうか。

現時点ではハリス氏が若干有利な状況か

今後はトランプorハリスの戦いとなるが、ロイターなどが8月8日に発表した最新の世論調査によると、全米での支持率でトランプ氏が37%、ハリス氏が42%と5ポイントも上回る結果となっている。

この記事の画像(9枚)

世論調査会社イプソスがペンシルベニアやウィスコンシンなど激戦7州を対象に行った世論調査でも、ハリス氏が37%、トランプ氏が34%となっており、現時点ではハリス氏が若干有利な状況と言えそうだ。

では、それぞれが勝利した場合、中国との貿易戦争はどうなっていくのだろうか。
無論、どちらが勝利しても実際に新政権が発足しないと分からない問題でもあるが、ある程度予測は可能であろう。ポイントになるのは、米国の出方だ。

ハリス氏の外交姿勢はバイデン政権継承したものに

 まず、ハリス氏が勝利した場合だが、ハリス氏はバイデン政権発足時から副大統領を務めてきたので、基本的な外交姿勢はバイデン政権を継承したものになろう。

中国の新疆ウイグル自治区の収容施設の内部映像(画像提供「Victims of Communism Memorial Foundation」)
中国の新疆ウイグル自治区の収容施設の内部映像(画像提供「Victims of Communism Memorial Foundation」)

バイデン政権は8日、2022年6月に施行されたウイグル強制労働防止法に基づき、新疆ウイグル自治区での強制労働などの人権侵害に関わった疑いで、香港に拠点を置くレアアース・マグネシウム・テクノロジーグループ・ホールディングスなど中国企業5社からの輸入を禁止すると発表した。

バイデン政権は既に太陽光パネルや綿花などを扱う中国企業からの輸入を禁止しているが、今回の5社を含めて規制対象になる中国企業は70を超える。

また、バイデン政権は2022年10月、中国による先端半導体の軍事転用を防止するべく、先端半導体分野での対中輸出規制を大幅に強化し、2023年1月には先端半導体の製造装置で高い技術力を誇る日本とオランダに輸出規制で歩調を合わせるよう要請した。

その後、日本はそれぞれの経済合理性とバランスを取りつつも、中国への輸出規制を開始したが、バイデン政権はもっと踏み込んだ輸出規制を求めるだけでなく、韓国やドイツなど他の同盟国にも同調を呼び掛けている。

ハリス氏もこういったバイデン政権下で発動された貿易規制措置に上乗せする形で、必要に応じて先制的に貿易規制を仕掛けていくだろう。
そして、ハリス氏は新疆ウイグルの人権侵害や先端半導体の軍事転用など、“明確な理由に基づいて”、“的を絞った”貿易規制を発動していくと考えられる。
また、バイデン政権が日本やオランダに足並みを揃えるよう求めたように、ハリス氏も必要に応じて同盟国や友好国との協力のもと、“多国間で中国に対抗する”姿勢を重視することが予想される。

トランプ氏 中国製品に一律60%の関税課すと主張

一方、トランプ氏が勝利しても、中国への向き合い方に大きな変化はない。
トランプ氏は政権1期目の2018年以降、米国の対中貿易赤字を打破するため、4回にわたって3700億ドル・日本円で54兆4000億円相当の中国製品に対して、最大25%の関税を課す制裁を発動した。

今回の大統領選でも、中国製品に対して一律60%の関税を課すとも主張しており、トランプ政権1期目からバイデン政権に受け継がれた米中貿易戦争のバトンは、再びトランプ氏に渡されることになる。

バイデン政権は発足当初から、トランプ政権の4年間のリセットに尽力してきたが、対中国においてはその路線を継承し、トランプ政権下で発動された対中貿易規制を維持し、それに上乗せする形で規制の幅を拡大させてきた。
バイデン政権を批判し続けるトランプ氏ではあるが、大統領に返り咲いても、バイデン政権が発動した規制措置を解除することはなく、さらにそれに上乗せする路線に撤することだろう。

ハリス氏は「明確な理由」に、トランプ氏は「大きな野心」に基づく

バイデン政権の対中姿勢を継承する両者だが、貿易規制面でのトランプ氏の姿勢はハリス氏とは異なる可能性が高い。

すなわち、トランプ氏は政権1期目のように“米国単独”で先制的な貿易規制を仕掛け、同盟国や友好国とともに多国間で中国に対抗する姿勢をハリス氏ほど重視しないだろう。無論、トランプ氏が先端テクノロジー分野の米国の優位性を維持するため、同調圧力を同盟国に示してくる可能性もあるが、まずは米国単独路線に撤し、米中2国間での貿易摩擦が激しくなるだろう。

また、ハリス氏が明確な理由に基づき、的を絞った規制措置を発動していく一方、トランプ氏は米国の経済と雇用を守る、中国製品の侵略を抑えるなど大きな野心や大義に基づいて、規制対象をランダムに選んだ貿易規制を仕掛けていくことが考えられる。

中国からすれば、ハリス氏の方が貿易規制においては予測しやすいとも言えるが、トランプ氏はより大胆な、懲罰的とも言える姿勢に出ることだろう。
【執筆:株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO 和田大樹】

和田大樹
和田大樹

株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO/一般社団法人日本カウンターインテリジェンス協会理事/株式会社ノンマドファクトリー 社外顧問/清和大学講師(非常勤)/岐阜女子大学南アジア研究センター特別研究員。
研究分野は、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者として安全保障的な視点からの研究・教育に従事する傍ら、実務家として、海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)に従事。国際テロリズム論を専門にし、アルカイダやイスラム国などのイスラム過激派、白人至上主義者などのテロ研究を行い、テロ研究ではこれまでに内閣情報調査室や防衛省、警察庁などで助言や講演などを行う。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会、防衛法学会など。
詳しい研究プロフィルはこちら https://researchmap.jp/daiju0415