日本の伝統的な武道「剣道」。その「国内最難関」の審査に22年間挑み続け、ついに合格率1%以下とされる「八段」に合格した男性が愛媛・松山にいる。夫婦二人三脚でつかみ取った段位だ。

早くても“30年”かかる段位取得

長年、高校剣道の強豪である新田高校で監督を務めた渡部憲雄さん(68)は、2024年5月に京都で行われた昇段審査で、最高段位とされる八段に合格した。審査を受け始めてから22年目の快挙だった。

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渡部さんは「剣道で育ててもろたんで、剣道で恩返しするためにも八段合格してよかったかなと。立ち合いの練習とか色々、指導もしてもらいましたし、いろんな剣友のおかげで(審査に)通ったと思います」と感謝の気持ちを語った。

剣道の段位は初段から八段まであり、六段や七段で合格率は1割から2割。八段になると一気に減り、合格率0.8%の狭き門だ。

八段は、七段を取得したあと10年間の修行期間と46歳以上の年齢という2つの条件をクリアしてはじめて審査に挑戦する資格が与えられる。

そのため八段を取得するには初段の取得後、早くても30年はかかり、まさに人生を剣道に捧げることで手に入れることができる段位とされている。

長年、剣の道を歩み続けてきた明倫会会長の遠藤寛弘八段は渡部さんについて「中央大学まで一緒に剣道をした剣友です」と語った。

礼儀作法も厳しく評価

46歳の初挑戦から22年もの間、渡部さんは八段昇段の高い壁に跳ね返され続けた。

剣道八段の審査は技術だけでなく精神力や礼儀作法も厳しく評価されるため、非常に難関とされる。

2024年3月に長年勤めた新田高校を退職したあとは、愛媛県警察のOBなどでつくる「明倫会」で日々稽古に取り組んでいた。

渡部さんは「大学の先輩に最後まで諦めるなと言われたのもあるし、教員として生徒に努力せいと言って追い込んどるのに自分は逃げるわけにはいかないんで」と語った。

今回、特に練習で磨いたのは切り返し面。相手の面を連続して打つ技術で剣道の基本技の一つだ。毎日の朝稽古で2セットを繰り返し、相手に攻められても姿勢を崩さずに堂々と自分の技を出せるようになった。

明倫会の永井良典六段は「激しさの中にも、相手を引き込むような誘い込むような剣風に変わられたんじゃなかろうか」と評する。

稽古の成果は審査の当日にも花開いた。相手が技を出そうとしたところを面!相手が面を打つところを返して胴!技がきれいに決まり、22年目に及ぶ挑戦はようやく実を結んだ。

全国で889人が受け、合格したのは渡部さんを含めわずか6人だ。

渡部さんの背中を追う後輩剣士たち

松山市生まれの渡部さんは久枝小学校で剣道をはじめ、中央大学では全国大会で個人3位の活躍をみせた。

卒業後は母校の新田高校で指導者となり、2022年の全日本選手権で愛媛県勢初の頂点に立った愛媛県警察の村上哲彦さんら多くの有力選手を育てた。

小学生で全国一位を成し遂げた強豪選手、双海剣道会の魚見連司さんは「とても攻めが強くて、あんまり打っていけないですね」「渡部先生の攻めなどをしっかり自分もできるように頑張りたいと思います」と語った。

また、松山東警察署剣道特練員の片山凌輔巡査も「自分も憲雄先生みたいに8段合格できたり、正しい剣道ができるようになりたいと思ってます」と話した。

渡部さんは「剣道は年とってもずっと一生できますので、その反面、剣道は難しいですけども、子どもたちには剣道のよさを見つけて、楽しい剣道をしてもらいたいと思います」と剣道の魅力を語った。

高校の監督を退職後、自宅の道場でじっくり練習できたことも合格の要因ではないかと考えられる。

道場の名前「堅忍堂」は大学時代の監督が命名したそうだ。渡部さんは「辛抱強く。真面目にやれということだと思います」と解釈する。

原動力は不屈の精神と夫婦の絆

その名の通り、辛抱強く八段に挑戦した渡部さんを支えたのが妻の奈保子さんだ。
北は北海道、南は熊本まで、剣道未経験にも関わらず全国各地で行われる練習会や八段の審査に同行したそうだ。

奈保子さんは「一日体育館にいるわけですからね、道場に、朝から晩まで」「まぁ皆さん私のことを『八段』って言います。」と笑い、渡部さんは「私が八段になったから妻は今ない『九段』ですよ」と冗談を飛ばした。

奈保子さんは2024年の審査で「9人いらした審査員の方がいつも見てて、やっぱり目で追ってるんですね、主人を2分の間で。その時にひょっとしたら今回行くかないうのはありました」と審査員の様子が違ったと語った。

八段合格を聞いて、奈保子さんは「終わったな、と。長い長いトンネルを抜けたな」と感じたそうだ。

奈保子さんは「主人の剣道が私は好きだった。それだけですよね」「(Q.どういう姿が?)やっぱりすべてですね。一番最初に主人を見たときに剣道がわからなくても、そういう面で引かれた面があったので、だから剣道は主人の剣道が何度も言うように好きでしたね。だから応援しようと」と22年間渡部さんを支え続けた理由について語った。

渡部さんは「あっという間ですよ。そんなに長いとは」と振り返り、奈保子さんも「思わなかったね」と同意した。

八段となった今、渡部さんは、「これから指導者になったり模範的な立場になりますから。だから稽古してても七段だったら八段を選んで稽古できますけども、八段は前に並んでくれた人とちゃんと稽古して、また並んでくれて感謝してありがたい気持ちで稽古しないといけないと」と感謝の気持ちを語った。

奈保子さんは「それとほんと周りの人に感謝ですよね」と付け加え、渡部さんも「いろんな人に励ましてもらってここまで来たんで」と周囲への感謝の気持ちを述べた。

合格率1%以下の厳しい試練。それを乗り越えた原動力は、不屈の精神と夫婦の絆だった。

(テレビ愛媛)

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