9月に東京で開催される陸上の世界選手権に、長崎出身のランナーが挑む。三菱重工マラソン部の近藤亮太選手だ。初マラソンで掴んだ初代表への切符。家族が近藤選手の意外な一面を明かしてくれた。

世界選手権への切符をつかんだ日

まっすぐと前を見つめ、颯爽(さっそう)と駆け抜けるのは、三菱重工マラソン部の近藤亮太選手(25)。2025年2月、初めて挑んだ大阪マラソンで2時間5分39秒と日本人トップの2位でゴール。国内の初マラソン最高記録を更新し、いきなりアスリート人生が花開いた。

近藤亮太選手
近藤亮太選手
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記者会見で近藤選手は「初めてのマラソンだったので気負うことなく、練習の延長で走るつもりで挑み、実際に最後に優勝争いまでできたのはいい経験だった」と振り返った。

「練習の延長戦と思って走った」と振り返る
「練習の延長戦と思って走った」と振り返る

この結果が評価され、2025年9月に東京で開催される世界選手権のマラソン男子の日本代表に選ばれた。コースは一部周回で、銀座や東京ドーム、皇居周辺など東京の名所をめぐる42.195km。すでに試走した近藤選手は「暑さや太陽の方角も意識して走ったが、思ったより日陰も多くある。東京の観光地を巡る面白いコース」と、いい感触を掴んでいる。

「前向きな気持ち」が支えた成長

近藤選手は長崎県島原市出身。中学のときに本格的に陸上を始め、島原高校陸上部では県高校駅伝に出場した。しかし決して強豪校とは言えず、選手不足からサッカー部に助っ人を依頼するほどだった。

高校時代は県高校駅伝に出場
高校時代は県高校駅伝に出場

「強豪校の選手とは違ったところで学びがあり、自分を強くしてくれた」と当時を振り返り、そのとき養った「前向きな気持ち」は、今も支えになっているという。

その後、陸上の名門、東京の順天堂大学に進学し、4年生のときに箱根駅伝で総合2位を経験した。

箱根駅伝で順天堂は総合2位に(提供:父 亮二さん)
箱根駅伝で順天堂は総合2位に(提供:父 亮二さん)

地元・長崎で競技を続けることを決め、2022年に三菱重工マラソン部に入部した。入部からわずか3年で才能を開花させたのだ。

三菱重工マラソン部の黒木純総監督は「近藤選手は何事にも前向きに取り組む選手。走りはリズムが良く、ロードに向いている。今回の日本代表を機に、チームを引っ張っていける選手になってほしい」と期待を寄せる。

家族が語る意外な一面

「人一倍努力することはあまりやってこなかったかもしれないが、やるべきことをはちゃんと毎日やっていた。常に感謝の気持ちを持っていたから、練習が嫌だと思うことはなかった」と語る近藤選手。地元島原の実家で、家族が近藤選手の意外な一面を明かした。

近藤選手のルーツを探るため家族のもとへ
近藤選手のルーツを探るため家族のもとへ

近藤選手の日本代表選出に、父の亮二さん(57)、姉の彩夏さん(32)、秋穂さん(28)ら家族は驚きを隠せない。

近藤選手の父 亮二さん
近藤選手の父 亮二さん

父は「未だに不思議な感じ。テレビに亮太が出ていてもホームビデオの延長みたい」と話す。

姉たちから見た弟・亮太さんの性格は「優しく、マメ」。乗り物全般が好きで、おもちゃを等間隔できれいに並べる「几帳面な性格」も併せ持つ。

子どものころの近藤選手
子どものころの近藤選手

小学校時代はソフトボール一筋だった。しかし…「本当はサッカーをしたかった。でも一度ソフトボールをやったから辞めるわけにはいかなくなった」と、父は大学生になってはじめて息子に打ち明けられたと話す。ソフトボールは小学校を卒業するまで続けた。一度始めたことを途中で投げ出さない、芯の強い子だった。

小学校時代はソフトボール部
小学校時代はソフトボール部

中学生になって陸上を始めた。同じく陸上をしていた2人の姉の存在が大きかったという。

陸上を始めるきっかけとなった二人の姉
陸上を始めるきっかけとなった二人の姉

近藤選手は「“姉ちゃん足が速いから弟も速いだろう”とよく言われていたが、そんなことなくて。少しずつタイムを縮めていって、それで陸上の楽しさや成長を感じて、陸上にのめりこんでいけた」と語る。

恩師の言葉「常にもっと高く」

近藤選手が「自分を作ってくれた存在」として挙げるのが中学、高校時代の指導者、山本光雄さん(79)だ。近藤選手が「毎日のように一緒にいたので恋人のようだった」と話すほどの存在だ。

学生時代の恩師 山本光雄さんと近藤選手(提供:父 亮二さん)
学生時代の恩師 山本光雄さんと近藤選手(提供:父 亮二さん)

山本さんはかつての近藤選手を「練習を積めば積むほど力がついた。将来的にはマラソンまで行ける子どもだろうなと思っていた」と振り返る。

近藤選手には、山本さんからもらった大切な言葉がある。

大切にし続ける言葉「常にもっと高く」
大切にし続ける言葉「常にもっと高く」

「常にもっと高く」という言葉だ。

近藤選手は「毎日陸上と向き合う中で時々目標を失いそうになる時もあるが、“常にもっと高く”が次の目標を見つけてくれ、今何をすべきか再確認させてくれる」と話す。

「感謝の気持ち」で世界へ

「大きな舞台で活躍し、地元に恩返しできる走りをしたい」と語る近藤選手。世界選手権には家族も応援に駆けつける予定だ。

地元長崎で練習する近藤選手
地元長崎で練習する近藤選手

父は「体調を崩さず、思い切り楽しんでほしい」と期待を寄せる。

日の丸をつけて初めて挑む世界選手権。近藤選手は「8位入賞」を目標に掲げた。「まだ2回目のマラソンなのでのびのびと走り切って、自分の力を最大限出し切りたい」と話す。

世界選手権の目標は8位入賞
世界選手権の目標は8位入賞

日本代表に選ばれるまでの原動力は「目標を持ち、それに向かって練習をすること」。そして「感謝の気持ち」。

近藤選手は世界選手権に向けて海外でも合宿し、心肺機能の強化や暑さ対策などに取り組むということだ。

国内、海外でトレーニングを重ね世界選手権に挑む
国内、海外でトレーニングを重ね世界選手権に挑む

コツコツと積み重ねて掴んだ日本代表の切符。長崎から世界へ。マラソン界の若手ホープの活躍に今後も目が離せない。

(テレビ長崎)

テレビ長崎
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