福岡市東区のファミリーハウス「シバタハウス」は、長期入院が必要な子どもに付き添う家族のための宿泊施設だ。こども病院が比較的近くにあり低料金で滞在できるため、遠方の患者家族にとっては高いニーズがあるが、今存続の危機に直面している。

宮崎から「シバタハウス」へ

「シバタハウス」は、福岡市立こども病院まで車で約20分の場所にある。

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こども病院の隣にも患者家族の滞在施設「マクドナルドハウス」があるが、1回の利用は最大2週間となっている。長期滞在となる場合は、交互に利用する家族も多くいる。

宮崎市内から訪れた楠本ひなたちゃんとその両親。2歳のひなたちゃんは、生まれつき「左心低形成症候群」という重い心臓の病気を抱えている。

左心室が極端に小さく、全身に血液を送り出すポンプ機能が働いていない。酸素不足でチアノーゼや心不全を引き起こすため、生きるためには新生児から数回に渡る段階的な手術が必要となる。

生後間もなく15時間に及ぶ大手術

ある日の午後、検査や診察を終えたひなたちゃんが向かったのは病院横の公園だった。

血管を強くするため酸素が手放せないひなたちゃんは、酸素を持つ両親から離れて自由に遊ぶことはできない。しかし、「ちゃんと生きて、ここで遊べているのが、すごくうれしいですよ」と母親の莉奈さんは、楽しそうに遊ぶひなたちゃんを前に目を細める。

母親の莉奈さんが地元である宮崎の大学病院で、福岡のこども病院を受診するよう告げられたのは、妊娠22週のときだった。宮崎では何もできないと聞いた莉奈さんは、置かれた状況の深刻さに戸惑うしかなかった。

そして、2022年6月7日に生まれたひなたちゃんは、生後間もなく15時間に及ぶ心臓の手術を受け、その後もすでに2回、大きな手術を乗り越えてきた。

「オペ後の状態を見るのがつらかった。大事な自分の子が呼吸器を付けて、胸も最初は閉じられない。開けっ放しで帰ってきて、おなかにもいっぱい管を入れて眠っている。とにかく生きてほしいのが一番だった」と莉奈さんは当時を振り返る。

こども病院では、この病気の治療に新たな手法を取り入れるなどしていて、九州各地から患者が訪れている。

循環器科の倉岡彩子医師は「何かあったときの対応で、家族に『すぐ近くにいてください』とお願いすることもあるし、各県からの患者さんが増えていて、患者さんのサポートでハウスが必要になるという流れが今、ある。以前よりニーズが高まっている」とシバタハウスの重要性を強調する。

「福岡のわが家」が存続の危機に

シバタハウスは、各部屋に調理道具や洗濯機などが備え付けられていて、滞在施設といっても、ホテルというよりは自宅に近い。

利用者の経済的な負担を軽くするため、1家族1泊1000円に抑えられている。

ひなたちゃんの父親・将夫さんは「ホテルだと気が張る。楽しくしなきゃとか。ここは福岡のわが家のようで、いい意味で遠慮がいらない」と話す。莉奈さんも「精神的には、ものすごく病んでいた。でもここに帰ってくるとお風呂にゆっくり漬かったり、足を伸ばして寝ることができたり、リフレッシュしやすい」とシバタハウスに全幅の信頼を寄せる。

病気の子どもを持つ家族が不安な日々を過ごす中、シバタハウスは緊張を和らげる場所となっているが、今存続の危機に直面しているのも事実だ。

シバタハウスを運営するNPO福岡ファミリーハウスの高原登代子(高は“はしごだか”)さんは「28年やっている中で、いろいろな方に部屋を提供してもらってきたが、それぞれに事情が変わったり、周辺状況が変わったりと、どうしても不安定になる」とその実情を語る。高原さんの活動の原点には、自身の過酷な付き添い経験がある。

そこで九大病院の近くにシバタハウスを作り、付き添い家族の笑顔を守り始めたが、たどり着いたのは「シバタハウスも4年後にはいったん、お返ししよう」という結論だった。

これまでアパートのオーナーから部屋の無償提供を受け、利用者を支えてきたが、今後も安定したサポートを続けるために、自前の施設の建設を目指すことにしたのだ。「このような施設は絶対に必要なもの。小児医療の一環としてあるべきだと思います」と高原さんは語った。

最後の手術に向け「頑張ろう」

食卓には「いっただっきま~す」の声が響いた。食べることが好きで、日に日に成長しているひなたちゃん。最後の手術に向けて体力をつけている。この手術後は、活動量が飛躍的に上がると期待されている。

みんなで食卓を囲む楠本さん一家
みんなで食卓を囲む楠本さん一家

「不安はあるけれど、この子の成長を見たいし成長させてあげたいので、小学生、中学生、高校生、大人になるという段階を踏ませられるように頑張ろうって」と莉奈さんは前を向いた。

入院中の子どもに付き添う家族の中には、十分な食事や睡眠が取れずに体調を崩す人が多いという。子どもの看病に当たる家族は「こども最優先」だ。しかし、過酷な環境でも親は頑張るのが当たり前という意見に押しつぶされることもある。看病に当たる家族の笑顔を守るためにも、NPO法人の取り組みだけでなく、社会全体で支える仕組みが求められる。

(テレビ西日本)

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