「破天荒解(はてんこうかい)」(=今まで誰もできなかったことを成し遂げること、常識では考えられないやり方をすること。)

7月、京都で開催された国内最大級のスタートアップイベント「IVS」。著名な経営者や投資家、政治家、研究者など1万2000人が参加する中、ひときわ注目を集めた人がいました。レナトスロボティクスというスタートアップのCOO安藤奨馬さんです。

注目を浴びた理由は、IVSの中で行われたピッチコンテスト「Launchpad(ローンチパッド)」で優勝したから。決勝に進んだ15社のなかで見事1位に輝き、賞金1000万円を獲得しました。

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6分間で語ったプレゼンの素晴らしさもさることながら、会場に驚きを与えたのは、レナトスロボティクスの事業内容がディープテックであったことです。

ディープテックとは、社会課題を解決して私たちの生活や社会に大きなインパクトを与える科学的な発見や革新的な技術のこと。

レナトスロボティクスはスタートアップでありながら、ディープテックに真正面から取り組んでいて、審査員や会場の聴衆から高い評価を受けました。

物流ロボットとAIを組み合わせ

レナトスロボティクスが開発した「RENATUS」は、物流ロボットとAIを組み合わせた最先端の自動倉庫システムです。

インターネットで荷物の注文が入ると、高速シャトルが独自のアルゴリズムによって倉庫の中を縦横自在に移動して集荷するというもの。何台ものシャトルが同時に動いてもぶつかることがなく、仮に一部が壊れたとしても新しいルートを計算して動き続けるという画期的なシステムとなっています。

これによって、従業員の作業は運ばれてきた商品を最後に梱包するだけでよくなり、1つの商品発送に従来4分かかっていた作業時間が12秒まで効率化されました。

物流業界で大きな課題となっている人手不足をロボットとAIで解決する革新的な技術、まさにディープテックです。

ディープテック「ハードル高くない」

しかし、「ロボットなどのディープテック領域にスタートアップが挑戦するのは難しいのでは」と考える人も多いのではないでしょうか。実際、物流業界では多くの大企業や海外企業などで課題解決に向けた研究が進められています。

そうした現状について安藤さんに直接話を聞いてみたところ、自分たちの活動を見せることで“常識”を打ち破り、チャレンジャーをもっと増やすことも役目だと考えていると打ち明けてくれました。

「ロボットと思った瞬間、ハードウェアはリスクが大きそうとか、お金がかかりそうとか起業家は考えてしまう。チームを組成して、お金を集めることができれば、スタートできるんです。ソフトウェアではないディープテック領域での起業は、思ったよりハードルは高くないと思っています。いろんな起業家がそういう認識になっていくと、ディープテックがもっと盛り上がって、イノベーションに向けて全体が底上げされるかなと思うので、そうしたチャレンジが増えたらいいなと」

チャレンジする人が増えたとして、実際に日本のスタートアップで勝算はあるのでしょうか?それについても安藤さんは、力強く首を縦に振ります。

「日本には圧倒的に優位性があります。明確にコストパフォーマンスです。円安の流れもある中で、日本の技術を使って安くモノをつくる」

いま、米アマゾンの倉庫・配送部門の賃金は時給19ドル。日本円にして約3000円にもなります。ロボットによって省人化するメリットは海外へ行くほど大きく、元々技術力の高い日本はチャンスが多い。そのうえ海外にとっては日本の製品は割安感が強いので、グローバルを目指せばスタートアップであったとしても勝機がかなりあるというのです。

「ガラクタをつくるな」

ただ、技術力とコストは大きな強みであるものの、サービスを伸ばすためにはさらに大切なことがあると言います。それは会社の理念でもある「ガラクタをつくるな」ということ。

どんなに技術力の高い製品やサービスだったとしても、使ってもらえなければ単なる「ガラクタ」。そうしないために、何が求められているのか、ユーザーのヒアリングをいつも徹底的にしていると強調します。

「プロダクトアウトではなくマーケットインだと考えています。世の中が必要だと思っているものを作らないといけない」

プロダクトアウトとは、自社の強みや技術を活かしたサービスや製品を開発する方法。それに対して、マーケットインとは、顧客のニーズに合わせたサービスや製品を開発することです。

「自分が作りたいものを作る(プロダクトアウト)のではなく、客が欲しいものを作る(マーケットイン)」という考え方。

ピッチコンテストの中では、「4分の作業時間を12秒まで短縮したが、いつか0秒にする」と語っていたのですが、これはプレゼンで観客を引き付けるための“エンタメ”で、本当にマーケットがそれを求めているのかきちんと検証した後でなければ「0秒」への技術開発の着手に入ることはないと笑いました。

ディープテックのビジネス化は伸びる

インタビューに同席したIVSの島川敏明代表も様々なスタートアップと向き合ってきた経験から、その姿勢は正しいと語りました。

「最初は、とにもかくにも顧客に向き合うのが大事。そこは起業家として一番正しくて、間違いのない、どの領域でも大事にすることかなと思います。ディープテックは、日本の研究技術は素晴らしいものがいっぱいあるし、ビジネス化してハンドリングする人がいれば伸びます」

ローンチパッド優勝で、「ディープテックはスタートアップには無理」という“常識”を打ち破ろうとしている安藤さん。肝心の賞金1000万円を何に使うのか、最後に聞いてみました。

「冷凍倉庫に導入するための装置や、幅が違っても同じロボットで対応できるものなど新規の機能開発に使いたいと思います」

破天荒解。常識にはとらわれない思考法でグローバルに挑みます。

清水俊宏
清水俊宏

世の中には「伝えたい」と思っている人がたくさんいて、「知りたい」と思っている人がたくさんいる。その間にいるメディアは何をすべきか。現場に足を運んで声を聴く。そして、自分の頭で考える。その内容が一人でも多くの人に届けられるなら、テレビでもネットでも構わない。メディアのあり方そのものも変えていきたい。
2002年フジテレビ入社。政治部で小泉首相番など担当。新報道2001ディレクター、選挙特番の総合演出(13年参院選、14年衆院選)、ニュースJAPANプロデューサーなどを経て、2016年から「ニュースコンテンツプロジェクトリーダー」。『ホウドウキョク』などニュースメディア戦略の構築を手掛けている。