「合従連衡(がっしょうれんこう)」(=状況や利害に従って、企業などが結びついたり離れたりすること。「従」=縦、「衡」=横で、合従は「縦に連合させる」、連衡は「横に連ねる」を意味する。元々は中国・戦国時代に唱えられた外交政策で、南北に連なる6国が同盟を組んで強国・秦に対抗した政策「合従」と、秦が6国それぞれと個別に同盟を結ぶことで協力関係を分断して合従を封じた政策「連衡」から。漫画『キングダム』でもおなじみ)

隅田川花火大会で盛り上がる東京・墨田区。東京スカイツリーや両国国技館などで全国的にも有名な土地柄ですが、ほかにも注目される大きな特徴があります。それは、「町工場」です。

いま、町工場と先進企業の“合従連衡”に注目と期待が集まっています。

「ものづくりのまち」墨田区

墨田区は、製造業の事業所が約2000カ所ある「ものづくりのまち」。区内にある産業の20.2%を町工場などの製造業が占めています。(東京都における製造業の割合は7.0%)

花火大会とスカイツリーだけじゃない
花火大会とスカイツリーだけじゃない
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東京都内で「ものづくりのまち」と聞くと、大田区をイメージする人も多いですが、区の広さに対する製造業の密集度なら1位です。(製造業の数は大田区に次ぐ2位)

江戸時代に職人や商人が移り住み、豊かな水運を生かして明治時代には各種軽工業の発祥の地に。鐘ヶ淵紡績(カネボウ)、花王、朝日麦酒(アサヒビール)、精工舎(セイコー)など大工場が次々と誕生し、それとともに中小規模の繊維、化学、機械、金属、印刷などの工業が発展しました。

日本の高度経済成長とともに、ものづくりのまちとして発展してきた墨田区。1970(昭和45)年のピーク時には事業所の数は9703にのぼりました。

「ものづくり」のチカラを生かす様々な取り組み

しかし、用地が狭いことや、公害、労働力不足、交通事情の悪化などで大工場が区外移転や閉鎖をし始めると、時代の流れとともに町工場はどんどん減少。50年前には1万近くあった製造業が、いまでは5分の1になっています。

町工場の数はどんどん減少
町工場の数はどんどん減少

それでも、各種軽工業の発祥地として、印刷・紙加工、皮革、メリヤス、ゴム、機械・金属など 技術力は折り紙付き。従業員9人以下の中小企業が8割近くを占めていて、新しい取り組みをするときのスピード感も健在。

そんな「ものづくり」のチカラを生かすアイデアやサービスを集めて合従連衡させようと、区や民間企業などが様々な取り組みを始めています。

2023年秋にオープンした施設「SIC」
2023年秋にオープンした施設「SIC」

そのひとつが、2023年秋にオープンした施設「SIC」(SUMIDA INNOVATION CORE=スミダ・イノベーション・コア)です。墨田区が運営する、この施設。「ものづくりのまち」として蓄えた技術・人材・ネットワークとスタートアップを融合することで、新産業の共創を目指しています。

「ものづくり」の見本がズラリ
「ものづくり」の見本がズラリ

建物内に入ってみると「ものづくり」の見本がズラリ。特殊な加工で自由に変形させられるメモ帳や「折り工学」の技術を生かした装飾など、様々なアイデアが生まれそうな展示がされています。

スポーツ関連スタートアップ4社がいまの構想や課題をプレゼンするピッチ大会
スポーツ関連スタートアップ4社がいまの構想や課題をプレゼンするピッチ大会

もちろん単純に場所だけを提供すれば共創が生まれるというわけではなく、イベントなどで仕掛けも準備されています。この日は、スポーツ関連スタートアップ4社が、いまの構想や課題をプレゼンするピッチ大会が行われていました。

スポーツ関連と言ってもそれぞれのサービスは大きく違い、要望や課題も様々です。たとえば、スポーツする際のモーションデータを解析して、競技力向上やケガの予防などを目指しているスタートアップ。ものづくり企業に対して出した要望は「簡便に計測できるデバイスの試作・量産をしたい」というものでした。

「モルック」の課題をプレゼンするピッチ大会
「モルック」の課題をプレゼンするピッチ大会

また、フィンランド発祥の新スポーツ「モルック」を日本に普及させてビジネス展開を広げようと考えているスタートアップの課題は、「道具の耐久性・安全性で普及が伸び悩んでいる」というもの。ものづくり企業の技術で道具が壊れないようにできないかと呼びかけていました。

一方、ものづくり企業にお願いしたいことを明確には持っていないスタートアップもいました。

それでも、プロダクトの強みや作りたい未来を語ったところ、ピッチ後の交流会で「いまの課題はこんなところにあると思うので、サービスを特徴づける機器をつくってみたら?」などと具体的な製品アイデアのアドバイスを受けてディスカッション。共創に向けた一歩が、あちらこちらで生まれていました。

ものづくりのイノベーションに期待

斬新なアイデアを持つスタートアップと、確かな技術を持つものづくり企業。

それぞれストロングポイントを持った異なる組織が集まり、1つの目的達成を図る集合体となることは、ビジネスのスピードアップや方向性の転換には特に重要な戦略です。

ただし、単にたくさん組めばよいというものではありません。中国の戦国時代、複数で同盟を結んだ合従軍も、連衡策をとった秦に敗北しました。合従軍が負けた理由として、兵が多くても、各国の思惑があってまとまりが悪いという問題点もあったと言われています。

大きな目標を達成するためには、スタートアップとものづくり企業が一枚岩になるためのビジョンの共有と、それをまとめるリーダーの存在も必要でしょう。それがなければ、合従連衡のはずが共倒れになってしまうこともありえます。

「ものづくりのまち」ではじまった、未来に向けた合従連衡。ものづくりのイノベーションが期待されています。

清水俊宏
清水俊宏

世の中には「伝えたい」と思っている人がたくさんいて、「知りたい」と思っている人がたくさんいる。その間にいるメディアは何をすべきか。現場に足を運んで声を聴く。そして、自分の頭で考える。その内容が一人でも多くの人に届けられるなら、テレビでもネットでも構わない。メディアのあり方そのものも変えていきたい。
2002年フジテレビ入社。政治部で小泉首相番など担当。新報道2001ディレクター、選挙特番の総合演出(13年参院選、14年衆院選)、ニュースJAPANプロデューサーなどを経て、2016年から「ニュースコンテンツプロジェクトリーダー」。『ホウドウキョク』などニュースメディア戦略の構築を手掛けている。