主に恋愛感情を抱かせて金銭をだまし取る「ロマンス詐欺」。今、被害が急増している。福岡県警によると2024年1月から4月にかけて、福岡県内で確認されたロマンス詐欺は70件。被害額は6億円にのぼっている。
頼れる親族がいない…SNSで出会う
“助けてあげたい”という感情を利用されたと悔しそうに語るのは、ロマンス詐欺の被害に遭った福岡県在住のAさん(60代男性)。「通帳を見たら、79万円くらい振り込んでいる」と肩を落とした。

最初のキッカケは、SNSを通じて送られてきたメッセージが始まりだったという。
2023年の12月ごろ、インスタグラムで相手からフォローされ、Aさんがフォローを返すと、そのお礼とともに自己紹介してきた。「自分はイラクに派遣されているアメリカ軍の兵隊で、平和維持活動をしています。とても危険な仕事なので、他言はしないでほしい」という内容だったとAさんは振り返る。

SNSでメッセージを送ってきたのは、自称アメリカ軍の女性兵士。見た目は30代から40代のアジア系の女性で、軍服にはアメリカ国旗が見て取れた。
SNSを通じてやり取りする中で、お互いの個人情報などを交換。女性によると、両親が日本人で自分自身も日本人。幼い頃にアメリカへ移住したものの事故で両親を亡くし、アメリカには頼れる親族がいないということだった。

「自分は非常に怖い」「仲間もここで何人か亡くなっている」「耐えられないから軍隊に退役を申請している」という内容のメールがAさんに届いた。
相手は、ストレスを抱えながら紛争地で働く女性兵士。自分が話し相手になることで気持ちが楽になればと、Aさんは人助けの気持ちでやりとりを始めた。
「危険な場所にいる女性を助けたい」
すると、数日後に「もし許可が下りて軍隊を辞めることができたら、荷物をひとまとめにして送りたい」「日本に知り合いもいないから、荷物を受け取ってほしい」との荷物受取依頼の相談を持ちかけられた。

「危険な場所にいる中で、輸送会社まで届けるには、どうやって届けるのか聞いたら、キャンプに毎日、赤十字社が来ていると。その赤十字社の担当者が信頼のおける人だから、その人にお願いして届けてもらいます」というやり取りがあったという。

SNSで知り合ったばかりの相手を完全には信用しきれていなかったが、危険な場所にいる女性を助けたいという思いで引き受けることにした。
すると次は、運送会社を名乗るアカウントからメッセージが届いた。「その運送会社から『発送しました』という連絡が来て、ついては、お金がかかると言われたんですよ」とAさんは話を続けた。

メッセージに書かれていた請求金額は、日本円で約80万円。さらに、本物のように見える荷物の伝票のような画像も送られてきた。
それを見たAさんは、「そんなにかかるのか?」と一度は詐欺を疑ったというが、一方で「ここで払わなかったら僕の判断で、その人が培ってきたものが全部無くなってしまう」と思い悩んだと話す。
しかし運送会社からは支払日が遅れると延滞料金が発生すると知らされ、考える時間はあまりなかった。

Aさんは高い金額だと思いながらも、「彼女を信用して出さざるを得ないかな」と80万円を振り込んでしまった。
人の良心につけこんでだまし取る
しかし、Aさんはお金のやり取りにおかしな点があったと振り返る。

それは相手が指定してきた振込先だ。口座が海外の口座ではなく、日本の口座だったのだ。また振り込み明細に記されていた振込先は、明らかに日本人の個人名だった。
Aさんは、怪しいと思いながらも冷静な判断ができなかったと当時を振り返る。

お金の払い込みも終わり、イラクにいるという女性兵士からの荷物を待つAさん。すると今度は、「中継地点でお金が発生する」と相手が250万円を要求してきた。荷物が空港を経由するのに追加でお金がかかるというのだ。
この時、半信半疑だった気持ちが、詐欺だと確信に変わった。
「やっぱりだましていたのかなと…。だまされたっていうのが一番、頭にきますよね。せっかく信用してあげたのに…」とAさんは悔いをにじませた。
Aさんが支払いを拒んでいると、相手はさらに違う手段で訴えてきた。

Aさんに送られてきたLINEのメッセージには「荷物を紛失したら自殺するかもしれません。荷物が日本に到着したら倍額で返金することを約束します」など、どうにかしてお金を振り込ませようとする内容が書かれていた。その時には「絶対にウソだ」と確信していたAさん。

「お金もだまされて取られたんやけん。返ってくるなら、いくらでもいいから返ってきてほしい。人の良心につけこんでやるんですから、ひどいですよ」と、Aさんの悔しい気持ちは今も変わらないと話す。
(テレビ西日本)