福岡を代表する人気観光地で見つかった「初代門司駅」関連の遺構。北九州市が記録保存した上で遺構を取り壊し、複合公共施設の建設に着手する方針を示す中、国際機関「イコモス(国際記念物遺跡会議)」は、市に遺構を保存するよう求める緊急の声明文を提出。見直されない場合は警告文を発出するとしている。

貴重な鉄道遺構 保存か取り壊しか

2024年6月27日、世界文化遺産登録の審査などをする国際機関「イコモス」が、北九州市に「初代門司駅」の遺構を保存するよう求める緊急の声明文を提出した。

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北九州市は、JR門司港駅の隣接地に、門司区役所や図書館など7つの施設が入る複合公共施設の建設を計画。そのため2023年に建設予定地の発掘調査を行ったところ、1891年(明治24年)に開業した初代門司駅の駅舎を囲む石垣や赤れんがが積まれた機関車庫の基礎部分などの遺構が見つかった。

研究者らからは「日本の近代化を象徴する貴重な鉄道遺構」として現地保存を求める声が上がったが、6月14日の市議会で、市は追加の発掘調査を行い、記録保存した上で遺構を取り壊し、2024年度中に建設工事に着手する方針を示した。

「記録保存を行った上で事業を進めていく」と語った武内北九州市長
「記録保存を行った上で事業を進めていく」と語った武内北九州市長

北九州市の武内和久市長は市議会終了後、「遺構は“取り壊す”という理解でよいのか」という記者からの質問に、「遺構を“取り壊す”というのがどういう定義か、いろいろな考え方があると思うが、私どもとしては発掘調査、記録保存を丁寧に行った上で、速やかに事業を進めていくということになっていく」と答えた。

記録保存では「努力の結晶残らない」

今回、イコモスの会長名で出された緊急声明では「国史跡にも値する遺構を破壊することは、文化遺産保護政策に反する」と指摘し、「計画を見直して、包括的な保存を優先すること」を求めている。さらにこのまま見直されない場合は「ヘリテージアラート(文化的資産が直面している危機に対して学術的観点から問題を指摘)」と言われる警告文を発出するとしているのだ。

声明文が出された日、北九州市門司区の複合公共施設の建設現場を訪ねると、重機が入った建設予定地周辺では、給排水管の敷設のための掘削工事などが続けられていた。現場では市の学芸員が立ち会い、遺構とみられるものが発見された場合は写真を撮るなど記録保存していくという。

これに対し、イコモス国内委員会の副委員長で九州大学の溝口孝司教授(理論考古学・社会考古学専攻)は、「残念に思っている。記録保存というのは、記録を保存はするが、それによって当然、そこに残された遺構、先人の思考や行動や努力の結晶というものが残るわけではない。物理的には“破壊”になる。これが現地に残されることによって、遺構の価値というのは、維持されるだけではなく、高まっていくというのが文化財の特徴」と遺憾の思いを口にした。

北九州市「計画通り建設進める」

今回建設されるのは、区内に点在している老朽化が進んだ施設を1カ所に集めた利便性の高い複合公共施設だ。

地元住民の意見も「難しい問題。発掘調査もしてほしいし、新しい施設の建設もしてほしいし。でも発掘調査をした方がいいかな」「工事中のままの状態でいるくらいなら、区役所を建てて、いろんな部署が入った方がいい」「場所はすごくいいので、区役所とかが移ってくれたらうれしい」「前の役所もあるし、発掘調査してからでもいいんじゃないのかなというのはあるけど、早く工事をしないとお金がどんどんかかるのかなと思うと…」と複雑なようだ。

北九州市は、テレビ西日本報道部の取材に対し「声明文については内容を確認中」とし、「今後も計画通り建設を進めていく」と回答している。

福岡を代表する人気観光地「門司港レトロ地区」で沸き起こった“遺構”を巡る議論。今後の動きが注目されている。

(テレビ西日本)

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