住人:いきなり2倍というのはとても生活がとても維持できなくなる金額にはなります」
住人:言い方悪いけど、“地上げ”かなぁって」
住人:幸せを奪っているなって感じですね」
住民が困惑するのは、突然通知された家賃の値上げ。
大阪・日本橋の複数のマンションで今、似たようなケースが起きているとの情報も。
不動産会社の社員:ここも『(家賃が)倍(になる)』って言われたんですよね。うまいこと追い出すような持って行き方をしてるんやなぁって。
そこまでする理由、それは…。
管理会社:半年後に民泊になって、めちゃくちゃうるさいとなって、出たいとなったとしても…。
住人:ぶっちゃけ、ここは最終的に民泊化するって感じですか。
管理会社:そうですね。
「民泊」。インバウンド客が回復してきた今、大阪の街で何が起きているのかを取材した。
■突然の値上げ通告に「地上げ?」「詐欺?」
この記事の画像(11枚)大阪・日本橋にある築35年の賃貸マンションA。1階から3階は駐車場やテナントが入り、4階以上におよそ40部屋がある。
今年3月、住人らの元にある通知が届いた。差出人は管理会社Xだ。
管理会社からの通知:オーナーさまの意向により、6月1日分から家賃を改めさせていただきます。
4階から9階 18万円。10階 35万円。
5月末までに退去されるのであれば、近隣の物件のご紹介を考えております。
一方的な家賃の値上げ通告だった。
5年前から家族4人でこのマンションに住む加藤さん(仮名)。
およそ55平方メートル、3DKの部屋は、9万円ほどだった家賃が突然、2倍になることに困惑している。
入居5年 加藤さん(仮名):自分の収入を考えた上で今の家賃の部屋に引っ越したというのもあるので、いきなり2倍というのは、生活がとても維持できなくなる金額になります。
Q.なぜ家賃が上がるのでしょうか。
入居5年 加藤さん(仮名):オーナーの意向で家賃を変えますという風に伺っています。
住民によると、マンションAは、今年2月に管理会社が変わり、通知はそのわずか1カ月後のこと。
納得がいかない加藤さんが、管理会社Xに説明を求めても…。
入居5年 加藤さん(仮名):(住人向けの)説明会はなんでしないのでしょうか。
管理会社:説明会はなぜしないかというのは、特に理由はないです。
入居5年 加藤さん(仮名):なんで家賃が約2倍近くになるかというのはオーナーから理由はありますか。
管理会社:そこは確認させてもらいます。
入居5年 加藤さん(仮名):家賃がもし支払えないとなったら、オーナーさんと相談も何もできないまま出て行くしかないのでしょうか。
管理会社:それはそうですね。出て行くしかないかどうかは加藤さんが考えられた方がいいと思う。
木で鼻をくくったような対応…。
同じような条件の周辺物件を不動産情報サイトで調べてみると、相場は10万円程度。これまでの家賃が妥当なようだ。
こうした事態に困惑しているのは、加藤さんだけではない。
入居13年の住人:言い方悪いけど、“地上げ”かなぁというのも考えました。納得はしないです。何も理由はなかったので。
入居5年の住人:最初は詐欺か何かなのかなと。正当な話とはちょっと思えなかったです。この管理会社やオーナーの元にいたら、今後どんなトラブルがあるか分からないなと。まぁ態度が悪くて、悪びれる様子ももちろんないし。
■引っ越しを決めた住人 そこで分かったのは…
トラブルを恐れて、引っ越すことを決断した人も。
周辺には、ファミリー向けのマンションが少ないため、子育て中の山田さん(仮名)は、引っ越し先を見つけるのも一苦労だった。
入居5年 山田さん(仮名):小学校、中学校が変わってしまうので、そこも調べなきゃいけなくて。なんでこんな思いしなきゃいけないのかというのが一番ですよね。これだけのマンションの住民の幸せは奪っているので、そこはちょっと許せないですね。
山田さんは退去することを決めたからか、管理会社Xから、本当の理由らしきことが告げられていた。
管理会社:住みにくくなる物件かなというのは事細かに(住人に言っている)。今出られたら全ての(引っ越しにかかわる)費用を負担させていただくんですけど、半年後に“民泊”になって、めちゃくちゃうるさいとなって、出たいとなっても期間を過ぎてるので(負担できない)。
入居5年 山田さん(仮名):ぶっちゃけ、ここは最終的に民泊化する感じですか。
管理会社:そうですね。夏ぐらいにはスタートするとは思います。
空いた部屋から民泊として運用する。そのために入居者に出ていってほしいというのが本当の理由のようだ。
マンションに姿を見せた担当者を直撃すると…。
Q.管理会社の○○さんですよね。
管理会社:そうです、そうです。
Q.家賃が…。
管理会社:あ、ちょっともう予定があるんですよ。すみません。
Q.1分だけでも…。
自転車に乗り、走り去っていった。
そして、電話で取材を試みると…。
管理会社:うち関係なくなったんですよ、あの物件。
Q.関係ないことはないんじゃないですか?今も管理会社なので。
管理会社:関係なくなったんです、ついさっき。
Q.ついさっき?
管理会社:そうなんですよ。解任されたんですよ、今さっき。うち主導で一任されてやってたことだったので、オーナーさんは全く分からない状態で、怒られたんですよね、うち。
Q.住人には「オーナーの意向でやっている」と言っていませんでしたか?
管理会社:とにかくもう関係なくなったんで。すいません。
オーナーには無断で話を進めていたため、管理業務を解任されたと主張。
オーナー:(管理会社の)○○さんが勝手に家賃上げとかいろいろやっていたんですけど、うちは後から分かって『(値上げを)やめてください』といって、多分今やめていると思うんですけど。
マンションオーナーの会社も、「管理会社が勝手にやったこと」と説明したが、住人らによると、管理会社の男性は現在も、住人と家賃の値上げや退去についての交渉窓口を続けているそうだ。
■なぜ民泊にこだわる? 賃料の値上げは法的には…
“令和の地上げ屋”ともいえる、突然の家賃値上げ通告。
なぜ、そこまで民泊にこだわるのだろうか。日本橋界隈の事情に詳しい不動産業者に話を聞くと…。
日本橋に詳しい不動産業者:あそこも“民泊可”で募集が出てます。オーナーもそれでもうかるだろうと、民泊(業者を)募集していますね。賃料を倍ぐらいにして。
Q.普通に賃貸マンションを経営するより民泊の方がもうかる?
日本橋に詳しい不動産業者:もちろんそうです。1泊、1部屋1万、下手したら2万とか取れるわけで、月6万ぐらいで貸してるよりは全然もうけが出る。コロナになってから、いったん波は収まったんですけど、コロナ明けるちょっと前くらいから、どうせ観光客が来るからというので増えてきました。この辺、一帯が『(民泊)特区』なので。
住居として貸すより民泊業者に貸す方が、利益が出るという現実。大阪市は、民泊の「国家戦略特区」になっていて、新規参入がしやすいのだ。
そして、外国人に人気の黒門市場の近く、つまり日本橋周辺は特に民泊の需要が高いエリア。そのためか、マンションAと同じようなことが起きているという。
不動産業者は、目の前にあるマンションを指して…。
日本橋に詳しい不動産業者:ここなんかも、まさしく民泊運用をするのに『出て行ってくれ』と。僕のお客さんが住んでいたんですけど、『転居先の契約は来週する』と言ってました。
Q.家賃はいくら上がるのですか?
日本橋に詳しい不動産業者:ここも倍と言われたと。
Q.倍にするような…。
日本橋に詳しい不動産業者:物件ではないですよね。
教えてもらったマンションを調べてみると、ここも管理会社は「X」。すでにリフォーム工事が始まっていた。
そこにいた男性に声をかけてみると…。
Q.こちらの方ですか?
リフォーム会社を名乗る男性:そう。
Q.ここは民泊になるのですか?
リフォーム会社を名乗る男性:うちはリフォームしか聞いていない。
Q.リフォーム会社の方ですか?
リフォーム会社を名乗る男性:はい。
ここもいずれ民泊になるのか…。
納得できないまま、住人たちは値上げに従うか、退去するかのどちらかを選ばないといけないのだろうか?
不動産関係の訴訟にも詳しい亀井正貴弁護士は…。
亀井正貴弁護士:賃料の値上げについては、当事者の合意があって初めて成立するので、拒否したらそれでおしまいの話であって、それに従う義務はないです。(契約)解除するには正当な理由が必要なんですね。その正当な理由のハードルは結構高いです。
値上げは有効ではなく、正当な理由がなければ、退去の必要もないとのこと。
インバウンド客が回復して民泊が増加する一方で、人々の生活が脅かされているとしたら、本末転倒ではないだろうか。
(関西テレビ「newsランナー」2024年6月6日放送)