再開発が進む福岡。新しいランドマークの完成が待ち遠しい一方、街では静かに姿を消す店もある。中でも書店は、福岡の60市町村のうち19の自治体で0店舗、1店舗のみという自治体は11に上る。生き残りを模索する“町の本屋さん”を取材した。

“町の本屋さん”売り上げは3分の1

「信号を渡って左、ビルがあるでしょう。その1階に本屋さんがあった。それと六本松(福岡市中央区)の向こうの交差点のところにも1つ。それから近くのスーパーに1つ。今ね3つ、この辺だけでなくなった。競争相手がいなくなってもバンザイじゃない。競争相手がいるから(商売も)強くなる」と話すのは、福岡市中央区にある「金修堂書店」のオーナー・安永寛さんだ。

この記事の画像(12枚)

1966年に開店した金修堂は、半世紀以上、ほとんど姿を変えず地域の人に愛される“町の本屋さん”として営業を続けてきた。

開店当時の「金修堂書店」
開店当時の「金修堂書店」

安永さんは「来店客数が減った。極端に減った。売り上げが3分の1くらい。当時の、良い時の。半分じゃないよ、3分の1だよ」と苦笑いを浮かべる。今、この店もまた、来店客の減少に悩まされているのだ。

「個性をつけないといかん」

町の書店が次々と姿を消している理由は、スマホ1つで手軽に読むことができる電子書籍や、注文した本が次の日には手元に届くネット通販の普及だ。

ここ20年の書店数を見ると、2003年には全国に2万軒以上の書店があったが、20年間で半分近くに減少している。全国1741市区町村のうち、書店が1店舗もない自治体は2024年3月末で482市町村になる。福岡県でも60市町村のうち、19の自治体で“書店ゼロ”だ。“1店舗のみ”という自治体も11に上る。

福岡市中央区の六本松地区は、2009年まで九州大学のキャンパスの一部があり、金修堂には多くの学生が出入りしていたという。

九州大学移転後は、跡地に移転してきた裁判所が近いという特徴を生かして、裁判官や弁護士のための実務書などを充実させ、固定客をつかむことで営業を続けられているという。
また今後、店内での読み聞かせイベントなどを企画している。

安永さんは、「『どの本屋を見ても同じものが並んでいる』という言われ方をするから、やっぱり特徴をつけないといかんね。個性をつけないといかん。それを各店舗が変えないといかんと思うよ」と話す。

金修堂の模索はまだまだ続きそうだ。

インフルエンサーが目を付けたワケ

書店にも個性と特徴が必要な時代になっている。

2024年4月、福岡市博多区に1軒の書店がオープンした。天井高く積み上げられた本の山に、レトロなラジカセがディスプレーとして置かれている。昭和の雑貨店に来たかのような雰囲気の中、出迎えてくれたのは「ふるほん住吉」の店主・山田孝之さんだ。

「テーマパークあるある。待ち時間が長すぎてもう話すことがない」など、ユーモアを交えた浮世絵風のイラストで“あるある”ネタを発信する山田さん。インスタグラムのフォロワーが100万人を超える人気イラストレーターだ。

時代の最先端で活躍するインフルエンサーが、なぜ今の時代に書店を開いたのか。

山田さんは、AI(人工知能)の進化によってイラストの仕事が誰でも簡単にできるような状態になってきていることに危機感を感じ、今のAIには難しいと考える“実際の空間を作る”ということに目を付けたという。

「本屋さんという空間に行って空間を楽しむとか表紙を楽しむとか、そういう需要はあるので、今後もそういう感じの流れは来ると思う」と話す山田さん。“AIにはできないこと”としてたどり着いたのが書店だ。

書店に求められる“新たなカタチ”

“いるだけでワクワクする”そんな書店を目指し、山田さんはまずディスプレーに力を入れている。

店内には、なかなか手に入りにくい絶版の書籍のほか、昭和20年代に発刊された雑誌など1万5000冊以上が並べられている。

小倉城の横にジェットコースターがあった時代のものなど、古い絵はがきも置いている。
山田さんは、「『懐かしい』って見られる方もいらっしゃいますし、僕のようにこの世代を知らない世代は発見があったりですね、いろんな楽しみ方があります」と話した。

ふるほん住吉の来店客数は、平日は100人、休日は300人ほどで、1人の店の滞在時間が長く、1時間くらいいることもあるという。

「仕事が終わったらここに来るようにしている。良いのがあったら買おうかなって」と話す来店客や、「ディスプレーとかかわいくて、駄菓子屋さんに来たみたい。昔、子どもの頃に読んだ本とかあってすごく懐かしい、うれしかったです。また読んでみようかな」と話す来店客など、固定客も付きつつあるようだ。

“町の本屋さん”が次々に消える中、求められる新たなカタチとは何なのか。

山田さんは「ネットとかAIでは見つけられたなかったり、楽しめなかったりするようなものを提供できる場所になればと思って。情報をただ得るだけじゃなくて、こういう空間を楽しんだり、今風にいうとエモい感覚みたいなものを味わえるような場所とかですね、そういったものが求められているのかなと思います」と語った。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
テレビ西日本

山口・福岡の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。