集合住宅で隣人の男性に暴行を加え死亡させた罪などに問われている男の裁判員裁判で、男に懲役12年の判決が言い渡された。
楠本大樹被告(34)は、2022年、堺市中区の集合住宅で、隣人の唐田健也さん(当時63)に対する6件の暴行罪と、傷害致死罪に問われている。
■「人が死ぬような力を加えて殴ったことはない」

楠本被告は裁判で、拳で腹を殴るなどの常習的な暴行については認めたものの、傷害致死罪については「人が死ぬような力を加えて殴ったことはない」と起訴内容を否認。
一方で、死亡した唐田さんを見た際には「僕が暴行してお亡くなりになったのかもしれないと思いました」と、自らの暴行で死亡したことを認識していたととれる証言をしている。
■生活保護受給者でともに1人暮らしだった2人 和歌山へ一緒に旅行も

親子ほども年の離れた2人の間に何があったのか。
2人が出会ったのは、事件の約1カ月前の2022年10月。楠本被告が、自分の住む集合住宅の玄関で寝ていた唐田さんを警察に通報したのがきっかけで、このとき隣人同士であることを知り、その後、親しくなっていったという。
2人は生活保護を受けていて、ともに1人暮らし。互いの部屋を行き来するほか、レンタカーを借りて和歌山へ泊りがけで出かけることもあった。
■暴力を加えるようになった被告
楠本被告は、しだいに唐田さんに対し意思疎通の難しさを感じるようになったといい、些細なことでイライラして、暴行を加えるようになったという。また、唐田さんが自分のスマートフォンに傷をつけたなどさまざまな理由をつけて、生活保護費から弁済するよう要求し、誓約書も作成していた。
■「老人ホームに入れるべき。無理なら入院がいい」区役所職員にお節介な一面も見せる

しかし一方で、唐田さんが失禁した際に一緒に替えのズボンを買いに行ったり、シャワーを浴びさせたりするなど世話をし、区役所の担当者に「1人暮らしは無理なので老人ホームに入れるべきだ。無理なら入院がいいのではないか」と、何度もかけあっていた一面もある。
この時、対応した職員は、楠本被告の印象について「妙に熱いところがある。そこまで人のことにお節介しなくてもいいのに」と感じたという。
■「好きでもなく、嫌いでもなく、見捨てられない人だった」
2人は何を思いながら行動をともにしていたのだろうか。
唐田さんの思いを知るすべはないが、楠本被告は拘置所で記者に当時の唐田さんに対する気持ちを次のように語った。
楠本被告:放っていけないという一面があって、好きでもなく、嫌いでもなく、見捨てられない人でした。
-Q.放っておけないというのはなぜ?
楠本被告:自分でもわからないです。ただ、1人にすると何をするかわからないし、早く関係を断ち切りたかったけど、一緒にいる間は面倒を見ようと思っていました。僕がやったことでお亡くなりになったのであれば、とても申し訳なく思っています。
■ボクシング練習生だった被告 被害者は30カ所骨折 折れた骨が肺に刺さったことが原因で死亡と解剖医
事件当時、楠本被告は練習生としてボクシングジムに通っていた。楠本被告が「6~7割の力」と表現する拳が、唐田さんにとってはどれほどの苦痛を伴ったのか。
唐田さんの死因は、両肺がしぼんでしまう「両側緊張性気胸」だった。解剖した医師らは、肋骨が30カ所ほども折れていて、折れた骨が肺に刺さったことが原因だと説明した。
■「被害者はサンドバッグのように扱われ亡くなった」と検察側
検察側は、「ボクシングの練習生だったことを考えると楠本被告の暴行は危険なもので、唐田さんは楠本被告からサンドバッグのように扱われ、凄まじい痛みと苦しみを感じながら亡くなった」として、懲役14年を求刑。
一方、弁護側は「楠本被告には軽度知的障害があり感情をコントールしにくく、事件当日の暴行も加減ができずやりすぎた」などとして、懲役8年程度がふさわしいと主張した。
■「交通事故などでしかできないほどのケガ」懲役12年の判決
5日の判決で大阪地裁堺支部(藤原美弥子裁判長)は、「唐田さんが死亡した当時、暴行を加えられたのは証拠から被告だけで、死亡につながったケガは交通事故などでしかできないほどのもの」と指摘、傷害致死罪が成立すると判断した。
そのうえで「凶器を使っていないとしても極めて悪質な犯行で、刑事責任は重い」などとして、懲役12年の判決を言い渡した。
裁判長は最後に、楠本被告に対して「裁判に、あなたなりに真剣に向き合ったと感じています。唐田さんを死亡させたことをもっともっと反省してください」と述べた。
■暴行を黙殺した区役所職員も懲戒処分
この事件をめぐっては、区役所職員も楠本被告による唐田さんへの暴行を目撃していながら警察に通報せず、堺市が「職員が毅然と対応していれば死亡は防げた」とする検証結果を公表。楠本被告に不正に生活保護費を支給した背任罪で略式命令を受けた当時の係長が免職、3人の職員が停職などの懲戒処分を受けている。
(関西テレビ 司法担当 藤田裕介、菊谷雅美 2024年6月5日)