いまアメリカ・サンフランシスコで、革新的な教育を行っていると世界が注目している中学校が、「ミレニアム・スクール」だ。
この学校は、日本が学校教育への導入を検討しているプロジェクト学習を、本格的に実践している。
ミレニアム・スクールの創設者であり校長のクリス・バーム氏が先月来日し、教育関係者と意見交換を行った。
公教育とは違う学びの場を…
「Choice(選択)とVoice(声)です」
ミートアップの冒頭、クリス氏は「ミレニアム・スクールでは生徒にこの2つを求めている」と語った。Choiceは自ら選ぶこと、Voiceは声に出して主張することだ。
なのでこの会も、参加者がこの場に何を求めているか表明することからスタートした。
クリス氏は中学生の頃、学校が「しっくりこない」ことがあったという。
その経験から、いまを生きる中学生に対して、公教育とは違った学びの場を与えたいと考えた。
学校創設に向けてクリス氏は、3年にわたって脳科学者や教育専門家の意見を聞いて回った。
そして、脳科学に基づいて創設したのが、ミレニアム・スクールだ。
11歳から14歳は、精神的にも肉体的にも最も変わる時期だ。
この学校では、社会に貢献できる良き市民になることを目指して、認知能力だけでなく、非認知能力を高める教育を行う。
中学生は3つの「Quest(問いかけ)」が生まれる時期だとクリス氏はいう。
「まず、『私は誰なのか?』、そして『他者との関係をどうつくるか?』、3つ目は『どうやって実社会に貢献できるか?』だ」

こうした問いかけに応えるために、ミレニアム・スクールでは、SEL(ソーシャル・エモーショナル・ラーニング)を行い、IQと同時にEQを高めることを重視している。
教科を教える授業はカリキュラムの4分の1程度で、あとは、プロジェクト学習などだ。
6週間のサイクルで年間行われる学習では、2つのテーマを設定して、生徒がとことんリサーチ、議論してその答えを導き出す。
たとえば、「デザイナーベイビーはいいのか悪いのか」というテーマを、倫理と科学の見地から検証する。設定されるテーマは、タイムリーで社会性のあるものだという。
最後のプレゼンの際には、先生や親だけでなく、テーマに合わせた専門家も入れる。先生や親は主観的になりやすく、専門家がいると生徒のモチベーションにつながるのだ。
毎水曜日は授業が無く、生徒が8人ずつグループを作って、お互いの感情を出し合う。グループはフォーラムと呼ばれ、3年間先生、生徒ともにメンバーを変えず、安心した環境を作り出す。

また、マインドフルネスや瞑想も行い、自分の中心に問いかける時間を作る。
社会との接点も重視し、生徒が親たちの職場などに出向いて、働くことを学ぶ。
生徒を導く役となる先生に求められるのは、「3つのM」(クリス氏)だ。
「Modeling」、共感できる大人になること。 「Mirror」、子どもの感情を受けとめ返すこと。そして「Mentoring」、もっと挑戦できると励ますこと。
生徒を受け入れる際のポリシーは、「多様性」だ。
幅広い所得層に入学してもらうため、所得の低い家庭の子どもは授業料が大きく優遇される。
また、「ADHD(多動性障害)やディスレクシア(識字障害)、IQが高い子どもまで、様々な生徒がいる」(クリス氏)という。
まだ日本ではなじみの薄いプロジェクト学習だが、一部の学校では積極的に取り入れ始めた。
ミレニアム・スクールは、新たな学習方法を模索する日本の教育現場にとってよい参考事例となるだろう。
